縁切りの神様

やすほ

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リアルわたしエクスプレス

其ノ五

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 ばあちゃんに促されたから、本殿へと足を運んだ。本殿には窓が取り付けられていないせいで、昼間でも薄暗い。神棚の前にはいつかと同じく、木製の鞘に収まった一本の刀が置かれている。
 ヨスガと出会って以来、蘇芳は彼女のかまってちゃんぶりには、うんざりしていた。いつも気まぐれに現れては蘇芳に付きまとい、自由気ままに蘇芳をおちょくってから、いつの間にか消えて行く。そんな日々が続いていただけに、こうして刀の状態でいる彼女を見ると、少し変な気分だ。

「なぁに。そんなにわたしのこと見つめちゃって。もしかして、何日か一緒に過ごしたくらいで、好きになっちゃってたりして?」

 ヨスガはすでに人の形を成していた。数瞬のことだったから、変化していたことに気がつきもしなかった。金色の髪の毛は、いつものように自ら輝きを放っていて、透き通る青い瞳が神々しい。

「はっ? 冗談言ってんじゃねぇよ」

 答えると、ヨスガはニヤッとしてから後ろに手を組んで、本殿の中をゆっくりと歩き始めた。

「刀状態のわたしの、どの部分が、人化したときのわたしの、どの部分に対応いているんだろうって考えたことはある? 蘇芳くんがさっき見ていたのは、わたしのどの部分なんだろうね。頭? 顔? 手のひら? 足の裏? それとも普段は隠れてる部分かな?」

 煽るような目つきから、彼女が言葉に含ませた意味を読み取ってしまって、思わず視線を逸らす。その動揺をヨスガが見逃すはずもなかった。

「蘇芳くん、今変な想像したでしょ」

 全部見透かされているようだ。けれどそれは認めたくないから、引き下がれないのが蘇芳の情。

「んなわけねぇだろ。俺が見ていたのはただの刀だ。それが人化したお前のどの部分だろうが関係ねぇし、興味もねぇよ」
「えぇ、ほんとにぃ?」

 茶化してくるヨスガは、今確かに蘇芳の眼前に立っている。現実からはかけ離れた存在だが、こうして見ていると、事実、彼女が存在していることをはっきりと認識できる。だからこそ、先ほどの祖母の発言が脳裏を過る。

「ヨスガってさ、もしかしてばあちゃんには見えてなかったりするのか?」

蘇芳がヨスガのことを話題に出した際、ばあちゃんはあたかも知らない風な口ぶりをした。蘇芳は当然のようにばあちゃんもヨスガを認知しているものだと思っていたけれど、実はそうでもないのかもしれない。そんな懸念を抱いていた。けれど、

「そんなわけないじゃん。だって、菊は先代の縁切り主だよ。力がある人には、わたしを見ることができる。もちろん、わたしが姿を現した時だけだけどね」

 ヨスガがあっさりと否定したから、虚を突かれてしまった。

「どうして?」
「いや、別に」

「もしかして、菊がそう言ったの?」

 不思議そうにヨスガが見つめてくる。

「俺がお前の名前を出した時に、ばあちゃん、『何言ってるのか分からない』ってはぐらかしたんだ」

 幾ばくかの間があった。

「……そっか」

 ヨスガが小さくため息をつく。何かわけがありそうな彼女の様。気にならないはずがない。
 ただ、ヨスガはそのまま静かに刀に戻ってしまった。だから、その真意を今さら追及する気にはなれなかった。
 結局刀は置いたまま、蘇芳は本殿を後にした。
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