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ジョゼフ視点③
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テーブルが片付けられて、二人に練習用の木の剣が渡される。
シュネーはまだ納得していない様子で渋々剣を受け取った。それとは対照に殺気ダダ漏れでローレンは剣を構える。
しかし始まる前から勝負は見えている。
剣術の稽古をしても彼の職務は王子。はたまたシュネーは剣を振るい戦う事が職務の見習い騎士だ。
するりと何度もシュネーがローレンの剣を受け流す。あれだけ煽られたら流石に攻めに転じるかと思ったらシュネーは冷静でローレンが傷付かないように立ち回っている。
そして受け流されて体勢を崩したローレンの背中に軽く剣をコンッと当てて、それを勝利とした。
ー お見事。
ホッと胸を撫で下ろした。
何事もなく終わって良かった。
「おのれ、そこまでしてジョゼフに近付くか。」
ローレンが怒りの声を上げる。
シュネーが丸く収めてくれたのにローレンが怒りを収めない。
昔はもう少し融通が利いたのにお前はそこまで変わってしまったのかとズキリッと心の奥が痛む。きっと何処かで昔のローレンを今の彼に探していたのかもしれない。
「ジョゼフさんは、先輩であり、同僚であり、友人です。出会ったのも成り行きですし。騎士団に入ったのは私の意志は介在していません。」
「うるさいッ。ジョゼフに近付くな。お前のような奴がッ、お前のような奴がッ。」
ー もう、やめてくれ。そんなお前見たくない。
ローレンがシュネーの胸倉を掴む。その姿を呆然と眺めた。
ー お願いだ。あんな別れ方したが、俺はお前に良い王様になって欲しいんだ。
『オマエの命はーー。』
止めに入ろうとすると頭にあの『呪』がまた流れる。
頭が割れそうに痛い。
止めなければいけないのに動けない自分がいる。
お前は騎士だろう。
何故お前は固まっている。
それでもこの頭痛と想いが俺の足を地に縫い付ける。
そうやってあたふたしている内についにシュネーの堪忍袋の尾が切れた。
「……アンタ何様だ。」
「はぁ? 俺は第一王…。」
「成る程、第一王子なら人の交友関係に口出して滅茶苦茶にしていい…と。確かに王族は私達より地位が上で人の人生を左右する権限はあるでしょうね。」
「何言って…。」
今まで本気でシュネーが怒っている姿なんて見た事なかった。何時も凪いだ海のように静かなシュネーの感情が大きく波を打っていた。
その激しい怒気にローレンが怯み、シュネーはその隙に胸倉を掴んでたローレンの手を払う。
「ですが、その人の全てを決する事は出来ない筈だ。確かに王族の言葉は重いが人にはそれぞれに与えられた人生がある。『従騎士』でもあるまいに、ジョゼフさんの全てを決定する権限はない。ジョゼフさんが誰と居ようが本人の勝手だ。」
シュネーは自身の為でなく、俺の為に怒ってくれていた。あれだけの事を言われてそれを怒るのではなく。
ローレン王子が押し黙る。
「ブルーノ様も何時までジョゼフさんを睨んでいるのですか? 貴方が物申したい本当の元凶はコッチでしょう。『友人』なんだからそちらで管理をお願いします。」
「えっ、…いや、うっ。」
この中で一番最年少が誰よりもまともな事を言い、説教する。誰も苦言も呈せなかった彼等に。
「私は元々身体が弱く、体調が悪いので今日は申し訳御座いませんが帰らせて頂きます。ジョゼフさんも体調が悪そうにみえるので帰りましょう。」
「あっ、ああ。」
うむも言わさず、シュネーが俺を呼ぶ。シュヴェルトもちゃっかり一緒に帰ろうとする。
「では、私は失礼致します。この度は、とんだご迷惑を掛けました。沙汰は追って受けるので書面にてお願いします。」
あれ程怒っていたのに綺麗に礼を取り、責任は取ると宣言した。
どれ程肝が据わってるのか。
一本も二本も取られたローレンとブルーノが口を開けて何も言えず見送っていた。
自身より一回りも小さい背中がとても勇敢で頼もしくみえた。俺より五つ下のシュネーの背中が。
ー 『人にはそれぞれに与えられた人生がある』っか…。
まだ俺の中には『呪』があった。
それでもシュネーの言葉は俺の心を軽くしてくれる。俺の人生は俺のものだと。
「お前、…カッケェな。」
そう、涙が流れるのを声が震えるのを我慢してそう声を掛けると、無愛想に「どうも。」の一言が帰ってきた。
顔は見えなかったが、耳まで赤い。
隣ではシュヴェルトがニンッと満面の笑みで笑っていた。
ー お前が居てくれて良かったよ。
恥ずかしくて口には出せないがそう頭の中でお礼を言った。
きっとお前達が居れば俺は『呪』に呑まれない。我慢してたのに温かいものが頰を伝った。
シュネーはまだ納得していない様子で渋々剣を受け取った。それとは対照に殺気ダダ漏れでローレンは剣を構える。
しかし始まる前から勝負は見えている。
剣術の稽古をしても彼の職務は王子。はたまたシュネーは剣を振るい戦う事が職務の見習い騎士だ。
するりと何度もシュネーがローレンの剣を受け流す。あれだけ煽られたら流石に攻めに転じるかと思ったらシュネーは冷静でローレンが傷付かないように立ち回っている。
そして受け流されて体勢を崩したローレンの背中に軽く剣をコンッと当てて、それを勝利とした。
ー お見事。
ホッと胸を撫で下ろした。
何事もなく終わって良かった。
「おのれ、そこまでしてジョゼフに近付くか。」
ローレンが怒りの声を上げる。
シュネーが丸く収めてくれたのにローレンが怒りを収めない。
昔はもう少し融通が利いたのにお前はそこまで変わってしまったのかとズキリッと心の奥が痛む。きっと何処かで昔のローレンを今の彼に探していたのかもしれない。
「ジョゼフさんは、先輩であり、同僚であり、友人です。出会ったのも成り行きですし。騎士団に入ったのは私の意志は介在していません。」
「うるさいッ。ジョゼフに近付くな。お前のような奴がッ、お前のような奴がッ。」
ー もう、やめてくれ。そんなお前見たくない。
ローレンがシュネーの胸倉を掴む。その姿を呆然と眺めた。
ー お願いだ。あんな別れ方したが、俺はお前に良い王様になって欲しいんだ。
『オマエの命はーー。』
止めに入ろうとすると頭にあの『呪』がまた流れる。
頭が割れそうに痛い。
止めなければいけないのに動けない自分がいる。
お前は騎士だろう。
何故お前は固まっている。
それでもこの頭痛と想いが俺の足を地に縫い付ける。
そうやってあたふたしている内についにシュネーの堪忍袋の尾が切れた。
「……アンタ何様だ。」
「はぁ? 俺は第一王…。」
「成る程、第一王子なら人の交友関係に口出して滅茶苦茶にしていい…と。確かに王族は私達より地位が上で人の人生を左右する権限はあるでしょうね。」
「何言って…。」
今まで本気でシュネーが怒っている姿なんて見た事なかった。何時も凪いだ海のように静かなシュネーの感情が大きく波を打っていた。
その激しい怒気にローレンが怯み、シュネーはその隙に胸倉を掴んでたローレンの手を払う。
「ですが、その人の全てを決する事は出来ない筈だ。確かに王族の言葉は重いが人にはそれぞれに与えられた人生がある。『従騎士』でもあるまいに、ジョゼフさんの全てを決定する権限はない。ジョゼフさんが誰と居ようが本人の勝手だ。」
シュネーは自身の為でなく、俺の為に怒ってくれていた。あれだけの事を言われてそれを怒るのではなく。
ローレン王子が押し黙る。
「ブルーノ様も何時までジョゼフさんを睨んでいるのですか? 貴方が物申したい本当の元凶はコッチでしょう。『友人』なんだからそちらで管理をお願いします。」
「えっ、…いや、うっ。」
この中で一番最年少が誰よりもまともな事を言い、説教する。誰も苦言も呈せなかった彼等に。
「私は元々身体が弱く、体調が悪いので今日は申し訳御座いませんが帰らせて頂きます。ジョゼフさんも体調が悪そうにみえるので帰りましょう。」
「あっ、ああ。」
うむも言わさず、シュネーが俺を呼ぶ。シュヴェルトもちゃっかり一緒に帰ろうとする。
「では、私は失礼致します。この度は、とんだご迷惑を掛けました。沙汰は追って受けるので書面にてお願いします。」
あれ程怒っていたのに綺麗に礼を取り、責任は取ると宣言した。
どれ程肝が据わってるのか。
一本も二本も取られたローレンとブルーノが口を開けて何も言えず見送っていた。
自身より一回りも小さい背中がとても勇敢で頼もしくみえた。俺より五つ下のシュネーの背中が。
ー 『人にはそれぞれに与えられた人生がある』っか…。
まだ俺の中には『呪』があった。
それでもシュネーの言葉は俺の心を軽くしてくれる。俺の人生は俺のものだと。
「お前、…カッケェな。」
そう、涙が流れるのを声が震えるのを我慢してそう声を掛けると、無愛想に「どうも。」の一言が帰ってきた。
顔は見えなかったが、耳まで赤い。
隣ではシュヴェルトがニンッと満面の笑みで笑っていた。
ー お前が居てくれて良かったよ。
恥ずかしくて口には出せないがそう頭の中でお礼を言った。
きっとお前達が居れば俺は『呪』に呑まれない。我慢してたのに温かいものが頰を伝った。
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