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次に目覚めてみれば
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わたしは夢を見ていた。
リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム。十七歳。
大陸でもそれなりに発展をしているシュタインハルツ王国の名門公爵家に生を受けた由緒正しい生粋のお嬢様。
ストロベリーブロンドは毎日の手入れの賜物か光り輝き、少し落ち着いた赤い瞳は知性を宿している。少し勝気そうな、けれど両親の美貌を受け継いだ外見は見るものを魅了し、持って生まれた魔法の才能を開花させ、いずれは王太子の妻となり彼を支えるであろう美しい魔法使いリーゼロッテ。
そう、それがこの世界でのわたし。
ってこれ、わたしというかわたしが大好きだった乙女ゲーム『魔法学園シュリーゼムへようこそ☆』の世界だよね。
しかもリーゼロッテって、ヒロインのフローレンス・アイリーンに意地悪をする役どころ、つまりは悪役令嬢。
この世界での特権階級と呼ばれる人たちはみんな魔法の素質を持っている。
貴族や王家に連なる人々は生まれながらに魔力を有している子が多くて、その中でも選ばれた優秀な人間だけが入学を許されるのがシュリーゼム魔法学園。
主人公のフローレンスは、平民出身だけれど高い魔法力を有していて、その才能が認められて特待生枠でシュリーゼム魔法学園への入学を許された。
この魔法学園には王太子ヴァイオレンツも研究者として出入りをしていて。
学園で偶然に出会ったフローレンスのやさしさと素朴さに惹かれていって、けれども彼にはすでに婚約者のリーゼロッテ嬢が。
リーゼロッテ的には惹かれ合う二人が面白くなくて、ゲームの中でヒロインのフローレンスはリーゼロッテからたびたびいじめられる。
って、そのリーゼロッテがわたし?
え、ちょっと待ってよ。
せっかくならヒロイン役の方がよかったし! だってあれでしょう。悪役令嬢リーゼロッテって、最後は王太子に婚約破棄されて魔法使いの実質の処刑場である、白亜の塔へ送られる運命だったじゃん! そんなの嫌だって。
せっかく好きなゲームの夢見ているなら、断然にヒロイン目線のがいいでしょ。
それがなんで、リーゼ様……。ありえない。
夢。そう夢。昨日も遅くまでゲームやってたからな。眠いのは仕方ないか。
つーか、さっきから誰かがわたしの頬をぺちぺち叩いているような。
―おーい。起きて―
あ、声も聞こえてきた。
子供の声が聞こえる。ということはあれか。またお姉ちゃんの子供たち、甥と姪が人の部屋に勝手に入ってきているな。
つーか土曜日曜くらい昼間で寝かせてよ。
って毎回言っているのに、勝手に部屋に入ってきて。叔母にだってプライバシーがあるんだよ。
―ねー起きてよ。おねーちゃん―
あーもう。
あと五分。あと五分寝かせて。
―えー。駄目だよ。二度寝は駄目だってお父様が言っていたよぉ―
お父様? あんたいつからそんな丁寧な言葉遣いに。
いいじゃん。二度寝は大人の特権なの。いいからもうちょっと寝かせて。あんまりうるさいとスマホ貸してあげないわよ。
―スマホってなあに?―
―フェイル知ってる?―
―知らない。ねーえ、それよりも起きようよ。おねーちゃん、かれこれ三日も眠りこけているんだよ―
んなあほな。さすがに十二時間寝たら起きるわ。
というところでわたしはいやいやながらも起きることにした。
どうやら寝ぼけ眼で頭の上から聞こえてくる幼い声に反応していたらしい。
「ふわぁぁ」
わたしは大きなあくびをした。なんか、めっちゃよく寝たな。
さて、しょうがないから生意気盛りな甥(八歳)と姪(五歳)の相手でもしようか。にしてもお姉ちゃんも休みの日になるたびに子供連れて実家に遊びに来るのいい加減やめようよ。わたしに子守りさせる気満々だろ。
自分のうちのベッドから起き上がったわたしは目を瞬いた。
なにせあたりは記憶にある日本の、わたしの部屋ではなかったから。
というか、なんか周りが妙にごつごつしているというか、まごうことなき自然にあるような洞窟というか。うん。洞窟だよね、これ。一応明かりは灯っているけれど。
その灯りも普通の、ろうそくの炎ではない。まるく光るひかりの球はあきらかに魔法で灯されたもの。大きくて明るいひかりの玉が洞窟内をしっかりと照らしている。
わたしは自分の身体を見下ろした。
ドレスを着ているし、髪の毛は赤い。
ということは、乙女ゲームのリーゼロッテになった夢を見ていたのではなく、こっちがまごうことなき現実で。
そうだった。わたしは思い出した。
わたしは乙女ゲームの悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムに転生していたんだった。
薬飲んで死んだふりなんてしたから記憶が一瞬ごっちゃになっちゃっていたよ。
わたしは頭の中でこれまでのことを整理する。
わたしは『シュリーゼム魔法学園へようこそ☆』の悪役令嬢、リーゼロッテに転生したことをある日自覚した。それで自分なりにバッドエンド回避を目指して生きてきたんだけど、運命には逆らえなくて、幽閉エンドが現実味を帯びてきた。
わたしはどうにかしてバッドエンドを避けれないかと考えた。ものすごーく考えた。
で、思いついた。
最後の最後に毒を煽って死んだふりをして、埋葬されたと見せかけつつ、こっそり国外脱出。そのあとは一人で働きながら暮らしていけばいいんじゃない、と。
そうと決めたわたしは城下にこっそり人をやって見つけた非合法の薬師から仮死状態になる薬を買って、それを飲んだ。
そこから記憶が途絶えている。
「ねえねえ、おねーちゃんお名前は?」
「髪の毛の色きれいだね~」
横から子供の声が聞こえる。さっきも聞いた少し舌ったらずな甘え口調の声。
「わたし? わたしは……って。あなたたち誰?」
わたしにまとわりついてくる子供たち。
わたしは改めて横を向いた。そこには天使のように愛らしいふっくらした頬を持った金髪の髪をした男の子と女の子。瞳も髪の毛と同じく金色をしていて、瞳孔が縦に長い。
年の頃は、うーん……。七、八歳ってところかな。
健康そうな頬はマシュマロみたいに柔らかそうで、ふたりとも整った顔立ちをしている。二人ともくせっ毛で、一人は鎖骨の辺りまでの長さ。もう一人は顎の下あたりまで。二人そっくりな顔をしているが、おそらくは男女の双子……ちゃん? 一応一人はずぼんを履いているから。
わたしは二人をじぃっと見つめた。
にしても洞窟に置かれたわたしと正体不明の愛らしい子供二人。
どういう状況?
「ねえねえ。なんて名前なの?」
「わたしたちずぅぅぅっとおねーちゃんが起きるのを待っていたんだよ」
「もうずっと寝ていたもんね」
「うん。枝でつついても起きなかったね」
「ドルムントがやめなさいって言っていたね」
「うんうん。人間は枝でつつくものではありませんって」
「指ならいいのかな?」
「指ならいいんだよ」
「おねーちゃん、変な薬に当たったの?」
「お父様がそう言っていたよ」
「食あたり?」
「違うよ。げきやくを飲まされたんだよ」
子供たちは二人で会話を続けていく。
途中聞き捨てならないことを言われた気がしたが、わたしは起きたばかりで頭が回らない。目の前の状況把握だけで精いっぱいだ。
たしかにわたしは薬を煽った。死んだふりをしてバッドエンドから逃げるために。仮死状態になったわたしは棺桶に入れられて公爵家の埋葬地へ運ばれる予定だった。というのは建前で、あらかじめ買収しておいた公爵家の家人によってこっそりと国境近くの村まで荷物にくるまれて運ばれる手はずになっていたはず。
なのにどうしてこうなった?
