113 / 131
友情と愛情
しおりを挟む寝ぐらに帰ると所狭しと地面に横たわっていた罪人達が半分程減っていた。
まさか死んでしまったのかと一瞬最悪の状況が頭に過った。が、カッコウが言うには減った半分は軽症の者で、治療が終わった瞬間、家を取り戻しに町に戻ったらしい。彼等は転んでもタダでは起きない。
寝ている人達も一命は取り留めたようで泥のように眠っていた。
「お帰りなさいん。」
客間に入るとクジャクがそう布団の上から声を掛けた。どうやらこちらも片腕と片脚は無くしたが山場を越え、生還を果たしたようだ。
その隣ではカスターに寄り添われて、ネズミが床で寝ていた。
「おぉ、無事で何…より。」
アルヴィンを見て、「誰? 」と首を傾ける。そしてアルヴィンに背負われているキツネを見て、ネズミが上手く動かない身体を必死に起こした。
「おキツネさん? おいッ、キツネ!! 」
アルヴィンがキツネをクジャクとネズミの目の前に横たえる。クジャクは一瞬、堪えるように目を瞑ったが残った片手でキツネの頰を撫でた。
「嬉しい事があったのねん。最期に…良かったわね、キツネ。」
悲しげな穏やかな表情でキツネの顔をクジャクは撫でた。笑みの残った表情で、キツネはただされるがまま。
「お前さんが笑ってるんじゃあ、泣けないじゃないかいキツネ。困ったねぇ。」
ネズミはそう言ってふらつく身体で部屋から出て行った。リヒトが追いかけようとしたが、「ちょっと、一人にしてくんないかい。」と断った。
「後で弔うから他の部屋に寝かして置いてくれないかしらん。」
クジャクがキツネの頰を撫でながらそうアルヴィンに頼むとアルヴィンはキツネを気遣うように横抱きしようとした。
ふと、クジャクの視線がアルヴィンと交わるとクジャクの目がカッ開かれ、クジャクがアルヴィンの腕を掴んだ。
「アンタ、アンタ名前はッ。」
「…アルヴィン・クリフトだ。フェルメルン王国の騎士団所属の騎士で、リヒト・フォー・フェルメルンの罪が冤罪だったので、リヒト・フォー・フェルメルン及び、その『従騎士』、シュネー・フリューゲルを迎えに来ました。」
「そう…なの。」
アルヴィンはそう言い終わるとキツネを抱き上げ、リヒトをすれ違いざまに睨んだ。そして私の服を掴んで連れてこうとする。
「アンタに似てる人を知ってるわんッ。」
アルヴィンが部屋から出ようとした瞬間、クジャクがアルヴィンを引き止めるようにそう叫んだ。アルヴィンは怪訝な表情を浮かべてクジャクを見た。
「…俺はアンタを知らない。」
「わっちはアンタの父を知ってんのん。」
その言葉にアルヴィンの表情は一層険しいものになり、私の服を握る手に力が入る。
「…父は死んだ。俺が生まれる前に。」
その言葉にクジャクの表情が少し物悲しい表情に変わるとその表情を見て、アルヴィンは一つ息吐き、強張った顔を少し解いた。
「…俺の父はダグラス・クリフト。傭兵で武器の斧を巧みに使う人だったと武器屋のアイズさんから聞いてる。傭兵の仕事で面倒ごとに巻き込まれて死んだって母さんに聞いた。仲間想いのいい人だったと。」
「そう……。」
クジャクは少し目を潤ませ、何かをアルヴィンに言いかけ、グッと下唇を噛んだ。アルヴィンはクジャクを不思議そうに見つめたが、直ぐに興味を無くして、キツネを違う部屋に運んだ。私を引き摺りながら。
「アルヴィン? 」
「…埋めろと言ったのに新たな溝を作りやがった、アイツ。」
「…ア、アルヴィン? 」
「……任せられない。」
キツネを寝かせるとアルヴィンが私を連れて寝ぐらの外に出る。あんまりリヒトと離れると喪失感があるのだが。
ぐるりとアルヴィンが私と向き合う。私とアルヴィンの背は『刑受の森』に来る前は変わらなかった筈だが……あれ? 私、リヒトと向き合う時よりアルヴィンを見上げてる……。
「背……伸びた? 」
「…もう少しで百八十センチ行く。」
「そう…なんだ。」
何だか悲しくなってくる。
あれ? これはリヒトと離れたから?
それとも同い年の友人に十センチ以上差をつけられたから?
