ミステリーSS集

雪の降る夜に

２

スミスは、使用人たちに厩舎の見張りを言い付けた。
 使用人達に交じって、スミスとメイも息を殺し、持ち場に着いていた。



やがて、日が暮れると、メイの予想通りに怪しい者が厩舎に近付いて来た。
 背の高さからして、その者は男性だろうと推測された。
 深くフードをかぶっているため、顔は全く見えない。
 足首まである長いローブを身にまとっていた。
 男は周りを見回しながら、こっそりと厩舎に足を踏み入れた。



 使用人たちは、スミスの合図で厩舎に近付いた。

 「良いか、私が呼んだらすぐにお前たちも来るのだぞ！」

スミスが小声で指示を出す。



 「はい、ご主人様！」



スミスは、厩舎の中へ入って行った。
その後に娘のメイも続く。



 男は、白馬に何事かを囁いているように見えた。



 「そこで何をしている！」

 「あっ！」

 振り向いた男は、慌てた様子で馬にまたがり、スミスたちの横をすり抜け、厩舎の外に出て行った。



 「逃がすな！」

 待ち構えていた使用人たちが男を捕らえようとしたが、男は器用に馬を操り、使用人たちの間をすり抜けていく。



 「ああっ！」

それだけではない。
なんと馬は、粉雪の舞い散る夜空に向かって飛び上がったのだ。
 使用人たちは、あぜんとしてその様子を見上げていた。



スミスは、男に向かって弓を放った。
 弓は、男の右腕をかすめたが、馬はどんどん高く飛び、やがて小さな点となり、見えなくなった。



 「信じられん…馬が空を飛ぶなんて…」

 「ええ…本当に。夢みたいです。」

スミスとメイは、放心したような顔で、いつまでも夜空を見上げていた。