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小さな紙切れ②
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「アルちゃん。これでも私は彼に感謝してるんだよ。君は彼と関わった事で随分と変わったみたいだから。…まぁ、君自身はその変化に気付いてないみたいだけどね。」
何時の間にかに副師長から回収した短剣を見て、「私なりの慈悲だったんだけどね。」とボヤいて懐にしまい、そして一枚の紙を取り出した。
そこにはミミズが走ったような文字で『エードラム教に気を許すな』と書いてある。
「そんなに助けたいなら明日、侵入してくるであろう暗殺者から情報を得るしかないよねー。」
何時の間にか何時も通りのニコニコとした顔に戻った宰相。その顔はとても胡散臭く、オレを利用する気満々だ。
もしかするとハナからオレを利用する為にここに来たのかもしれない。だが、今はそんな事どうでもいい。
弱々しくもそれでもオレを求めて握り返してくる手。
つい先程まであの美しい星の海を映していたあの瞳は閉じられ、何処か嬉しそうにオレが付けた痕を眺め、桃色に染まっていた頰は青白くなってしまっている。
あれ程、元気だったというのに今にもオレの手が届かない場所に行ってしまいそうだ。
ー 嫌だな、それは。
楽しそうにカラカラと煩く笑う声も。優しく微笑む顔も。ホロホロと幸せそうに泣く姿も。あの瞳が映す世界も全て失いたくない。
この感情が何かオレは未だに分からない。
何故、こんなにも失いたくないと、手放したくないと思うのか分からない。
「俺は何をすれば良い? 」
どうすれば失わずに済む。
どうすれば手放さずに済む。
そう宰相に問えば、宰相は嬉しそうに何かを懐かしむようにオレをミミズが走ったような文字が書かれた紙をオレの手に握らせた。
「いじらしいよね。本当に暗殺者には向いてないタイプだよ、君のお嫁さんは。」
◇
「何がいじらしいだ。阿呆なだけだろ。」
そもそも何故そこまで死に突き進むのか意味が分からない。
暗殺が失敗して裏切り者認定されたのであれば、大人しく帝国に情報を提供する事で自身の身の安全を交渉する手もあった筈だ。
ー 何故、足掻かない?
頭にくる程、諦めが早過ぎる。
ー いっその事、本当に閉じ込めてしまうか?
そもそも自由にさせていたのは自然のままのシグリを観察して、琥珀の瞳を研究する為だ。死なれるくらいなら部屋に軟禁してしまった方がマシだ。いや、マシどころか、実行すればあの騎士にも会う事もなくなり、腹が立つ事もなくなるかもしれない。
まぁ、それも結局はシグリの中に蔓延るあの厄介な黒い靄をどうにかしなければ意味がないが…。
ー さっさと見つけて、泳がせば良いんだろ。
口から溢れそうになった溜息を飲み込み、監視の魔術を仕込んでいく。
「貴方が宮廷魔術師長のアルトワルト様? 」
ふと、何処かで聞いたような声が鼓膜を揺らし、振り返った。
そこには一人の育ちの良さそうな少年がキラキラと目を輝かせてこちらを見ていた。絹のような髪にクリクリと大きな紅茶色の瞳の少年。
ー 誰だ?
この少年の声が何処かで聞いた事があったような気がするが、顔に見覚えは一切ない。
暫く、誰だと観察していたら少年はモジモジと恥じらいの表情を浮かべて、宰相と話をしていたフィールの大臣の背後に隠れた。
「ミラン。隠れてないできちんと挨拶しなさい。お前は今、国を背負ってここにいるのだから。」
「御免なさい、父上。」
フィールの大臣に窘められ、おずおずと大臣の背後から出てくると緊張で汗ばんだ手をオレに差し出してはにかんだ。
「お初にお目にかかります。フィール王国、外務大臣アンセル・エルンストの息子のミランと申します。」
何時の間にかに副師長から回収した短剣を見て、「私なりの慈悲だったんだけどね。」とボヤいて懐にしまい、そして一枚の紙を取り出した。
そこにはミミズが走ったような文字で『エードラム教に気を許すな』と書いてある。
「そんなに助けたいなら明日、侵入してくるであろう暗殺者から情報を得るしかないよねー。」
何時の間にか何時も通りのニコニコとした顔に戻った宰相。その顔はとても胡散臭く、オレを利用する気満々だ。
もしかするとハナからオレを利用する為にここに来たのかもしれない。だが、今はそんな事どうでもいい。
弱々しくもそれでもオレを求めて握り返してくる手。
つい先程まであの美しい星の海を映していたあの瞳は閉じられ、何処か嬉しそうにオレが付けた痕を眺め、桃色に染まっていた頰は青白くなってしまっている。
あれ程、元気だったというのに今にもオレの手が届かない場所に行ってしまいそうだ。
ー 嫌だな、それは。
楽しそうにカラカラと煩く笑う声も。優しく微笑む顔も。ホロホロと幸せそうに泣く姿も。あの瞳が映す世界も全て失いたくない。
この感情が何かオレは未だに分からない。
何故、こんなにも失いたくないと、手放したくないと思うのか分からない。
「俺は何をすれば良い? 」
どうすれば失わずに済む。
どうすれば手放さずに済む。
そう宰相に問えば、宰相は嬉しそうに何かを懐かしむようにオレをミミズが走ったような文字が書かれた紙をオレの手に握らせた。
「いじらしいよね。本当に暗殺者には向いてないタイプだよ、君のお嫁さんは。」
◇
「何がいじらしいだ。阿呆なだけだろ。」
そもそも何故そこまで死に突き進むのか意味が分からない。
暗殺が失敗して裏切り者認定されたのであれば、大人しく帝国に情報を提供する事で自身の身の安全を交渉する手もあった筈だ。
ー 何故、足掻かない?
頭にくる程、諦めが早過ぎる。
ー いっその事、本当に閉じ込めてしまうか?
そもそも自由にさせていたのは自然のままのシグリを観察して、琥珀の瞳を研究する為だ。死なれるくらいなら部屋に軟禁してしまった方がマシだ。いや、マシどころか、実行すればあの騎士にも会う事もなくなり、腹が立つ事もなくなるかもしれない。
まぁ、それも結局はシグリの中に蔓延るあの厄介な黒い靄をどうにかしなければ意味がないが…。
ー さっさと見つけて、泳がせば良いんだろ。
口から溢れそうになった溜息を飲み込み、監視の魔術を仕込んでいく。
「貴方が宮廷魔術師長のアルトワルト様? 」
ふと、何処かで聞いたような声が鼓膜を揺らし、振り返った。
そこには一人の育ちの良さそうな少年がキラキラと目を輝かせてこちらを見ていた。絹のような髪にクリクリと大きな紅茶色の瞳の少年。
ー 誰だ?
この少年の声が何処かで聞いた事があったような気がするが、顔に見覚えは一切ない。
暫く、誰だと観察していたら少年はモジモジと恥じらいの表情を浮かべて、宰相と話をしていたフィールの大臣の背後に隠れた。
「ミラン。隠れてないできちんと挨拶しなさい。お前は今、国を背負ってここにいるのだから。」
「御免なさい、父上。」
フィールの大臣に窘められ、おずおずと大臣の背後から出てくると緊張で汗ばんだ手をオレに差し出してはにかんだ。
「お初にお目にかかります。フィール王国、外務大臣アンセル・エルンストの息子のミランと申します。」
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