アルヴィンがそんな私の複雑そうな姿に何処か安心したように溜息をついた。「…先に謝っとく。」と言って抱き締められた。
「うぅ…アル、アルヴィン!? 」
「…後、確実に二回はこうされるから覚悟しといて。下手したら騎士団全員から。」
「それは…、うぅ…それは私が死ぬ。『従騎士の誓い』強行したのは謝るからそれはやめ……うっ。」
アルヴィンが容赦ない。
段々何だか気が遠くなってきた。
何でこんなにトラウマが悪化してるの?
くるくると世界が回り出した辺りで小花のような匂いがして温かな腕の中に包まれていた。
ホッとする。
リヒトの腕の中だ。
「…シュネーを更に傷付けたのに主人面? 」
「それについては謝るけど、僕の妻を他の男が抱き締めてるのを許す程、僕は人が出来ていない。」
……何だか不穏なやり取りが行われている気がする。
妻?
私が妻!?
確かに冤罪は晴れるみたいだが、もう結婚!?
……という事は。
『結婚したら毎日抱き潰していいんだね。』
今日から抱き潰されるの?
まだ、『刑受の森』から出てないのに…。
サーと血の気が引き、心配になってリヒトの表情を見やると苛立ちの少し入った笑顔をアルヴィンに向けてる。アルヴィンはアルヴィンで珍しく怒っているようで殺気が漏れてる。
「……無理矢理手篭めにするなら騎士団は全身全霊を持って阻む。これ以上傷付けるのは許さない。」
「本人に了承は取ってるよ。」
「……主人だから逆らえなかったって事もある。」
何だか殺気がどんどん膨らんでいく。
説明…しなければ駄目だろうか。
小っ恥ずかしくて出来れば遠慮したいのだが。
そう考えているとクイッと顎を上げられてリヒトの空色の瞳が至近距離で私を覗く。そして噛み付くように唇を奪われた。
「ふッ…んっ……んんっっ!? 」
口の中を温かなリヒトの舌が撫でて口の中が蕩けてしまいそうな程気持ちいいが今はそれ所じゃ…それ所じゃ。
「ふぁっ……ん……ん。」
もっと欲しくて自分から舌を絡ませる。
好き……大好き。
あれ…、私…何考えて……。
ツゥッと銀糸を舌から引きながらリヒトが私の中から離れる。ボウッと口の中から消えたリヒトの感触を名残惜しみながらもリヒトの熱を帯びた視線から火照った顔を見られたくなくて目を逸らすと……アルヴィンと目があった。
「「………。」」
アルヴィンが苦虫噛み潰したような顔を浮かべてる。私はというと一番の友人に見られた羞恥からもうどうしていいか分からなくて犯人の胸に顔を埋めて逃げた。
「ッツ!? ーーーーッ!! 」
「……シュネーはそんな奴が好きなのか? 」
困惑が混ざった声色でアルヴィンが問う。
そうだよね!?
友人のこんな姿見せられて困惑しない訳ないよね!?
おそらく今、耳まで赤い。
もう、アルヴィンの顔がまともに見れなくてリヒトに顔を埋めたまま何度も頭をコクッコクッと縦に振って肯定した。
不意にアルヴィンのとても長い溜息が聞こえてきた。そして私の服を引っ張りリヒトから剥ぐ。
「…分かったから。シュネーの気持ちは分かった。」
アルヴィンの顔には少し呆れが浮かんでるが、その表情は優しい。
「……コイツを駄目だと思ったらすぐ俺の所に逃げろ。死なない程度に叩きのめす。」
が、言ってる事は何時もと違い過激だ。リヒトと私の間に入り込み、リヒトには冷ややかな視線を向けている。リヒトはそれを笑みで返す。
ー 勘弁してよ。
この状況に段々嫌気が差して現実から目を逸らすと、木の上から様子を伺っていたネズミと目があった。少し目の赤いネズミに「大丈夫か? 」と声を掛けようとしたが、「修羅場? 」と口がパクパクと動き、弄ってくる。
「おまえはそういう奴だよ。」
キツネを思い出し、零れ落ちそうなものを無理矢理押し留めて笑ってやった。
64
あなたにおすすめの小説
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
巻き戻った悪役令息のかぶってた猫
いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。
なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。
全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。
果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!?
冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。
※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。
初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。
また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。
婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?
野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。
なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。
ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。
とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。
だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。
なんで!? 初対面なんですけど!?!?
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる