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再会は死んでから
其ノ十
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蘇芳が再び加奈の元へ訪れたのは、彼女が倒れた日から数えて四日後のことだった。部屋が変わっていたので、若干迷いかけた。
病室の前までたどり着くと、スライド式の扉の横に、姑獲鳥がもたれかかっていた。どれだけの時間、ずっとここに突っ立ってたのだろうか、床は無数の羽で埋め尽くされている。きっと、毎日外出していたのは、一人でここに来るためだったのだろう。
「入らねぇのか」
蘇芳の問いかけに、姑獲鳥は首を左右に振った。けれど、本音は違うのだろう、扉の隙間からちらちらと、必死に中を覗き込もうとしている彼女の姿を見た。本人は本音を悟られないよう誤魔化しているつもりなのか一顧だにしていない風を装っていたけれど、バレバレだ。何も言わなかったけれど。
蘇芳はそんな彼女を横目に、病室へと入った。一人部屋らしく、周りに患者は誰一人いない。使われ始めて間もないせいか、やけにきれいで、埃一つ見られない。奥の窓際にベッドが置かれていて、加奈はそこに座っていた。
「なに? まさかお見舞い?」
「そうだよ。何か文句あるか?」
駅前で買ってきたプリンの入った紙袋を軽く掲げる。
「もしかして私のこと心配してくれてるの。……たはっ、全然似合ってないから」
咄嗟に頬が熱くなる。
「うっせぇ。放っとけよ」
蘇芳は思わず目を逸らした。それを悟られるのも癪だから、何も気にしてない体を装って自然に頭をかく素振りをした。
「ここに置いておくぞ」
加奈がうんと頷く。プリンをベッド脇に降ろした。
加奈の容態が気になって、こうして見舞いに来たはいいものの、正直何をしていいのか分からない。とりあえず、近くの椅子に腰を下ろした。けれど、特に話すこともないし、だからといって、すぐに帰るのも何か違う。見舞いってこんなに難しいものだっただろうか。
蘇芳が不甲斐なく、どうしようかと逡巡していると、加奈の方から話しかけてきた。
「ねぇ、蘇芳ってさ、霊感とかあったりするの?」
あまりに唐突で突拍子もない話。それでも、冗談には聞こえないから面を食らう。
「急に何だ?」
「だって、あんた神主の息子じゃん。家、神社だし。そういう人は、みんな見えるもんだと思ってたんだけど」
偏見も甚だしい。確かに蘇芳には霊感のようなものがあるが、それが一般的だとは思いたくはない。でも、もしかすると、全ての神社にヨスガのような存在がそれぞれいて、力が開花する者もゼロではなかったりするのか。なんて想像も脳裏を過ったが、多分、ないだろう。
「さぁな。てか、仮に俺がそういうものを見られたとして、だから何なんだっていうんだよ」
「いや、何となくだけど、最近誰かに見られてるような気がして。それに、病室の前によく鳥の羽が落ちてるの。最初は誰かのいたずらかと思ってたけど、誰もそんなことしてる様子もないし、それにわたし――」
そこまで言いかけて、加奈は口を噤んだ。流れるように、そっぽを向く。
「やっぱ、何でもない。忘れて」
彼女はもう蘇芳から興味をなくしたようで、右腕のブレスレッドをいじっていた。何を言おうとしたのか尋ねたけれど、結局最後まで答えてはくれなかった。
病室の前までたどり着くと、スライド式の扉の横に、姑獲鳥がもたれかかっていた。どれだけの時間、ずっとここに突っ立ってたのだろうか、床は無数の羽で埋め尽くされている。きっと、毎日外出していたのは、一人でここに来るためだったのだろう。
「入らねぇのか」
蘇芳の問いかけに、姑獲鳥は首を左右に振った。けれど、本音は違うのだろう、扉の隙間からちらちらと、必死に中を覗き込もうとしている彼女の姿を見た。本人は本音を悟られないよう誤魔化しているつもりなのか一顧だにしていない風を装っていたけれど、バレバレだ。何も言わなかったけれど。
蘇芳はそんな彼女を横目に、病室へと入った。一人部屋らしく、周りに患者は誰一人いない。使われ始めて間もないせいか、やけにきれいで、埃一つ見られない。奥の窓際にベッドが置かれていて、加奈はそこに座っていた。
「なに? まさかお見舞い?」
「そうだよ。何か文句あるか?」
駅前で買ってきたプリンの入った紙袋を軽く掲げる。
「もしかして私のこと心配してくれてるの。……たはっ、全然似合ってないから」
咄嗟に頬が熱くなる。
「うっせぇ。放っとけよ」
蘇芳は思わず目を逸らした。それを悟られるのも癪だから、何も気にしてない体を装って自然に頭をかく素振りをした。
「ここに置いておくぞ」
加奈がうんと頷く。プリンをベッド脇に降ろした。
加奈の容態が気になって、こうして見舞いに来たはいいものの、正直何をしていいのか分からない。とりあえず、近くの椅子に腰を下ろした。けれど、特に話すこともないし、だからといって、すぐに帰るのも何か違う。見舞いってこんなに難しいものだっただろうか。
蘇芳が不甲斐なく、どうしようかと逡巡していると、加奈の方から話しかけてきた。
「ねぇ、蘇芳ってさ、霊感とかあったりするの?」
あまりに唐突で突拍子もない話。それでも、冗談には聞こえないから面を食らう。
「急に何だ?」
「だって、あんた神主の息子じゃん。家、神社だし。そういう人は、みんな見えるもんだと思ってたんだけど」
偏見も甚だしい。確かに蘇芳には霊感のようなものがあるが、それが一般的だとは思いたくはない。でも、もしかすると、全ての神社にヨスガのような存在がそれぞれいて、力が開花する者もゼロではなかったりするのか。なんて想像も脳裏を過ったが、多分、ないだろう。
「さぁな。てか、仮に俺がそういうものを見られたとして、だから何なんだっていうんだよ」
「いや、何となくだけど、最近誰かに見られてるような気がして。それに、病室の前によく鳥の羽が落ちてるの。最初は誰かのいたずらかと思ってたけど、誰もそんなことしてる様子もないし、それにわたし――」
そこまで言いかけて、加奈は口を噤んだ。流れるように、そっぽを向く。
「やっぱ、何でもない。忘れて」
彼女はもう蘇芳から興味をなくしたようで、右腕のブレスレッドをいじっていた。何を言おうとしたのか尋ねたけれど、結局最後まで答えてはくれなかった。
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