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断罪イベントは優雅にど派手に1
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リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムの断罪イベントは王宮の庭園で行われることになった。
投獄されてから一週間ほどが経っていた。
「どうせならさっさとしてくれればよかったのに」
はあ、とわたしはため息を吐いた。
両腕には魔法封じの腕輪。
一応の身支度はさせてもらったけれど、それでも豪華可憐とは程遠い。シンプルなドレスに髪の毛は下したまま。化粧は、まあしなくても一応は美人か、わたし。なにしろそういう設定の元に生まれついたし。だから自慢じゃないよ。
わたしが連れてこられた庭園には王族やら貴族やら、結構な人数が揃っていた。
彼らは庭園に設えられた椅子に腰を下ろしている。
主催はヴァイオレンツらしい。彼もまた、一団高くなった段の上の椅子に座っている。その横には着飾ったフローレンスがいる。
髪の毛はふんわりとゆるく結って、花が飾ってある。ドレスは華美ではないけれど、品の良いレースで袖と裾を飾っている。彼女は、わたしを見て、ゆるく笑った。その笑みに悪意を感じるのはわたしの性格がひねくれているから、かな。
わたしは立ったまま中央へ。
周りには衛兵。貴族たちの好奇な視線を感じる。こういう衆人環視は慣れないなぁ。みんなわたしのことを内心嘲笑しているのが分かるから。そのくせわたしがそっちを見ると目を背ける。
けれど、さすがに国王夫妻はいなかった。ついでにうちの両親も。
「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム。今からそなたの断罪を始める。まずは、罪状から伝える」
ヴァイオレンツが立ち上がり、一歩、二歩とわたしの方へ進み出る。
わたしは開き直ってまっすぐに彼を見つめる。
相変わらず美しい顔をした元婚約者は、にこりとも笑わないで淡々とわたしの罪状を述べていく。
フローレンスへの嫌がらせの数々。
そして、先ほど起こった黄金竜の卵窃盗事件の黒幕がわたしだということ。
それを朗々と口に乗せていく。
あらかじめ聞かされていたのか、衆人たちはさして驚きもせずにヴァイオレンツの言葉を聞いている。
彼はわたしの罪状を述べたあと形式的に「異論はあるか」と聞いてきた。
わたしはヴァイオレンツを睨む。
「わたくし、リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムは、フローレンス・アイリーンを害そうしたことなど、一度もありません」
「この期に及んで嘘をつくな! 貴様は私の心がフローラに向かうのを良しとしなかった。内心悔しかったのだろう。公爵令嬢として周囲の人間から傅かれ、ちやほやされることに慣れきっていた、高慢な女だからだ。貴様は私の知らないところでフローラを害した。心優しい彼女は、自分からことを荒げることはしなかった。貴様と違ってフローラは謙虚で慈悲深く、優しく、公平だ。貴様とはまるで違う」
ヴァイオレンツはそれが世界の常識だというように、わたしを罵りフローレンスを褒めたたえた。
彼の中ではそうなのだろう。ゲームの時と同じ調子で彼はフローレンスのことを讃えた。
「わたくしは、確かにヴァイオレンツ様が初恋でした」
わたしは静かに言った。
まだ、わたしが転生者だと自覚する前。小さかったわたしは周囲の人間から蝶よ花よと大切に育てられ、そしてヴァイオレンツに対面した。金髪碧眼の、ザ王子様の容姿をした彼に一目ぼれをしたのはたしかにわたし。
けれど。
わたしだっていつまでも夢見る女の子じゃない。
