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第一章 落とし物
第三話 距離感って大事
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目の前に立っている少年に、日和は呆気にとられてぽかんと口を開いた。鳳凰は日和を見て一瞬痛ましそうに表情を歪めたが、後ろにいる二人の男に向き直り、構えを取る。
「やはり仲間が近くにいたか……!」
「捕らえるぞ!」
「オレを捕まえるって? あんたらにできるかよ、ばーか!」
にい、と笑った鳳凰の髪が逆立つ。まるで電気を帯びているようだ。そう思った矢先、鳳凰は目にも留まらぬ速さで男達の懐に潜り込み、床に手をついて足を振り上げた。踵が見事に男の顎にクリーンヒットし、男は昏倒する。もう一人が鳳凰を羽交い締めにしようとするが、鳳凰はバック転をすると男から距離を取り、手を構えた。するとどういうことか、その手から青白い光を帯びた電撃が放たれたではないか。男は避ける術なく電撃を喰らい、感電して崩れ落ちる。一瞬のことだった。鳳凰はよし、と呟くとまた日和を振り返って、突然ぎょっとしたような表情を浮かべた。日和の後ろ、吹っ飛んだはずの男が、銃口を日和に向けていた。
「ッやめろ!」
「お前だけでも、死ね!」
バァン、と乾いた銃声が響いた。固く目を瞑っていた日和は、いつまで経っても衝撃も痛みも感じないので、恐る恐る目を開く。そっと振り返ると、男はあろうことか自分に銃口を向けていた。いや、向けていたのではない。向けられていたのだ。銀色の蔓のようなものが男の体に絡みつき、その腕を男の頭の方に捻じ曲げていた。日和は少し経って、男がそのまま絶命していることに気付く。これは、現実、なのだろうか。言葉も出ない内に、銀色の蔓はするすると地面に吸い込まれていく。男が投げ出された後、床に踵を擦りながら歩く音が聞こえて、日和は視線を横に向けた。開け放たれた扉の方から、銀髪の少年が歩いてくるのが分かった。——狷だ。
「狷、ナイス……」
「あ……」
刹那に、綺麗、だと思った。淡く輝く銀色の髪に、冴えるような赤い瞳。人間離れしているはずなのに、日和にとって、彼はとても神秘的に見えた。まるで、精霊のよう。
そうこう思っていると、鳳凰が日和の側に駆け寄ってきて、心配そうに声をかける。
「大丈夫? 口、怪我してる。こいつら、女の子に手ぇ出しやがって、最低だぜ」
「えっと……」
何を言っていいのか分からず目を泳がせていると、狷も二人に歩み寄り、血のような赤い瞳で日和を見下ろした。
「……今は色々言いたいだろうが、大人しくしていろ。後で話す」
「あ、はい……」
「鳳凰、拘束を解いてやれ」
「お安い御用! ちょっとじっとしててな」
鳳凰は安心させるように日和に笑いかけると、ポケットからサバイバルナイフを取り出して、日和の手首を縛る結束バンドを切り離した。拘束から解放され、日和はぎこちなく体を起こし、辺りを見渡す。ボロ屋敷の中で派手な髪色の二人の少年が立ち、目立たない服装をした男達が伏している光景は、現実味を帯びておらず、日和は呆然とした。
「よし、これで大丈夫。あとは怪我だな。狷、オレあれ苦手だから、やってあげてくれよ」
「……」
鳳凰の言葉に狷はため息をついたものの、日和の前にしゃがみ込んで、その傷にそっと手をかざそうとした。しかし日和は反射的に身を引いてしまい、狷とまっすぐに見つめ合う形になる。——吸い込まれそうだ、この瞳に。
「……悪いようにはしない。じっとしていろ」
「はい……」
目を伏せる狷に、日和は見入っていた。本当に、おとぎ話に出てくる精霊のようだ。切れた口にかざされた手から、生ぬるい何かを感じて、日和は思わずわっと声を上げる。
「黙っていろ」
「ご、ごめんなさ……」
「終わった。もういいだろう」
「え?」
あっさり手を離し、狷はすぐ立ち上がって、落ちた巾着袋を拾いに歩いていく。生ぬるい感覚を覚えた傷にそっと触れてみると、驚くことに傷は完璧に塞がっていた。
「すごい……」
「あのさ、早速で悪いんだけど、ここにいると危ねぇからついてきてくれる?」
鳳凰に声をかけられ、日和は慌てて立とうとするが、何故か足に力が入らず立ち上がれなかった。どうやら腰が砕けてしまっているようだ。仕方がない、が、鳳凰の言葉の意味が分かってぞっとした。三人の男達が倒れていて、自分達は生きている。二人は気を失っているだけかもしれないが、一人の男は、銃を持ったまま頭を撃ち抜いて死んでいるのだ。ここにいれば、人に見つかった時に、警察沙汰になるのは想像に易く。
「待って、ちょっと立てなくて……」
「あ、そっか、怖かったよな……。よし、じゃあ」
「え? うわっ」
鳳凰に軽々と抱き上げられ、日和はうろたえた。この一時で初めて会った相手。しかも異性だ。いくら少なからず恋愛経験がある日和としても、いまの状況は飲み込みづらいものだった。
「ま、待って待って! 私多分歩けるから、それとリュック!」
「ん? ああオッケー、大丈夫大丈夫! 軽い軽い」
「そういう問題じゃなくてっ」
「急ぐぞ」
鳳凰は日和のリュックを拾うと、扉をくぐる狷について歩く。しかも日和の言葉もお構いなしだ。……日和は諦めて彼らに連行されることにした。
一体、これからどうなるのだろう?