というか、この子たち。
わたしは目を見張った。女の子のスカートから尻尾のようなものが飛び出ている。猫とか犬のしっぽではない、爬虫類系のしっぽだ。
「……」
女の子の感情に連動しているのか、時折左右に揺れている。
ついでに男の子のほうの背中の布が破れた。わたしが彼の方に視線を向けると、男の子は「あ、羽が出ちゃった」とばつが悪そうに笑った。
「あ、あなたたち……何者?」
目の前の子供たちはどう考えても人間ではない。
この世界は魔法の世界なんだから、色々なことが起こり得る。なにせ魔法の世界だし。わたし自身魔法学校に在籍をしていて魔法の勉強していたわけだし。
この世界で培った知識と経験がわたしに告げてくる。
目の前のこどもたちの正体を。
「えへへ~。わたしたち黄金竜だよぉ~」
ぼんっと音を立てて人間の姿から一転、本来の姿に戻ったでっかいトカゲもとい竜は得意気な声を出した。
わたしを目を大きく見開いた。
死んだふりをして起きてみたら竜のこどもたちが目の前にいました。
これいかに。
リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム。十七歳。
大陸でもそれなりに発展をしているシュタインハルツ王国の名門公爵家に生を受けた由緒正しい生粋のお嬢様。
ストロベリーブロンドは毎日の手入れの賜物か光り輝き、少し落ち着いた赤い瞳は知性を宿している。少し勝気そうな、けれど両親の美貌を受け継いだ外見は見るものを魅了し、持って生まれた魔法の才能を開花させ、いずれは王太子の妻となり彼を支えるであろう美しい魔法使いリーゼロッテ。
そう、それがこの世界でのわたし。
ってこれ、わたしというかわたしが大好きだった乙女ゲーム『魔法学園シュリーゼムへようこそ☆』の世界だよね。
しかもリーゼロッテって、ヒロインのフローレンス・アイリーンに意地悪をする役どころ、つまりは悪役令嬢。
この世界での特権階級と呼ばれる人たちはみんな魔法の素質を持っている。
貴族や王家に連なる人々は生まれながらに魔力を有している子が多くて、その中でも選ばれた優秀な人間だけが入学を許されるのがシュリーゼム魔法学園。
主人公のフローレンスは、平民出身だけれど高い魔法力を有していて、その才能が認められて特待生枠でシュリーゼム魔法学園への入学を許された。
この魔法学園には王太子ヴァイオレンツも研究者として出入りをしていて。
学園で偶然に出会ったフローレンスのやさしさと素朴さに惹かれていって、けれども彼にはすでに婚約者のリーゼロッテ嬢が。
リーゼロッテ的には惹かれ合う二人が面白くなくて、ゲームの中でヒロインのフローレンスはリーゼロッテからたびたびいじめられる。
って、そのリーゼロッテがわたし?
え、ちょっと待ってよ。
せっかくならヒロイン役の方がよかったし! だってあれでしょう。悪役令嬢リーゼロッテって、最後は王太子に婚約破棄されて魔法使いの実質の処刑場である、白亜の塔へ送られる運命だったじゃん! そんなの嫌だって。
せっかく好きなゲームの夢見ているなら、断然にヒロイン目線のがいいでしょ。
それがなんで、リーゼ様……。ありえない。
夢。そう夢。昨日も遅くまでゲームやってたからな。眠いのは仕方ないか。
つーか、さっきから誰かがわたしの頬をぺちぺち叩いているような。
―おーい。起きて―
あ、声も聞こえてきた。
子供の声が聞こえる。ということはあれか。またお姉ちゃんの子供たち、甥と姪が人の部屋に勝手に入ってきているな。
つーか土曜日曜くらい昼間で寝かせてよ。
って毎回言っているのに、勝手に部屋に入ってきて。叔母にだってプライバシーがあるんだよ。
―ねー起きてよ。おねーちゃん―
あーもう。
あと五分。あと五分寝かせて。
―えー。駄目だよ。二度寝は駄目だってお父様が言っていたよぉ―
お父様? あんたいつからそんな丁寧な言葉遣いに。
いいじゃん。二度寝は大人の特権なの。いいからもうちょっと寝かせて。あんまりうるさいとスマホ貸してあげないわよ。
―スマホってなあに?―
―フェイル知ってる?―
―知らない。ねーえ、それよりも起きようよ。おねーちゃん、かれこれ三日も眠りこけているんだよ―
んなあほな。さすがに十二時間寝たら起きるわ。
というところでわたしはいやいやながらも起きることにした。
どうやら寝ぼけ眼で頭の上から聞こえてくる幼い声に反応していたらしい。
「ふわぁぁ」
わたしは大きなあくびをした。なんか、めっちゃよく寝たな。
さて、しょうがないから生意気盛りな甥(八歳)と姪(五歳)の相手でもしようか。にしてもお姉ちゃんも休みの日になるたびに子供連れて実家に遊びに来るのいい加減やめようよ。わたしに子守りさせる気満々だろ。
