その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

文字の大きさ
114 / 160

トーリとコタ②

しおりを挟む
トーリという青年に違和感を感じていると家の奥の方からトーリを呼ぶ声がした。

「トーリ。その人はコタくんの舎弟のミドリくんだよ。僕が対応するからお茶を淹れて来てくれないかい?」

やぁ、久しぶり。とにっこりと笑みを浮かべて台所からガウェインさんが出てきた。ヒラヒラと手を振り、スッとその手をいつも大事に持っている剣の柄に触れた。

それを目にした途端、さっきまで元気だったトーリが眉を八の字に下げ、ギュッとガウェインさんの腕にくっ付いた。

「どうしたんだい、トーリ?ちょっと込み合った話になるからねぇ。お茶淹れた後はトーリはお菓子でも食べて待ってて欲しいねぇ。」

そう困った顔でトーリの頭を撫でて、諭すがトーリは首を横に振り、決してガウェインさんから離れない。

「突如来たイヤイヤ期…。」

「ガウェインさん。彼は一体…。あのッ、コタは来ていないんですかね。」

「うん…。話せる限りは話すよ。トーリにはあまり聴かせたくない話なんだけどねぇ。」

「…コタに何かあったんですか。」

何時もの笑顔には何処か陰りがあり、家の雰囲気からしてコタが居ないのは明白だった。『話せる限り話す。』その言葉から察するに、コタの居場所をガウェインさんは知っている。そしてそれはあまりいい話ではないのだろう。



結局、離れなかったトーリを連れて、台所でガウェインさんがお茶を用意している。ちょっと待っててと通されたリビングで椅子に座ったはいいものの落ち着かず、窓から空を見上げた。

空は青く澄み切っていて、コタが好きそうな晴れ模様。
コタは喧嘩の後に空を眺めるのが好きだった。天を仰いで、喧嘩で熱くなった身体を冷ますように吹く風に身を任せて。フッと清々しく微笑む姿は見ていて心地良かった。

想い出に耽っているとクイクイッと袖を引かれて、振り向く。するとガウェインさんにベッタリだったトーリがお菓子を手に持ったままじっとこちらを見ていた。

その目は私の頭の先から爪先までじっくり見て、こてんと首を傾げた。何も発しない口から何度も『みどり…。みどり?』と何かを考えるように私の名を呟く。

この青年は本当に何者なのだろう。
ガウェインさんの態度からしてガウェインさんにとって大切な相手…という事は伺えるが…。

「えーと。私に何かようでしょうか?」

『コタの…ミドリ?』

「君もコタを知ってるんですか?」

『ともだち。大事。』

「そうですか。お友達…。なら、私もトーリの友達になってもいいですか?」

『うん。いいよ。』

そう答えるとトーリは持っていたお菓子を私にくれて、隣に座った。どうやら席を外す気は一切ないようでお菓子を食べてパタパタと足を遊ばせて楽しそうに笑う。

「ガウェインさんとはどういう関係なんですか?」

『ほっとけない人。トリスタンの代わりにぼくが来たの。ずっと寂しいって呼んでたから、ずっと気になってたの。』

「?…それは…どういう…。」

「お茶入ったよ、ミドリくん。」

トーリの話に首を傾げているとハーブの香りを漂わせて、ガウェインさんが席に座る。少し黄色がかったハーブティーが白いカップに注がれて湯気が立ち込める。トーリのお茶にはたっぷりの蜂蜜が入っていて、トーリは嬉しそうに音のしない鼻歌を歌い、ガウェインさんの隣に移動した。

そんなトーリに慈愛の眼差しを向けて、頭をひと撫でするとガウェインさんは一口お茶を口にした。

「単刀直入に言うとコタくんは帰ったよ。主人の元に。」

その言葉に一気に血の気が引き、ガタンッとテーブルにお茶が置いてあるのも忘れて立ち上がる。

「どうして…、アイツが…。まさか、アイツが攫って行ったんですかッ。」

「ッ!!……ッッ!!?」

「落ち着いてミドリくん。トーリが怖がってる。」

「ご…ごめんなさい。ですが…。」

「…確かに来たけど、コタくんの意志でもあった。自分で問題を解決しようとしたんだねぇ。」

「い、意志も何もッ…。一度アイツに捕まれば待っているのは隷属です。コタの意志も自由も全て奪われてただ奴の言いなりになってしまうだけじゃないですかっ…。なんで…。」

「なんで止めてくれなかったんですか。」とガウェインさんを責めそうになり、はたと先程の白龍様とのやり取りを思い出し、言いたい事を飲み込む。

そうだ。それはただの八つ当たりだ。
コタがアイツの元に行ってしまったのはガウェインさんの所為じゃない。コタの判断で、私の失態。

フッと飲み込んだ憤りを息とともに吐き出し、椅子に着席する。そもそも何故、コタがアイツの所に行こうという思考に至ったののだろう。態とガウェインさんも私もその話題からコタを遠ざけていたというのに…。

「……君が話した訳じゃないんだねぇ。」

「当たり前です。元より別の形で決着をつけるつもりでしたから。…はぁ。私の部下の誰かから聞いたのでしょうか?」

「真相はコタくんとその教えた者の胸の中だねぇ。」

「…そうですね。」

大切なのは誰がコタに教えたかではない。
これからどうするべきかという話だ。

頬杖をつき、こちらを観察するガウェインさんの姿から察するにガウェインさんはもう手を貸してくれない。

全てを投げ打ってでもアイツの所に突撃すべきかと考えて、それはダメだと考え直す。


人族の国プロイには魔王避けの強力な結界が張られている。そしてその結界が展開されている中心は王城であり、その結界の中心に行けば行く程魔王は弱体化する。

そして勇者アイツは腐っても王族だ。
王族である奴は勿論、王城の中に住んでいる。つまり、必然的にコタが捕まっている場所は王城。

コタを助けに弱った状態で行っても人族の兵士達何千人と勇者相手に健闘出来るかと言われれば無茶通り越して不可能。コタも助けられずにただの無駄死に。その上、コタを戦闘に出されてしまえばこちらは手を出せない。

ー 戦争が始まるまで待つしかないのか?

確実に勇者を人族の国プロイから引き摺り出すには魔族の国ヴラディアに進軍したその時。元よりそのつもりではいたが…。

ー コタと殺し合うなんて出来ないっ…。

やはり、召喚獣であるコタは戦闘に引き摺り出されてしまうだろう。人族にとって召喚獣は武器だ。戦争で武器を使わず向かってくるものなんていない。


「どうすれば…。」と、八方塞がりの状態にくしゃりと前髪を掴み頭を抱える。するとその手をタコだらけの手が優しく握る。

顔を上げればニッコリと何処までも優しく微笑むトーリがパクパクと声の出ぬ口を懸命に動かした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...