元悪役令嬢はちびっこ黄金竜に拾われて、まったりスローライフをエンジョイ中

月宮アリス

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短い間ですがお世話になりました

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 悪役令嬢バッドエンドから逃げるために死んだふりをしたら紆余曲折あって黄金竜に拾われました。←今ここです。

 昨日は変な時間に三日ぶりに起きたわたしだけれど、体力的にはまだ心許なかったらしい。
 竜の夫妻が用意してくれた人間用の客室(ていうか、どうして竜の棲み処に人用の部屋があるんだろうね)で、わたしはその後こてんと眠りについた。

 窓のない部屋のため夜だとか朝だとかが分からないのが難点だけれど、次に起きたときは正真正銘朝だった。それが今朝のこと。

 日の光バンザイ。わたしは、彼らが用意してくれた朝食をぺろっと平らげて外に出た。

「ねーねー。一緒に遊ぼうよ」
「今日は空の散歩に行く?」

 わたしの両隣には小さな子供が二人。金色の髪の毛に金色の瞳をした愛らしい男女の双子。けれどもそれは仮の姿。

「そんな物騒なお散歩には行かない。ついでにわたしは今日これから旅立つの」

 わたしはぴしゃりと言った。朝から子供たち、ファーナとフェイルは相変わらずで、ずっとわたしに付きまとっている。

 二人とも長い名前なので愛称で呼ぶことにした。
 実は夫妻も、レイアとミゼルと呼んでくれていいよ、なんて親切に言ってくれたのだけれど、その微笑みが胡散臭い。子供たちの体のいい遊び相手にしようって魂胆が丸見えで。

「ぶーぶー。つまらなぁぁい」
「そうだよ。一緒に遊ぼうよぉ。せっかく拾ってきたのに」

 いや、わたしそのへんの犬猫と違うから。拾ってきたって失礼ね。こっちにだって人権ってものがあるんですけど。

「あんたたちね……」

 前世のいたずら甥っ子姪っ子を思い出したわたしはつい口調がぞんざいになる。
 あーあ、前世の記憶取り戻してから口が悪くなったなぁ。昔はそれこそ、絵にかいたようなお嬢様な言葉遣いだったのに。

「とにかく、人里へ行くの」
「言ってどうするの?」
「そうね、まずは国境を超える」

 見せてもらった人用の地図によれば、ここから一番近い人里はシュタインハルツ王国との国境らしい。

 わたしが今いるのがドランブルーグ山岳地域・不可侵山脈と呼ばれる地域。
 ここはシュタインハルツ王国が属する大陸の真ん中あたりに連なる山脈で、古くから黄金竜や青銀竜が群れを成して住まう場所。

 竜と呼ばれる人とは違う、魔力を有する生き物が存在するこの世界。はるか昔からドランブルーグ山脈に多く住まう竜たちの棲み処に人が立ち入ることを竜たちは否とした。はるか昔は人が野心を持ち竜に戦を仕掛けたことがあるというが、そもそも竜の持つ魔法の力に人が敵うはずもなく、人間と竜との間で不可侵の決まりごとができた。

 すなわち、人と竜が住まう場所を明確に分けるという約束が。

「それじゃあ短い間ですが、お世話になりました」
 わたしはぺこりとお辞儀をしてレィファルメアとミゼルカイデンに別れを告げる。
「とっても名残惜しいけれど、気を付けてね」
「寂しくなったらいつでも戻っておいで」

 夫婦はそれぞれ人の姿で見送ってくれた。

 わたしは森へと歩き出す。
 今わたしが来ている服はレィファルメアが用意してくれたもの。というか、どうして竜の棲み処に人間用のあれやこれが用意されているのか。謎だ。

 昨日までわたしが来ていたドレスは、さすがにそれだと外を歩きにくいからってことで彼女が用意してくれたのはチュニック風のワンピースとその下に履く足首までのパンツとブーツ。ひざ丈のチュニック風ワンピースは薄い青色で裾に刺繍が施されていて可愛らしい。この下に薄いグレーのパンツとブーツを履けば町娘の出来上がり。ブーツは底がしっかり丈夫だから山歩きにももってこい。

 しかも、山歩きように荷物を持たせてくれて、その中には簡易天幕だとか、携帯用食料だとか入っていた。過分な親切に恐縮だけれど、勝手に連れて来たのはおたくの双子ということもあってわたしはありがたく頂戴することにした。

 双子はなぜだか人の姿でわたしの後ろをついてくる。
 わたしはなるべく後ろを気にしないようにしながらひたすらに歩いた。

 道中考えることは山ほどあるし。
 一番に考えることはこの後のこと。

 なにせフェイルとファーナがわたしのことを拾ってきたおかげで当初の予定がだいぶ狂った。
 わたしの立てた計画はこうだった。

 死んだふりをして埋葬すると装い、買収した使用人によってわたしは国境近くの村へと運ばれる。棺の中には当座の軍敷金として首飾りなどの宝飾品を忍ばせてあった。

 さすがに身一つで公爵家を飛び出すほどわたしは無謀ではない。
 先立つものが無いと色々と大変だからね。

 その当座の軍資金が無いのが地味に痛い。今この身にあるのは自分の身体とレイアたちから貰った服と、簡易天幕とかの山歩きの道具。せめてなにか、ネックレスとかブレスレットとかつけていればよかったのに。

 最悪、髪の毛切って売れるかな。ほら、若草物語でもあったじゃない。髪の毛切って売ってお金を作ったっていうあのエピソード。あれ、わたしでもできるかな。赤毛って需要あるのかな。金髪に生まれたかった……。

 頭の中でせわしなく今後のことを考えながらも、わたしはせっせと森の中を進んで行く。
 しかし、道なき道のせいで思うように進めない。

「ねー。運んであげようか?」

 これはフェイルの声。どこか期待に満ちている。
 いや、間に合ってます。

「自分の足で歩けるから大丈夫」
「でも、ちょっと大変そうだよ」

 まあたしかに道なんてないからね。下草とかめっちゃ生えているしね。さっきから地味に歩きにくいけどね。

「あ、そうだわ。いいこと考えた」

 弾んだ声を出したのは傍らのファーナ。
 そう言って彼女は手をかざした。

「えいやぁぁ」

 どこかのおっさんの掛け声みたいな声と共に彼女は魔法を繰り出した。

 その掛け声どうなの。って突っ込む暇もなかった。わたしは次の瞬間「きゃぁぁぁ!」と叫んだ。
 何しろ彼女はビームのような光を出して、一直線に植物を焼き払ったから。
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