「けれど、それはそれ。わたくし自分のことを嫌いだと態度で表す男性をずっと想っていられるほどおめでたくはありません。それでも一応わたくしは殿下の婚約者でしたから、王家と我がベルヘウム家の関係を慮ってそれっぽく振舞っていただけです。婚約破棄など、折を見てこちらから言い出したかったくらいですわ」
わたしは鼻で笑ってやった。
なんかもうムカついたから。
結局この男はわたしのことが最後まで気に食わなくて、フローレンスのことを溺愛する運命にあるのだ。よくもまああんなぶりっ子の本性に気が付かずにいまだにフローラとか言っていられるよね。ばっかじゃないの。
「な、貴様……王太子に向かってなんていう暴言」
「わたくしから嫌われていてよかったのではありませんか。何をそう怒るのです?」
さすがに面と向かって拒絶されるとは思っていなかったのかヴァイオレンツはわたしの言葉に衝撃を受けている。ずっと好かれていると思っていた相手から、こちらこそ婚約破棄したかったですとか言われたらびっくりもするよね。
「っ……」
彼は二の句を告げなくなる。
とりあえず、わたしは言いたいことを言えて満足した。
白亜の塔送りだとしても、最後までヴァイオレンツのことを好きなままだと思われているのは癪にさわったし。
つうか、こんな男誰が好きになるもんか。いいのは顔だけじゃない。
性格は絶対にレイルの方がいいし、冷たい雰囲気の目の前の男よりもレイルみたいに明るくてさっぱりしていて、双子とも楽しそうに遊ぶ彼の方が断然にいい。
あーあ。
彼の笑顔を思い出しちゃったら、さすがに堪えるなぁ。
最後に、レイルに会いたかったかも。それで、可愛くない態度取っちゃって、ごめんねって言いたい。
「ヴァイオレンツ様。リーゼロッテ様は、強がっているだけなのですわ。だって、ヴァイオレンツ様はこんなにもかっこよくて素敵なんですもの。あなたの愛が自分に無いのを知って、ただ強がることしかできないんです。許して差し上げましょう」
トコトコと、王太子の隣にやってきたフローレンスが憐れみを交えた笑みを浮かべている。
うわっ。その勝ち誇った顔、めっちゃムカつく。
やっぱこの子性格悪いわ。
「ああフローラ。きみは優しいな」
え、それは優しいとは言わないよ。ただ意地が悪いだけ。
たぶん、男には分からないんだろうけど。
「いいえ。そんな、こと。ないです」
ヴァイオレンツとフローレンスがしばし見つめ合う。
満足した二人はこちらに向き直り、それからヴァイオレンツが声を出す。
「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム、貴様には今度こそ、白亜の塔送りを命ずる!」
周囲からざわめきが生まれた。
「白亜の塔でとくと反省するがいい。己の行いを」
彼の宣言が、この茶番の終了となって、人々が動き出そうとしたその時。
「殿下! 客人が今すぐに会いたいと仰せつかっております!」
兵士が数人ヴァイオレンツの方へ駆けこんできた。
「今大事な話の途中だ。後にしろ」
「しかし! 相手は―」
兵士はヴァイオレンツにのみ聞こえるように小声で話し始めた。
ヴァイオレンツは瞬きをして、兵士と二三言葉を交わす。
王宮から庭園へと人が数人こちらへ向かってきた。
「事態は緊急を要するゆえ、先に上がらせてもらった」
なにか聞き覚えのある声が聞こえたわたしは、声のする方に顔を向けた。
先頭を歩くのは金茶髪に青灰色の瞳をした、まだ年若い青年。
いつもの騎士装束ではなく、略装ながらも宮殿服に身を包んでいるのはわたしもよおく知っている顔で。というか、レイルで。
なんか偉そうに背後に従者らしき人を何人も付き従えているし。
そしてその奥ではシュタインハルツ側の役人っぽい人が慌てて付いてきている。
「ゼートランド王国の王位継承者が一体何の用で、このような宮殿の奥まで。しかも今は罪人の裁判途中。緊急の要件とはなんだ」
ヴァイオレンツはすぐに王太子の顔を取り戻し、この場に闖入したレイルの方へ歩みを向ける。
つーか、いま。
王位継承者とか言いました?
え、ちょっと待って。どういうこと?