自分のうちのベッドから起き上がったわたしは目を瞬いた。
なにせあたりは記憶にある日本の、わたしの部屋ではなかったから。
というか、なんか周りが妙にごつごつしているというか、まごうことなき自然にあるような洞窟というか。うん。洞窟だよね、これ。一応明かりは灯っているけれど。
その灯りも普通の、ろうそくの炎ではない。まるく光るひかりの球はあきらかに魔法で灯されたもの。大きくて明るいひかりの玉が洞窟内をしっかりと照らしている。
わたしは自分の身体を見下ろした。
ドレスを着ているし、髪の毛は赤い。
ということは、乙女ゲームのリーゼロッテになった夢を見ていたのではなく、こっちがまごうことなき現実で。
そうだった。わたしは思い出した。
わたしは乙女ゲームの悪役令嬢リーゼロッテ・ベルヘウムに転生していたんだった。
薬飲んで死んだふりなんてしたから記憶が一瞬ごっちゃになっちゃっていたよ。
わたしは頭の中でこれまでのことを整理する。
わたしは『シュリーゼム魔法学園へようこそ☆』の悪役令嬢、リーゼロッテに転生したことをある日自覚した。それで自分なりにバッドエンド回避を目指して生きてきたんだけど、運命には逆らえなくて、幽閉エンドが現実味を帯びてきた。
わたしはどうにかしてバッドエンドを避けれないかと考えた。ものすごーく考えた。
で、思いついた。
最後の最後に毒を煽って死んだふりをして、埋葬されたと見せかけつつ、こっそり国外脱出。そのあとは一人で働きながら暮らしていけばいいんじゃない、と。
そうと決めたわたしは城下にこっそり人をやって見つけた非合法の薬師から仮死状態になる薬を買って、それを飲んだ。
そこから記憶が途絶えている。
「ねえねえ、おねーちゃんお名前は?」
「髪の毛の色きれいだね~」
横から子供の声が聞こえる。さっきも聞いた少し舌ったらずな甘え口調の声。
「わたし? わたしは……って。あなたたち誰?」
わたしにまとわりついてくる子供たち。
わたしは改めて横を向いた。そこには天使のように愛らしいふっくらした頬を持った金髪の髪をした男の子と女の子。瞳も髪の毛と同じく金色をしていて、瞳孔が縦に長い。
年の頃は、うーん……。七、八歳ってところかな。
健康そうな頬はマシュマロみたいに柔らかそうで、ふたりとも整った顔立ちをしている。二人ともくせっ毛で、一人は鎖骨の辺りまでの長さ。もう一人は顎の下あたりまで。二人そっくりな顔をしているが、おそらくは男女の双子……ちゃん? 一応一人はずぼんを履いているから。
わたしは二人をじぃっと見つめた。
にしても洞窟に置かれたわたしと正体不明の愛らしい子供二人。
どういう状況?
「ねえねえ。なんて名前なの?」
「わたしたちずぅぅぅっとおねーちゃんが起きるのを待っていたんだよ」
「もうずっと寝ていたもんね」
「うん。枝でつついても起きなかったね」
「ドルムントがやめなさいって言っていたね」
「うんうん。人間は枝でつつくものではありませんって」
「指ならいいのかな?」
「指ならいいんだよ」
「おねーちゃん、変な薬に当たったの?」
「お父様がそう言っていたよ」
「食あたり?」
「違うよ。げきやくを飲まされたんだよ」
子供たちは二人で会話を続けていく。
途中聞き捨てならないことを言われた気がしたが、わたしは起きたばかりで頭が回らない。目の前の状況把握だけで精いっぱいだ。
たしかにわたしは薬を煽った。死んだふりをしてバッドエンドから逃げるために。仮死状態になったわたしは棺桶に入れられて公爵家の埋葬地へ運ばれる予定だった。というのは建前で、あらかじめ買収しておいた公爵家の家人によってこっそりと国境近くの村まで荷物にくるまれて運ばれる手はずになっていたはず。
なのにどうしてこうなった?
というか、この子たち。
わたしは目を見張った。女の子のスカートから尻尾のようなものが飛び出ている。猫とか犬のしっぽではない、爬虫類系のしっぽだ。
「……」
女の子の感情に連動しているのか、時折左右に揺れている。
ついでに男の子のほうの背中の布が破れた。わたしが彼の方に視線を向けると、男の子は「あ、羽が出ちゃった」とばつが悪そうに笑った。
「あ、あなたたち……何者?」
目の前の子供たちはどう考えても人間ではない。
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目の前のこどもたちの正体を。
「えへへ~。わたしたち黄金竜だよぉ~」
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