第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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心の距離です

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「ツェーン。何故、受け取ってくれない? 」


また夜まで会えないとしゅんとしてしまったティモをなだめて、さぁ、学園に行こうと執務室を出て、たった十歩。

俺は面倒臭い人に捕まってしまったと内心、溜息をついていた。


その男は何時もの傲慢に感じる威圧的な態度を何処かに置き忘れ、眉を下げて悲しげな表情でこちらを見てくる。

「国王陛下、すみません。これから学園なので、その件は後程にしてもらいませんか? 」

プレゼントを返却し続けたら本人が来ちまったよ、と苦笑いが溢れそうになるのを押し込めて、ニッコリと作り笑いを貼り付ける。

俺の後ろでは学園までお供する事になった妄想トリオの一人が「『急展開ッ。邂逅、父と息子。閉ざされた心は開くのか!? 』」と勝手に物語を作成してるが無視だ。コイツにも構ってたら胃に穴が開く。


「それでは。」と、頭を下げて、さっさとその場を立ち去ろうとするが、ふと、目が合った国王陛下の近衛騎士がフルフルと首を横に振り、「行かないでくれ。」と目で訴えてくる。

それを見なかった事にして、足を進めるが、グンっと腕を掴まれて、歩みが止まる。

面倒臭いなと思いつつも、振り向くと更に先程よりも悲しみの深まった顔がこちらを見ていた。……面倒臭い。

「ツェーン。い、今は正式な場所ではないのだが……。」

「…分かってますが? 」

「なら何故、国王陛下呼びなんだ!? 」

何で今更? と、純粋に分からなくて、頭を捻った。

…ああ。そう言えば、この人と正式な場以外で会った事なかったなと、答えが出て、一人納得して頷き、「では。」ともう一度、立ち去ろうとしたが…。

「いや。今、何を納得した!? 私は何も納得してないぞ!! 」

と、中々腕を離さない。

知ってどうするよ!?
父親呼びしないのはアンタと俺の心の距離だよ!!

そう叫びたいが、流石に国王陛下相手に、こんな所でそんな本音を叫べる訳がない。


「何か問題でも? 今まで通りでしょう。俺と貴方の関係は常にそんな感じだったでしょう。」

「ゔっ…。国王陛下の次は貴方呼び…。」

「プレゼントの件も第一妃を通して正式に抗議するので、ここで話す事は何もありません。」

「何故、第一妃マリネット経由なんだ…。せめて、せめて何がいけなかったのか直接言ってくれ。」

「……学園があるので。」

何でこんなにも必死なのか。
学園に行かなければ行けない事をプッシュして、なんとか離脱しようとするが、国王陛下は粘る粘る。

「そ、そうだ。学園の生活はどうだ? こう…前より過ごしやすくなったとかないか? 」

「いえ、特には。」

「………そ、そうか。」


スッと国王陛下の腕が俺から離れた。
やっと解放か、と安堵の溜息を溢すと、国王陛下の表情が何故か険しいものに変わっていて、「グライフ公爵を呼べ。」と何やら周りに指示を出し始めたのでそそくさとその場を後にした。





「本当に勘弁してください。」

学園に着く早々、真っ青な顔でブレンが土下座で懇願してきた。

「何が? 」

本気で訳が分からず、聞き返すと、「このままじゃ、父上に勘当される。叔父上が怒ってる。」とギャン泣きされた。


『グライフ公爵を呼べ。』

その姿にはたと俺の学園での話を聞いた後の国王陛下の険しい顔が頭に浮かぶ。

まさかブレンが別人みたいになって、グレンが学園から消えたのって…。

一つの答えがフッと頭に浮かびそうになったが、フルフルと頭を振り掻き消した。
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