「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムの裁判だと聞いているが、異議申し立てにやってきた。とあるご婦人から助けを求められた。リーゼロッテを救ってほしいと」
レイルがよどみなく答える。
ヴァイオレンツは反対に黙り込む。
「ちょっと待って。異議申し立ても何もないでしょう。ここにいるリーゼロッテ様は、竜の卵を盗み出した張本人よ。彼女が黒幕になって、わたしを陥れようとしたのよ!」
フローレンスが会話に割って入る。
他国の王太子だろうと気にしないらしい。
「リジー、それは本当?」
レイルがわたしのほうへ近づいてくる。誰も彼を止めようとはしない。いや、できない。
彼がわたしの目の前にやってきた。
わたしは下を向いた。
どうして、レイルがこの場にやってきたの。さるご婦人ってレイアのことでしょう。
ってことはレイアはレイルがゼートランドの王子様だってこと知っていたわけね。
投獄されてから一週間ほどが経っていた。
「どうせならさっさとしてくれればよかったのに」
はあ、とわたしはため息を吐いた。
両腕には魔法封じの腕輪。
一応の身支度はさせてもらったけれど、それでも豪華可憐とは程遠い。シンプルなドレスに髪の毛は下したまま。化粧は、まあしなくても一応は美人か、わたし。なにしろそういう設定の元に生まれついたし。だから自慢じゃないよ。
わたしが連れてこられた庭園には王族やら貴族やら、結構な人数が揃っていた。
彼らは庭園に設えられた椅子に腰を下ろしている。
主催はヴァイオレンツらしい。彼もまた、一団高くなった段の上の椅子に座っている。その横には着飾ったフローレンスがいる。
髪の毛はふんわりとゆるく結って、花が飾ってある。ドレスは華美ではないけれど、品の良いレースで袖と裾を飾っている。彼女は、わたしを見て、ゆるく笑った。その笑みに悪意を感じるのはわたしの性格がひねくれているから、かな。
わたしは立ったまま中央へ。
周りには衛兵。貴族たちの好奇な視線を感じる。こういう衆人環視は慣れないなぁ。みんなわたしのことを内心嘲笑しているのが分かるから。そのくせわたしがそっちを見ると目を背ける。
けれど、さすがに国王夫妻はいなかった。ついでにうちの両親も。
「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム。今からそなたの断罪を始める。まずは、罪状から伝える」
ヴァイオレンツが立ち上がり、一歩、二歩とわたしの方へ進み出る。
わたしは開き直ってまっすぐに彼を見つめる。
相変わらず美しい顔をした元婚約者は、にこりとも笑わないで淡々とわたしの罪状を述べていく。
フローレンスへの嫌がらせの数々。
そして、先ほど起こった黄金竜の卵窃盗事件の黒幕がわたしだということ。
それを朗々と口に乗せていく。
あらかじめ聞かされていたのか、衆人たちはさして驚きもせずにヴァイオレンツの言葉を聞いている。
彼はわたしの罪状を述べたあと形式的に「異論はあるか」と聞いてきた。
わたしはヴァイオレンツを睨む。
「わたくし、リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムは、フローレンス・アイリーンを害そうしたことなど、一度もありません」
「この期に及んで嘘をつくな! 貴様は私の心がフローラに向かうのを良しとしなかった。内心悔しかったのだろう。公爵令嬢として周囲の人間から傅かれ、ちやほやされることに慣れきっていた、高慢な女だからだ。貴様は私の知らないところでフローラを害した。心優しい彼女は、自分からことを荒げることはしなかった。貴様と違ってフローラは謙虚で慈悲深く、優しく、公平だ。貴様とはまるで違う」
ヴァイオレンツはそれが世界の常識だというように、わたしを罵りフローレンスを褒めたたえた。
彼の中ではそうなのだろう。ゲームの時と同じ調子で彼はフローレンスのことを讃えた。
「わたくしは、確かにヴァイオレンツ様が初恋でした」
わたしは静かに言った。
まだ、わたしが転生者だと自覚する前。小さかったわたしは周囲の人間から蝶よ花よと大切に育てられ、そしてヴァイオレンツに対面した。金髪碧眼の、ザ王子様の容姿をした彼に一目ぼれをしたのはたしかにわたし。
けれど。
わたしだっていつまでも夢見る女の子じゃない。
「けれど、それはそれ。わたくし自分のことを嫌いだと態度で表す男性をずっと想っていられるほどおめでたくはありません。それでも一応わたくしは殿下の婚約者でしたから、王家と我がベルヘウム家の関係を慮ってそれっぽく振舞っていただけです。婚約破棄など、折を見てこちらから言い出したかったくらいですわ」
わたしは鼻で笑ってやった。
