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第4章 過去編

シェロについて

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 フィアと別れ、一日だけ宿で休んだ後に、勇人たちはマルセイユ領へと一時戻ることにした。
 タルミナの町を出る際に、ダンジョンに集まった冒険者たちが迷宮魔物が湧かず、魔結晶が採掘できなくなっていることを騒いでいた。
 勇人は、フィアの魔法で直接地下へと転移した為、顔も見られていないから余計な追及などもなかったので、そのまま無視をした。
 フィアと別れ、タルミナの町を出てから変わったことが一つある。

「……なによユーキ。人の顔をジロジロと見て」

 焚き火を囲み、隣に座っているクレハが勇人の視線に気づくと、頬を赤くしながら顔をそらす。
 その可愛らしい反応に、勇人は自然と頬を緩ませてしまう。
 そう、タルミナの町で過ごした最後の晩以降は、言葉こそツンツンしているが、クレハの態度は劇的に変わった。
 初めてエッチしたときのように名前で呼ぶようになり、リリアに触れても何も言わなかくなった。それどころが、物欲しそうな目で見つめてくることさえある。
 いまだって、勇人の両脇にマオとシェロがいなければ、隣にいた筈だろう。

「ククッ、クレハも早く慣れんとのう。いつまで初々しい反応をするつもりじゃ」
「……こればかりは仕方がないわよ。恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
「素直に、なっても、クレハは、クレハは」

 シェロやマオともすっかり打ち解けたのか、軽い言い争いをする光景も良くみられるようになってきた。
 そうやって、いつも通りの言い争いをしていると、ふっと、思いついたことをクレハは口にした。

「そういえば、シェロって龍人にしては珍しい髪色をしているわよね。赤と青の髪をした龍人は見たことあるけど、真っ白な髪をした龍人なんて初めて見たわ」
「ふむ。そうじゃろうな。妾以外にこの髪色をした龍人は一人しかおらぬよ」
「シェロちゃんの髪ってそんなに珍しい色だったんですね」

 そもそも龍人をあまり見たことがなかったリリアは気にもしていなかった。

「……そういえばシェロのことはなにも説明していなかったな」

 勇人たちとリリアが出会ってから早数ヶ月が経とうとしているが、シェロがどういう存在であるのか説明していないことを思い出す。

「言われてみれば確かにシェロちゃんのことって龍人だっていう以外は知らないですね」
「ミステリ、アス?」
「ふむ。別に隠すつもりもなかったがのう」

 シェロが勇人に目配せする。

「そうだな。フィアにも昔のことを話しておけって言われていたから丁度いいか」

 ダンジョンでセックスした後、フィアから三人に昔のことを話しておけと口をすっぱくして言われた。
 ならば、マルセイユ領に向かうこの道中が丁度いい機会だろう。

「先んずはシェロのことだ。シェロはな、神龍なんだよ」
「え? 神龍様?」

 神龍とは、この世界の伝承では創造主の使いといわれている。
 真っ白な鱗に、輝く角、世界中のあらゆる知識を持つ神獣と呼ばれる、いわば信仰対象のような存在だ。
 アリステラ王国ではアルゼンテ教があるためそこまで馴染み深くないが、神獣信仰という土着の宗教もある。

「え? シェ、ロ。神龍、様、だったの?」
「ええええええ! 私、神龍様にタメ口聞いてたの?」

 とりわけ、自然に対して特別な感情を持つ獣人やエルフなどにとっては、まさに神のような存在である。
 その為か、シェロが神龍だと知った二人は、畏敬の念を向けてきた。

「別に今まで通りで構わん。それに、妾は正確には二代目じゃ。偉いのは|母(かか)様であって、妾ではない」
「え? 二代目? 神龍様って子供産んでたの!?」
「おど、ろいた」

 シェロが神龍だということも十分な驚きではあるが、自分たちが神とも讃えている存在が子供を産んでいたことにも驚いた。

「ちなみに父親は主様じゃ」
「え?」
「は?」
「へ?」

 これ以上なにを驚くことがあろうかと思っていた所に、さらなる爆弾が投下される。

「妾はのう、主様の神気を使って母様が妾を産み落とされたのじゃよ」
「ユーキさんの神気を?」
「そうじゃ。魔力とは全く違う、聖剣だけがまとう神気という魔王を打倒できる力。勇人以外でこの力を使うことができるのは、妾ぐらいじゃろう。もっとも、オリジナルの百分の一程度しかないから魔王討伐など不可能じゃがな」
「そうそう。お前の力欲しい! って言われていきなり逆レイプされたときは驚いたけどな」

 かつて勇人たちが神山と呼ばれる神龍が住む場所へと訪れた時、勇人はその力を狙われて性的に襲われた。
 結果は、逆に神龍を屈服させてアヘ顔奴隷宣言させるということになったのだが、その時に産まれたのがシェロである。

「母様は妾を産み落とすのに力の大半を使ってしまったからのう。今は力を取り戻すために神様の中枢で眠っておるというわけじゃ」
「それで、眠っている間シェロのことを守ってくれって言われて託されたんだよ」
「そうして気がつけば二百年も経っておったというわけじゃ。いやはや、時の流れとは早いものじゃのう」

 一通りシェロについて話終えた後、リリアは大変なことに気が付く

「ユーキさんって、娘を抱いているんですか!?」
「小さい子、好き?」
「……とんでもない変態ね」
「ちょ、ちょっとまて! 母親と同じで最初に迫ってきたのは向こうだぞ!?」

 リリアとクレハが勇人から距離をとる素振りをすると、慌てて弁明する。

「だからといって実の娘と姦通するというのは……」
「背徳、的?」
「ちょっとユーキのことを見くびっていたわ」
「くくく、まあ、そう言わんでくれ。傷心していた主様の心に妾が付けこんだだけなのじゃ」

 思い出されるのはアリアを失ったばかりの荒れていた勇人のこと。あんな姿を、シェロは見れ居られなかった。

「前にも少し聞きましたが、そんなに酷かったのですか?」
「うむ。下手をしたら魔王に代わって世界を滅ぼしかねないほどじゃったわ」
「……その話もしないとな」

 遠い昔を懐かしみながら、勇人はリリアたちに二百年前のことを語っていく。
 旅のことや――アリアとのことを。
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