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道案内

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都会とは違い、一番近い民家でさえ、けっこう遠い。
しかも、ここは私とは縁も所縁もない他人の家…
そんな環境の中に置き去りにされたのだから。



 (一緒に行けば良かったな。)



 町までは確か四十分くらいかかったはずだ。
って事は、二時間くらいしたら帰って来るかな…



(二時間なんてあっという間だよ。)



とはいえ、なんとなくお屋敷の中には入る気になれなくて、私はあたりを散歩することにした。
 山の方へゆっくりと歩いてるうち、私はある事を思いついた。
それは山菜のこと。
 私も山菜に詳しいわけじゃないけど、少しくらいはわかるから、冬子が帰って来る前に
山菜を採っておこうと思ったのだ。
 走ってお屋敷に引き返し、レジ袋を持ち出した。
これに一杯の山菜を採って来よう!
 冬子の驚いた顔を想像したら、山に向かう足取りも自然と早くなっていた。




 「あった、あった!」

 山の中をしばらく進んだら、山菜があちこちでみつかった。
 持って来たレジ袋はどんどん膨らみ、すでに口までいっぱいだ。



(冬子、きっと驚くだろうな。)



 見たことのない花や鳥の声に誘われて、私はいつの間にかずいぶん奥の方まで進んでいた。



 (おかしいなぁ…確かこっちだと思ったのに…)



 帰り道がわからない。
まさか、迷子になった?
そう思ったら、急に不安になった。



 携帯を持って来なかったのは失敗だった。
 時間もわからないし、冬子と連絡も取れない。
 空を見れば、さっきより明らかに暗くなっている。
そのことが私の不安に拍車をかけた。



(どうしよう…?)



 今にも零れ落ちそうになる涙をこらえ、私はひたすらそのあたりを歩き回ったけれど、やっぱりまるでわからない。



あまりの心細さに、私は思わずしゃがみこみ肩を震わせた。



その時、不意に声がした。



 「……迷ったの?」

振り返ると、そこには若い男が立っていた。
 私は慌てて涙を拭い、立ち上がる。



 「あ…はい…
で、でも、友達が近くにいますから。」

 男性はすごく優しそうで悪い人には思えなかったけど、人は見かけによらないっていう。

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