なんかもうムカついたから。
結局この男はわたしのことが最後まで気に食わなくて、フローレンスのことを溺愛する運命にあるのだ。よくもまああんなぶりっ子の本性に気が付かずにいまだにフローラとか言っていられるよね。ばっかじゃないの。
「な、貴様……王太子に向かってなんていう暴言」
「わたくしから嫌われていてよかったのではありませんか。何をそう怒るのです?」
さすがに面と向かって拒絶されるとは思っていなかったのかヴァイオレンツはわたしの言葉に衝撃を受けている。ずっと好かれていると思っていた相手から、こちらこそ婚約破棄したかったですとか言われたらびっくりもするよね。
「っ……」
彼は二の句を告げなくなる。
とりあえず、わたしは言いたいことを言えて満足した。
白亜の塔送りだとしても、最後までヴァイオレンツのことを好きなままだと思われているのは癪にさわったし。
つうか、こんな男誰が好きになるもんか。いいのは顔だけじゃない。
性格は絶対にレイルの方がいいし、冷たい雰囲気の目の前の男よりもレイルみたいに明るくてさっぱりしていて、双子とも楽しそうに遊ぶ彼の方が断然にいい。
あーあ。
彼の笑顔を思い出しちゃったら、さすがに堪えるなぁ。
最後に、レイルに会いたかったかも。それで、可愛くない態度取っちゃって、ごめんねって言いたい。
「ヴァイオレンツ様。リーゼロッテ様は、強がっているだけなのですわ。だって、ヴァイオレンツ様はこんなにもかっこよくて素敵なんですもの。あなたの愛が自分に無いのを知って、ただ強がることしかできないんです。許して差し上げましょう」
トコトコと、王太子の隣にやってきたフローレンスが憐れみを交えた笑みを浮かべている。
うわっ。その勝ち誇った顔、めっちゃムカつく。
やっぱこの子性格悪いわ。
「ああフローラ。きみは優しいな」
え、それは優しいとは言わないよ。ただ意地が悪いだけ。
たぶん、男には分からないんだろうけど。
「いいえ。そんな、こと。ないです」
ヴァイオレンツとフローレンスがしばし見つめ合う。
満足した二人はこちらに向き直り、それからヴァイオレンツが声を出す。
「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウム、貴様には今度こそ、白亜の塔送りを命ずる!」
周囲からざわめきが生まれた。
「白亜の塔でとくと反省するがいい。己の行いを」
彼の宣言が、この茶番の終了となって、人々が動き出そうとしたその時。
「殿下! 客人が今すぐに会いたいと仰せつかっております!」
兵士が数人ヴァイオレンツの方へ駆けこんできた。
「今大事な話の途中だ。後にしろ」
「しかし! 相手は―」
兵士はヴァイオレンツにのみ聞こえるように小声で話し始めた。
ヴァイオレンツは瞬きをして、兵士と二三言葉を交わす。
王宮から庭園へと人が数人こちらへ向かってきた。
「事態は緊急を要するゆえ、先に上がらせてもらった」
なにか聞き覚えのある声が聞こえたわたしは、声のする方に顔を向けた。
先頭を歩くのは金茶髪に青灰色の瞳をした、まだ年若い青年。
いつもの騎士装束ではなく、略装ながらも宮殿服に身を包んでいるのはわたしもよおく知っている顔で。というか、レイルで。
なんか偉そうに背後に従者らしき人を何人も付き従えているし。
そしてその奥ではシュタインハルツ側の役人っぽい人が慌てて付いてきている。
「ゼートランド王国の王位継承者が一体何の用で、このような宮殿の奥まで。しかも今は罪人の裁判途中。緊急の要件とはなんだ」
ヴァイオレンツはすぐに王太子の顔を取り戻し、この場に闖入したレイルの方へ歩みを向ける。
つーか、いま。
王位継承者とか言いました?
え、ちょっと待って。どういうこと?
「リーゼロッテ・ディーナ・ファン・ベルヘウムの裁判だと聞いているが、異議申し立てにやってきた。とあるご婦人から助けを求められた。リーゼロッテを救ってほしいと」
レイルがよどみなく答える。
ヴァイオレンツは反対に黙り込む。
「ちょっと待って。異議申し立ても何もないでしょう。ここにいるリーゼロッテ様は、竜の卵を盗み出した張本人よ。彼女が黒幕になって、わたしを陥れようとしたのよ!」
フローレンスが会話に割って入る。
他国の王太子だろうと気にしないらしい。
「リジー、それは本当?」
レイルがわたしのほうへ近づいてくる。誰も彼を止めようとはしない。いや、できない。
彼がわたしの目の前にやってきた。
わたしは下を向いた。
どうして、レイルがこの場にやってきたの。さるご婦人ってレイアのことでしょう。
ってことはレイアはレイルがゼートランドの王子様だってこと知っていたわけね。
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