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友情と愛情

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寝ぐらに帰ると所狭しと地面に横たわっていた罪人達が半分程減っていた。

まさか死んでしまったのかと一瞬最悪の状況が頭に過った。が、カッコウが言うには減った半分は軽症の者で、治療が終わった瞬間、家を取り戻しに町に戻ったらしい。彼等は転んでもタダでは起きない。

寝ている人達も一命は取り留めたようで泥のように眠っていた。

「お帰りなさいん。」

客間に入るとクジャクがそう布団の上から声を掛けた。どうやらこちらも片腕と片脚は無くしたが山場を越え、生還を果たしたようだ。

その隣ではカスターに寄り添われて、ネズミが床で寝ていた。

「おぉ、無事で何…より。」

アルヴィンを見て、「誰? 」と首を傾ける。そしてアルヴィンに背負われているキツネを見て、ネズミが上手く動かない身体を必死に起こした。

「おキツネさん? おいッ、キツネ!! 」

アルヴィンがキツネをクジャクとネズミの目の前に横たえる。クジャクは一瞬、堪えるように目を瞑ったが残った片手でキツネの頰を撫でた。

「嬉しい事があったのねん。最期に…良かったわね、キツネ。」

悲しげな穏やかな表情でキツネの顔をクジャクは撫でた。笑みの残った表情で、キツネはただされるがまま。

「お前さんが笑ってるんじゃあ、泣けないじゃないかいキツネ。困ったねぇ。」

ネズミはそう言ってふらつく身体で部屋から出て行った。リヒトが追いかけようとしたが、「ちょっと、一人にしてくんないかい。」と断った。

「後で弔うから他の部屋に寝かして置いてくれないかしらん。」

クジャクがキツネの頰を撫でながらそうアルヴィンに頼むとアルヴィンはキツネを気遣うように横抱きしようとした。

ふと、クジャクの視線がアルヴィンと交わるとクジャクの目がカッ開かれ、クジャクがアルヴィンの腕を掴んだ。

「アンタ、アンタ名前はッ。」

「…アルヴィン・クリフトだ。フェルメルン王国の騎士団所属の騎士で、リヒト・フォー・フェルメルンの罪が冤罪だったので、リヒト・フォー・フェルメルン及び、その『従騎士』、シュネー・フリューゲルを迎えに来ました。」

「そう…なの。」

アルヴィンはそう言い終わるとキツネを抱き上げ、リヒトをすれ違いざまに睨んだ。そして私の服を掴んで連れてこうとする。

「アンタに似てる人を知ってるわんッ。」

アルヴィンが部屋から出ようとした瞬間、クジャクがアルヴィンを引き止めるようにそう叫んだ。アルヴィンは怪訝な表情を浮かべてクジャクを見た。

「…俺はアンタを知らない。」

「わっちはアンタの父を知ってんのん。」

その言葉にアルヴィンの表情は一層険しいものになり、私の服を握る手に力が入る。

「…父は死んだ。俺が生まれる前に。」

その言葉にクジャクの表情が少し物悲しい表情に変わるとその表情を見て、アルヴィンは一つ息吐き、強張った顔を少し解いた。

「…俺の父はダグラス・クリフト。傭兵で武器の斧を巧みに使う人だったと武器屋のアイズさんから聞いてる。傭兵の仕事で面倒ごとに巻き込まれて死んだって母さんに聞いた。仲間想いのいい人だったと。」

「そう……。」

クジャクは少し目を潤ませ、何かをアルヴィンに言いかけ、グッと下唇を噛んだ。アルヴィンはクジャクを不思議そうに見つめたが、直ぐに興味を無くして、キツネを違う部屋に運んだ。私を引き摺りながら。


「アルヴィン? 」

「…埋めろと言ったのに新たな溝を作りやがった、アイツ。」

「…ア、アルヴィン? 」

「……任せられない。」

キツネを寝かせるとアルヴィンが私を連れて寝ぐらの外に出る。あんまりリヒトと離れると喪失感があるのだが。

ぐるりとアルヴィンが私と向き合う。私とアルヴィンの背は『刑受の森』に来る前は変わらなかった筈だが……あれ? 私、リヒトと向き合う時よりアルヴィンを見上げてる……。

「背……伸びた? 」

「…もう少しで百八十センチ行く。」

「そう…なんだ。」

何だか悲しくなってくる。
あれ? これはリヒトと離れたから?
それとも同い年の友人に十センチ以上差をつけられたから?

アルヴィンがそんな私の複雑そうな姿に何処か安心したように溜息をついた。「…先に謝っとく。」と言って抱き締められた。

「うぅ…アル、アルヴィン!? 」

「…後、確実に二回はこうされるから覚悟しといて。下手したら騎士団全員から。」

「それは…、うぅ…それは私が死ぬ。『従騎士の誓い』強行したのは謝るからそれはやめ……うっ。」

アルヴィンが容赦ない。
段々何だか気が遠くなってきた。
何でこんなにトラウマが悪化してるの? 

くるくると世界が回り出した辺りで小花のような匂いがして温かな腕の中に包まれていた。

ホッとする。
リヒトの腕の中だ。

「…シュネーを更に傷付けたのに主人面? 」

「それについては謝るけど、僕の妻を他の男が抱き締めてるのを許す程、僕は人が出来ていない。」

……何だか不穏なやり取りが行われている気がする。

妻?
私が妻!?

確かに冤罪は晴れるみたいだが、もう結婚!?
……という事は。

『結婚したら毎日抱き潰していいんだね。』

今日から抱き潰されるの?
まだ、『刑受の森』から出てないのに…。

サーと血の気が引き、心配になってリヒトの表情を見やると苛立ちの少し入った笑顔をアルヴィンに向けてる。アルヴィンはアルヴィンで珍しく怒っているようで殺気が漏れてる。

「……無理矢理手篭めにするなら騎士団は全身全霊を持って阻む。これ以上傷付けるのは許さない。」

「本人に了承は取ってるよ。」

「……主人だから逆らえなかったって事もある。」

何だか殺気がどんどん膨らんでいく。
説明…しなければ駄目だろうか。
小っ恥ずかしくて出来れば遠慮したいのだが。

そう考えているとクイッと顎を上げられてリヒトの空色の瞳が至近距離で私を覗く。そして噛み付くように唇を奪われた。

「ふッ…んっ……んんっっ!?  」

口の中を温かなリヒトの舌が撫でて口の中が蕩けてしまいそうな程気持ちいいが今はそれ所じゃ…それ所じゃ。

「ふぁっ……ん……ん。」

もっと欲しくて自分から舌を絡ませる。

好き……大好き。
あれ…、私…何考えて……。

ツゥッと銀糸を舌から引きながらリヒトが私の中から離れる。ボウッと口の中から消えたリヒトの感触を名残惜しみながらもリヒトの熱を帯びた視線から火照った顔を見られたくなくて目を逸らすと……アルヴィンと目があった。

「「………。」」

アルヴィンが苦虫噛み潰したような顔を浮かべてる。私はというと一番の友人に見られた羞恥からもうどうしていいか分からなくて犯人リヒトの胸に顔を埋めて逃げた。

「ッツ!? ーーーーッ!! 」

「……シュネーはそんな奴が好きなのか? 」

困惑が混ざった声色でアルヴィンが問う。

そうだよね!? 
友人のこんな姿見せられて困惑しない訳ないよね!?

おそらく今、耳まで赤い。
もう、アルヴィンの顔がまともに見れなくてリヒトに顔を埋めたまま何度も頭をコクッコクッと縦に振って肯定した。

不意にアルヴィンのとても長い溜息が聞こえてきた。そして私の服を引っ張りリヒトから剥ぐ。

「…分かったから。。」

アルヴィンの顔には少し呆れが浮かんでるが、その表情は優しい。

「……コイツを駄目だと思ったらすぐ俺の所に逃げろ。死なない程度に叩きのめす。」

が、言ってる事は何時もと違い過激だ。リヒトと私の間に入り込み、リヒトには冷ややかな視線を向けている。リヒトはそれを笑みで返す。

ー 勘弁してよ。

この状況に段々嫌気が差して現実から目を逸らすと、木の上から様子を伺っていたネズミと目があった。少し目の赤いネズミに「大丈夫か? 」と声を掛けようとしたが、「修羅場? 」と口がパクパクと動き、弄ってくる。

「おまえはそういう奴だよ。」

キツネを思い出し、零れ落ちそうなものを無理矢理押し留めて笑ってやった。
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