第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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何があったんだよ…。

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王都の学園には様々な階級の生徒達が通っている。

下の階級は平民から上は王族まで。

学園の出のものは必ず、平民でも騎士や学者など、そこそこ地位のある役職につける為、常に平民出の場合の受験倍率は高く、試験も難易度が高い。だから、平民クラスのものは皆、優秀だ。

それとは逆に貴族と王族の者は必ず学園に入学する事が定められている為、割りかしアホが多い。

……いや、貴族以上のものは幼い頃から家庭教師が付き、優秀な者は本当に優秀なのだが、その分、やらない奴との知能の格差が半端ない。

そんなアホが貴族や王族として平民優秀な人材よりも高い地位に付ける事がある意味この国の闇だよなと思いながら何時も授業を受けている訳だ。目の前でガンガンいびき掻きながら寝るアホを見て…。

まぁ、集中出来ないなと思いながらも、授業中に兄王子達に押し付けられた論文やら宿題をやってる俺もまぁ、アホの分類に入るのかもしんなかったけど。


そしてあの頃を思い出して、俺は実に平和だったか思い知らされてるんだよ、今。



チラチラとクラスメイト達が授業中にも関わらず、こちらに矢鱈と視線を向ける。
何時も前でいびき掻いていた奴は、汗をタラタラと垂らしながら背筋をしゃんと伸ばして授業を受けている。

ー 成程、クラスにアホが蔓延っていたのも俺が舐められていたからなのか…。

クラスメイト達のあからさまな手のひら返しに内心、苦笑いが止まらない。
出来損ないの第十王子から王座に最も近い王太子なった途端ここまであからさまに態度が違うとただただ呆れるしかない。

そもそも今更、遅いだろうに…。
手遅れだって。例え、俺が本気で王になるとしてもお前らだけは臣下にしないし、重要ポジションにはつかはせないから。

そう頭の中で元気にボヤくが本当はとても頭が痛い。
何故頭が痛いかと問われると原因は一つ。


「貴様達ッ。不躾にチラチラとツェーン殿下を見てるんじゃないッ!! 殿下の勉学の邪魔になるだろうがっ!!! 」

「ブレン……。あのさ…。」

「どうしました。ツェーン殿下ッ。この私めに何か御用で。」

「……あからさま過ぎる。」

俺の隣でクラスメイトに睨みを効かすブレンこと、公爵子息ブレン・グライフ。
さっきから彼は周囲を牽制して、俺が声を掛けたりすると、ティモとは違い、圧を感じる褒めて欲しそうな顔で俺を見てくる。

ついでにブレンは俺がまだ出来損ないの第十王子だった頃、俺を見下していた。

断るごとに「お前みたいな出来損ないが、もし、万が一でも王になるんだったらこの国は終わるな。」、「その時は俺がお前を蹴落として王になってやるよ!! 」と、言っていた。

万が一でも王になりたくない俺は、その場合は是非とも蹴落として欲しいものだと切に思っていた。

なのになんだ? 
何故コイツは俺にゴマ擦ってんだ!?
俺を蹴落とすんだろうが!!?

学園に復学した理由はこの学園に居る四人の公爵子爵に王位を押し付ける為だった。なのに一番期待していた奴がこんな感じだ。

幸先悪過ぎる。



「お久しぶりです! 殿下。」

授業が終わると態々子爵子息から俺の隣の席を奪ったというのに少し駆け足でずいっと俺の目の前に出てくる。思わず、内心で収めていた苦笑いが表情からも溢れ出す。

「お、お久しぶりです? 殿下?? 俺にそんな事言う性格だったっけ?。」

「殿下が休学中の間に私めも心を入れ替えたのですよ。」

「それ、言葉のあやじゃなくて、本当に心が別人に入れ替わったとかないよな…。」

「はっはっは。殿下はとても面白い事を言いますね。私は私ですよ。この殿下のお役に立つのでよろしくお願いします。」

「圧が凄いし。これからもってなんだ。まるで今まで俺の役に立ってたみたいな言い方…。」

「はっはっは。いじめないでください。仲良くしましょうよ、殿下。」

とてもフレンドリーにブレンが肩をバシバシと叩いてくる。

…何だろう。
ここまで手のひら返しが凄いと感心してしまう。そして、気持ち悪い。このヒシヒシと裏がありそうな感じがとても気持ち悪い。


何だか地味に怖くて椅子一個分、ブレンから距離を取る。

「ブレンはさ…。ほら、俺が王になるんだったら自分が王になるって言ってただろう? だから……。」

だから王にならない? 
そう言葉を続けようとした瞬間、バッとブレンが床に頭を擦り付けるように土下座した。

ティモが俺に土下座しようとした時も何故かかなり必死だったが、こっちは何だか鬼気迫るものを感じる。こ、怖い。

「あの頃の私めは頭がおかしかったのです。どうか、どうかお慈悲を。」

「何だよ!? 俺がいない間に何があったんだよッ。」

「な、何もありません。ほ、本当に心を入れ替えたのです。」

「嘘つけッ。絶対、なんかある。何か裏があるッ!! 」

コイツは何だか怖いし、どう持ち上げてもこの様子だと絶対、俺を蹴落として王になろうなんてしない。

もうコイツは駄目だと教室を出て行こうとするとブレンがバッと俺の足に追い縋る。怖いって!! 何!? 何なの!!?

「いっ、一体どこへ…。」

「お前の弟のグレンの所に行くだけだよ…。」

「!!!? やめておきましょうッ!! わ、私、もっと殿下とお話ししたいなーなんて。」

「その反応が既に色々と物語ってるよ!! ほんと、あからさま過ぎるッ。」

何故かグレンの元へ行かせまいと死に物狂いで追い縋ってくる。

ついでにグレンとはブレンの双子の弟だ。
ブレンより数倍性格が悪く、よく俺に足を引っ掛けて転ばそうとしてきたり、俺の教科書を破ったりしていた。

まぁ、教科書については一つ、二つ、三つ上の兄王子達の宿題を代行していたので、破られようが特に問題はないし、足を引っ掛けるのもつまずく程度だったので特に気にした事はない。

ブレンが駄目ならグレンに頼めばいい。
そう思ったのだが、何だか雲行きが怪しい。

ブレンの態度の変化といい、この異様なまでもグレンに合わせないようにしている事といい、絶対二人に何かあったに違いない。俺が居ない間に。


ブレンがあまりにも処刑宣告を受けた罪人みたいな青い顔をする為、その時間はグレンに会いに行くのを諦めた。

その次の休み時間にブレンの目を掻い潜って、グレンに会いに行ったが、グレンは教室には居なかった。グレンのクラスメイトにグレンの事を聞くが……。

「殿下。グレン様はお空の星になったんです。だから、殿下が気にしてやる必要などありません。」

「殿下はお優しいですね。気にする必要なんてないのですよ。」

と、何故かこちらに同情をのせた目で涙ぐみ、グレンに何があったか教えてくれない。なんとなく、その言葉からグレンがもうこの学園には居ない事は分かるが……。

ー 何があったんだ……。

一人は別人みたく性格が変わり、一人は忽然と姿を消した。これをホラーと言わず、何という。
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