2 / 50
第一章 落とし物
第二話 女の子に手を上げる男は尻子玉抜かれればいい
しおりを挟む「あーーーー!! ないないないない! 三珠がない!」
青い空の下にこだました悲痛な叫び声。声の主である金髪の少年は、大袈裟に頭を抱えて地面にしゃがみ込み、呻き声を上げる。
「どうしよう、オレヤバいことしちまった……。 絶対狷に怒られる」
「……誰に怒られるって?」
「ぎゃひい!?」
突然声をかけられ、少年はその場から猫のように飛び退いた。視線の先にいるのは、対照的な銀色の髪の少年だ。切れ長く赤い瞳がじとりと金髪の少年を睨んでいる。……バレているようだ。
「……鳳凰。お前、三珠を失くしたのか」
「違うんだって! き、気付いたらポケットからなくなってて、それで」
「それを失くしたと言うんだ、馬鹿が」
鳳凰、と呼ばれた少年は慌てふためいて身振り手振りが大きくなっている。馬鹿と言われたことすらスルーである。銀髪の少年は呆れたようにため息をついた後、鳳凰の胸倉を掴んで引き寄せた。
「貴様、あの珠が奴らの手に渡ったらどうなるか分かっているのか? すかすかの脳みそに何を詰め込めば、その馬鹿が治る?」
「ごごごごごめんって、分かってるって! だから離してくれよ狷っ!」
鳳凰の必死の懇願に、少年、狷はやっと手を離した。だが許したわけではないのだろう、彼の目つきは蛇のごとく鋭いままだ。まさに睨まれたカエルのように、鳳凰は萎縮してごめんなさい、と謝るばかり。
「……どこかで落としたなら、身に覚えはないのか」
「それが分かんねぇんだ。痕跡を辿れば見つかると思うけど……ああ、マジ最悪」
それはこちらの台詞だ、と狷は言いたかったが、もう鳳凰の馬鹿さ加減がどうでもよくなって、口にするのをやめた。しかし言いたいことはそれだけではない。というより、そんなことよりも言いたいことが山ほどある。
「三珠は貴様が思っているよりも重要なものだ。奴らには渡さん。他の誰が拾っても、そいつに不幸が降りかかるだけだろう。貴様はそれを分かって管理を怠ったのか?」
「う……」
「やはり馬鹿には任せられん。今度はないぞ。三珠は俺が持ち歩く」
「はい……すんませんでした」
「分かったら痕跡を辿れ。しくじるな」
「はい……」
しょぼくれて小さくなった鳳凰は、ぐうの音も出ない。何も言い返せずただ説教を聞かされて沈んでしまったが、彼はそれでも歩き出した。三珠の痕跡を求めて。
その頃、日和は今にも崩れそうなボロ屋敷に連れ込まれ、拘束されたまま、冷たい床に放り出されていた。三人のうち、側まで歩いてきた一人の男に口のテープを無理やり剥がされ、日和は小さく悲鳴を上げる。息がしやすくなって、日和はいきなり空気を飲み込みすぎ咳き込んだ。
「いいか、質問に正直に答えるんだ。お前の仲間は今どこにいる?」
「なか、ま?」
男の問いの意味が分からず、日和はおずおずと聞き返す。すると、その男は迷うことなく日和の頬を叩いて声を荒げた。
「お前は三珠を持っているだろう! 知ってるんだぞ、三珠がそのカバンに入っているのもな」
「……っ」
話が飲み込めない。自分は誰かと勘違いされているのだろうか? だが、確かに三つの珠の入った巾着袋を拾って、リュックにしまい込んだのは事実。彼らの目的はその珠なのだ。理解した瞬間、日和は巾着袋を拾ったことを後悔した。
「ひ、拾っただけです……。私、何も知らない……っ!」
「とぼけるな。女でも容赦しないぞ」
「本当なんです! 人違いです!」
「こいつ……」
男が鼻にしわを寄せて、手を振りかざした。その時、パリンッ、と何かが割れる音がして、その場の空気が凍りついた。
側で二人を見ていた男の一人が巾着袋を広げている。その隣の男は足元を見て固まっていた。その視線の先には粉々に砕けた、珠があった。日和の側にいた男は、それを見るなり、血相を変えて二人のもとへ駆け寄った。
「お前ら、まさか三珠を割ったのか!?」
「ち、違う! こいつが取り出そうとして割ったんだ」
「おい、言いがかりはやめろよ! お前が袋を上手く持ってなかったからだろ!」
「お前ら二人ともだよ! なんてことしてくれたんだ!! 一つか? 割れたのは一つだけか!?」
男達は大騒ぎだ。日和はただ呆然とその様子と珠だった粉々の物体を交互に見ていた。すると、その珠だったものがさらさらと砂のように崩れていくではないか。日和は驚いて目を丸く見開いた。男達はそれに気付いていないようで、まだ口論を繰り広げている。その足元を縫うように、砂になった珠が移動していく。日和の視界の端まで行って見えなくなった後、男達はようやく珠がなくなったことに気付いて慌て始めた。
「おい、珠の破片がないぞ」
「何!? 何が起きたんだ」
先程まで日和の側にいた男が、日和へ視線を移して顔をしかめた。鋭い目に日和は息を飲む。
「おいお前、隠したんじゃないだろうな?」
「……っ!」
必死で首を横に振ったが、時すでに遅し。男はとんだとばっちりを日和に向け、拳を振り上げる。ガツンと鈍い音がした後、日和の悲鳴が部屋の中に響いた。思いきり頬を殴られ、口の中に血の味が広がる。じんじんと痛む頬を押さえることもできないまま、日和は涙を滲ませ嗚咽を漏らした。
「もっとしっかり分からせてやらないと駄目みたいだな」
「っ、やめて……」
「正直に吐けばいいんだ、よ!!」
男がまた大きく腕を振り上げた、その時。
「おらあああああああ!」
「うぐっ!?」
聞きなれない叫び声の後、男が日和の前から後ろへと吹っ飛んでいった。それまで男が立っていた場所には、金髪の少年が立っている。
——それは三珠を落としたあの少年、鳳凰だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる