元悪役令嬢はちびっこ黄金竜に拾われて、まったりスローライフをエンジョイ中

月宮アリス

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状況説明 その4

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 わたしははたと気が付いた。
 黄金竜が住んでいる森(たぶん)って大陸のどこなんだろうって。

 そのとき、おとなしく大人たちの会話を聞いていたちびっこ竜が二頭こちらに近寄ってきた。

「おねーちゃんどこかに行っちゃうの~?」
「えええ! だめだよそんなの。まだ僕たちと遊んでいないのに」
 双子竜は体を揺らし始める。

「一緒に遊ぶの楽しみにしていたのよ」
「三日も我慢したんだよ」
「無理やり起こしたら駄目ってお父様が言うから」

 むぅっと膨れた声を出すこどもたち。
 いや、無理やり起こすって物騒な言葉聞こえましたけど。よかったお父さんが止めてくれて。

「ねーねー、もうちょっと、ううん。ずっとここにいたらいいじゃん」
「そうだよ。ここ快適だよ」

「え、どの辺が?」

 わたしは素で聞き返した。
 何しろここは竜の棲み処だ。しかも黄金竜の。

 この世界は一応魔法ファンタジーの世界。人間の他に何種類かの竜が生息をしている。
 黄金竜はその中でも人間にやさしい種族ではあるが、独自の文化を持ち人間の立ち入ることのできない土地に住まう、人間とは一線を画した種族なのだ。

 そんな竜たちのところでわたしが暮らせるはずもないだろうに。これだからお子様は無理言うから困る。

「わたしたちと毎日遊んで暮らせるところ!」

 それドヤ声で言うことじゃないでしょう。
 それなのに。

「あら、いいわね」
 なんて声が聞こえてきた。その美しい声、まさかと思って目の前の麗しいご婦人の顔を見る。彼女はそれはもう素敵な笑みを浮かべていた。

「子供たちも懐いているし、行くところが無いならしばらくうちに居たらいいわ、リーゼ」
 ちゃっかり愛称で呼び始めているし。

「リーゼって言うの止めてください。どうせ呼ぶなら……リジーとかロッテとか別の呼び方にしてほしいです」

 なにしろ悪役令嬢リーゼロッテの口癖は「あなたもリーゼ様と呼んでくれていいのよ」とか「このリーゼ様が〇〇してさしあげるわ」とかだったから。やたらとリーゼと強調してきて、前世でプレイしていた時から『でたーリーゼ様w』とか突っ込まれていたし。

「じゃあリジーって呼ぶわ。よろしくね、リジー。子供たちのよき遊び相手兼話し相手としてしばらくうちにいて頂戴な」
「いえいえいえ。わたし、どこか適当な国の街で働いて暮らしますから!」

 わたしは慌てて叫んだ。前世では普通の庶民だったわたし。学生時代には居酒屋でアルバイトとかしていたし、こっちの世界でもウェイトレスとして働ける自信はある。

 つーかちびっこ竜のお守りのほうが無理な話だし。

「だめかな。どうせ帰るつもりもないのなら名案だと思うけれど」
 とかなんとか旦那まで言い始めてるし。
「いや、ダメでしょう。めちゃくちゃ駄目です」

「どうしてぇ?」
 ずいっとファーナメリアが顔を突き出してくる。竜の顔が間近に迫ってわたしは体を後ろにずらす。

「わたしはやっと公爵家から解放されたの! これからは自分の足で堅実に生きていくって決めているんだから。ということで、すみませんがここの詳しい場所を教えていただきたいのですが」

 わたしはちびっこ竜に取り合わずに最後に竜の夫妻にお願いをした。

「どうしても行ってしまうの?」

 しゅんとなったレィファルメアに少し胸がズキズキと痛む。
 美人な人が項垂れるとこっちが悪いことをしているように感じてしまうけれど、ってわたし別に悪いことしてないよね?

「せっかく子供たちも懐いているのに」
 なんてミゼルカイデンまでも引き留めようとする。
「ですけどね」
「どうせ外は夜なんだし、今日出て行くのはお勧めしないよ」

 追い打ちをかける言葉にわたしは、うっと言葉を詰まらせるも、ここで相手の言うことを真に受けるのも癪に触ってわたしは「一度外に出てみたいんですけど」と言った。

 夫妻に案内されて洞窟を歩き、外へと移動。
 ごつごつした洞窟内は少し歩きにくいけれど、明かりが足元を照らしてくれているから躓く心配はなかった。そうして、外へ出ると確かにあたりは暗かった。

「なんていうか、本当に森の中、なんですね」

 岩肌に開いていた洞窟を利用していたのか、切り立った崖の側面に居を構えているようだ。あたりはすでに闇の中。
 隅を溶かしたような真っ黒な風景の中、風が木の葉を揺らす音が聞こえる。遠くではフクロウらしき生き物がホゥゥホゥゥと鳴いている。

 まごうことなき夜の森。

「そうだね。竜は人間のように姓を持たない。私たちはこのあたりの者たちに谷間の黄金竜夫妻と呼ばれているよ。この辺りはすでに人間たちが言うところのドランブルーグ山岳地域・不可侵山脈の内側だよ。かぎりなく人里には近いけれど」

 ミゼルカイデンがさらっと言う。人里は近いらしいが、明かりなんてまったく見つけられない。
 わたしはがっくりと肩を落とした。

 とりあえず、人の決めた法律の届かない場所に来てしまったことには変わりなくて、しかも夜で。とりあえずわたしはもう一晩、黄金竜の一家のお世話になることにした。
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