「やはり仲間が近くにいたか……!」
「捕らえるぞ!」
「オレを捕まえるって? あんたらにできるかよ、ばーか!」
にい、と笑った鳳凰の髪が逆立つ。まるで電気を帯びているようだ。そう思った矢先、鳳凰は目にも留まらぬ速さで男達の懐に潜り込み、床に手をついて足を振り上げた。踵が見事に男の顎にクリーンヒットし、男は昏倒する。もう一人が鳳凰を羽交い締めにしようとするが、鳳凰はバック転をすると男から距離を取り、手を構えた。するとどういうことか、その手から青白い光を帯びた電撃が放たれたではないか。男は避ける術なく電撃を喰らい、感電して崩れ落ちる。一瞬のことだった。鳳凰はよし、と呟くとまた日和を振り返って、突然ぎょっとしたような表情を浮かべた。日和の後ろ、吹っ飛んだはずの男が、銃口を日和に向けていた。
「ッやめろ!」
「お前だけでも、死ね!」
バァン、と乾いた銃声が響いた。固く目を瞑っていた日和は、いつまで経っても衝撃も痛みも感じないので、恐る恐る目を開く。そっと振り返ると、男はあろうことか自分に銃口を向けていた。いや、向けていたのではない。向けられていたのだ。銀色の蔓のようなものが男の体に絡みつき、その腕を男の頭の方に捻じ曲げていた。日和は少し経って、男がそのまま絶命していることに気付く。これは、現実、なのだろうか。言葉も出ない内に、銀色の蔓はするすると地面に吸い込まれていく。男が投げ出された後、床に踵を擦りながら歩く音が聞こえて、日和は視線を横に向けた。開け放たれた扉の方から、銀髪の少年が歩いてくるのが分かった。——狷だ。
「狷、ナイス……」
「あ……」
刹那に、綺麗、だと思った。淡く輝く銀色の髪に、冴えるような赤い瞳。人間離れしているはずなのに、日和にとって、彼はとても神秘的に見えた。まるで、精霊のよう。
そうこう思っていると、鳳凰が日和の側に駆け寄ってきて、心配そうに声をかける。
「大丈夫? 口、怪我してる。こいつら、女の子に手ぇ出しやがって、最低だぜ」
「えっと……」
何を言っていいのか分からず目を泳がせていると、狷も二人に歩み寄り、血のような赤い瞳で日和を見下ろした。
「……今は色々言いたいだろうが、大人しくしていろ。後で話す」
「あ、はい……」
「鳳凰、拘束を解いてやれ」
「お安い御用! ちょっとじっとしててな」
鳳凰は安心させるように日和に笑いかけると、ポケットからサバイバルナイフを取り出して、日和の手首を縛る結束バンドを切り離した。拘束から解放され、日和はぎこちなく体を起こし、辺りを見渡す。ボロ屋敷の中で派手な髪色の二人の少年が立ち、目立たない服装をした男達が伏している光景は、現実味を帯びておらず、日和は呆然とした。
「よし、これで大丈夫。あとは怪我だな。狷、オレあれ苦手だから、やってあげてくれよ」
「……」
鳳凰の言葉に狷はため息をついたものの、日和の前にしゃがみ込んで、その傷にそっと手をかざそうとした。しかし日和は反射的に身を引いてしまい、狷とまっすぐに見つめ合う形になる。——吸い込まれそうだ、この瞳に。
「……悪いようにはしない。じっとしていろ」
「はい……」
目を伏せる狷に、日和は見入っていた。本当に、おとぎ話に出てくる精霊のようだ。切れた口にかざされた手から、生ぬるい何かを感じて、日和は思わずわっと声を上げる。
「黙っていろ」
「ご、ごめんなさ……」
「終わった。もういいだろう」
「え?」
あっさり手を離し、狷はすぐ立ち上がって、落ちた巾着袋を拾いに歩いていく。生ぬるい感覚を覚えた傷にそっと触れてみると、驚くことに傷は完璧に塞がっていた。
「すごい……」
「あのさ、早速で悪いんだけど、ここにいると危ねぇからついてきてくれる?」
鳳凰に声をかけられ、日和は慌てて立とうとするが、何故か足に力が入らず立ち上がれなかった。どうやら腰が砕けてしまっているようだ。仕方がない、が、鳳凰の言葉の意味が分かってぞっとした。三人の男達が倒れていて、自分達は生きている。二人は気を失っているだけかもしれないが、一人の男は、銃を持ったまま頭を撃ち抜いて死んでいるのだ。ここにいれば、人に見つかった時に、警察沙汰になるのは想像に易く。
「待って、ちょっと立てなくて……」
「あ、そっか、怖かったよな……。よし、じゃあ」
「え? うわっ」
鳳凰に軽々と抱き上げられ、日和はうろたえた。この一時で初めて会った相手。しかも異性だ。いくら少なからず恋愛経験がある日和としても、いまの状況は飲み込みづらいものだった。
「ま、待って待って! 私多分歩けるから、それとリュック!」
「ん? ああオッケー、大丈夫大丈夫! 軽い軽い」
「そういう問題じゃなくてっ」
「急ぐぞ」
鳳凰は日和のリュックを拾うと、扉をくぐる狷について歩く。しかも日和の言葉もお構いなしだ。……日和は諦めて彼らに連行されることにした。
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