寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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私はそれでも恵まれてる②

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「私をハースト家から除籍して頂きたい。」

「何を……言って。」

「私はハースト家にとって、毒である事がよく昨日の一件で分かりました。ハースト家の繁栄には私が邪魔だ。」

「一体何を言ってるんだシュネーッ。君が毒? 邪魔? そんな訳あるかッ。僕には君が…君だけが必要なんだ!! 」

それは愛する者に向ける眼差し。
弟には絶対向けるものではないもの。
もう兄弟関係は戻れない所まで破綻している。

ー 泣くな。

ずっと続くと思っていた。
何時かは自分もあの家を支えて、身体が弱くて迷惑掛けた分、いやそれ以上に家に貢献するんだと…。

ー 隙を見せてはダメだ。見せればシュネーは兄の、フェルゼンの呪縛から抜けられなくなる。

強くあらなくてはいけない。
じゃないと何も守れない。
シュネーすらも守れない。

「じゃあ何故貴方はここに居る? 」

「何故って君を……。」

「貴方はハースト伯爵を継いだばかりだ。ならば引き継ぎや領地の事で手一杯の時に何故ここに居るのですか? 貴方は仕事を放り出してここに居るのでしょう? 」

「それは……。」

「侍従達も両親も誰も居ない屋敷で一体誰が領主の、伯爵としての仕事を回しているのですか? 回ってないでしょう。寧ろ完全に停止している。」

「………そんな事。」

「領主を誑かし、堕落させる。まるで何処かの国の昔話の傾国の悪女みたいだ。これを毒と言わずになんて言うのでしょう? フェルゼン・ハースト伯爵。」

追いつめられたフェルゼンは何度も口を開いて何か言おうとした。が、その口から言葉が出る事はなかった。私の言葉に気圧されて、ただポツンと突っ立っている。

「フェルゼン・ハースト伯爵。今までお世話になりました。毒が願うのもなんですが、願わくばハースト家の繁栄とフェルゼン・ハースト伯爵様の更なるご活躍を心から祈っております。」

地面しか見えなくなる程深く頭を下げた。フェルゼンが何も言えず、失意の中シュネーから離れていく。

ー 私がシュネーから家族を奪った。

ヴィルマの言葉を最初から少しでも検討していれば、もしかしたらシュネーは家族を失わずに済んだかもしれない。

「私は本当にしょうもないな。」

守ったつもりで結果、シュネーから大切にしていた家族を奪ったじゃないか。


グイッと胸倉を掴まれる。
至近距離で怒りに染まったシュヴェルトが私を睨む。

「何で…、何でッ!! 俺達に任せなかった。何でボロボロなそんな状態で立ち向かうんだよッ。そんなに俺達が頼りないのかッ!! 」

シュヴェルトが思いっきり容赦なく自身の唇を噛む。強く噛むから唇からは血が滲んでいる。

「相棒が立ち向かわなくてもジョゼにぃや騎士団長達が手を回してくれた筈だ。フェルゼンも俺とアルヴィンで何度だって追い返してやるッ。それなのに何でッ…何で……まるで相棒が全て悪いみたいに…。何で恨み節の一つも吐かないで自身を貶めるような事言うんだッ!? 」

ポタポタとシュヴェルトの涙が私の顔に落ち、伝っていく。

手が自然とシュヴェルトの顔に伸びる。少しまだ震えているがそれでもシュヴェルトの涙をその手は、その指は拭った。

その手をシュヴェルトがガシリッと掴んだ。

ビクリッと一瞬大きく震えたが、気持ち悪さも嫌悪感も感じない。ただ悲しみが申し訳ないと思う気持ちが私の中を占めていた。

「俺は許さないからなッ。相棒が、俺の相棒でも相棒を貶める事は許さない。無茶な程努力家で、痛い程強くて、こっちが悔しくなる程優しいんだよ、相棒はッ。ちったぁ、頼れよッ。何年一緒に居ると思ってんだッ。何度背中を預け合ったと思ってんだ!! 泣きたきゃ、泣きゃあいいだろうッ。苦しかったら逃げていいだろ。何なんだよッアホ!! 」

「ごめ…、ごめんなさい。」

本当に何やってるんだろう。
これだけ周りに心配掛けて何やってるんだろう?

視界が霞む。

胸倉を掴んだ手が外されて肩にまわり、痛い程強く抱きしめられた。それが何だか心地よくて安心して、心の奥にずっと燻ってた想いが溢れ出す。

「…何でッ…何で私ばっかりッ。」

「うん。」

「頑張ってるのにッ。何でッ…何で悪い方向にばっか…。」

「頑張ってるのは皆んな分かってるよッ。頑張り過ぎなんだよアホ。」

涙が止まらない。

抑えたいのに鳴き声が抑えたいと思う程大きくなる。自身が何処にいるのかなんて忘れて。恥も意地も何だか分からない自分の中で段々と大きくなっていく『誰か』もそのひと時は忘れて。


その後。
私はハースト家を除籍になった。フェルゼンは随分渋ったみたいだが、何が何だか分からず巻き込まれたレオノールが見兼ねて手を貸してくれたらしい。

帰ったらすこぶるジョゼフやアルヴィンに叱られ、シュヴェルトは相当拗ねていた。

それでも何処か憑き物が落ちたかのように心はスッキリしていた。
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