右手と魔法!

茶竹 葵斗

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第一章 落とし物

第五話 夢なら醒めて

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「これが……三珠みたまって」

 鳳凰はただただぽつりと呟くだけ。日和は何が起きているのかわからないまま、二人を呆然と見上げた。

「どういうことなの? それに、さっきの電気とか、変なつるとか……説明してほしいよ」
「……えっと、それは」
「魔法だ」

 狷は日和を見下ろしたまま告げた。魔法——。物を動かしたり、火を吹いたりする、あの魔法?

「お前は魔法を信じるか? 俺達は魔法を使う。近代的な生活じゃなく、昔から続く生活をしながら、自然と共に生きている。信じるか?」
「……さっきの見ちゃったら、なんとも言えないよ」

 そう、日和は見てしまった。鳳凰の手から放たれた電撃。床からどこからともなく生えた銀色の蔓。そして、自分の傷もあっという間に癒えてしまった。魔法、と言われれば、認めざるを得なかった。

「変な人が現れるし、誘拐されるし、あなた達もなんだか変だし……もう何を信じていいか分かんないよ。おかしいことがありすぎて、もう……」

 日和は手で顔を覆う。見たくなかった、現実を。これが現実だと、信じたくなかった。これ以上おかしなことが起これば、今までの生活に戻れなくなるのではないか、と。
 震える肩に手を添えたのは鳳凰だった。鳳凰はごめん、と声を漏らす。

「巻き込んで……ごめん。槻尾つきおさん、学生? オレらとあんま年変わんねぇよな。友達、いる? 家族も心配するよな。オレらが連れてくからさ、一旦家に帰る?」
「…………うん……」

 日和は力なく返事をした。一刻も早く家へ帰りたい。そして、いつものように暮らしたい。切実に。そしてもう二度と、こんな目に遭わないように。

「……だが、これまでと同じ暮らしができると思うな」

 そんな願いは、狷の言葉によって砕かれる。

「お前は三珠を身につけてしまった。それは三つ揃っていないといけない。その訳は、今は教えてやれない。ただ、お前は命を狙われるだろう。三珠を持つものとしてな。死にたくなければ、俺達と共に来い。一日だけ猶予ゆうよをやる」
「……」
「来ないなら、お前の腕を切り落としてでもその三珠は返してもらう」

 ぞっとする言葉をかけ、狷は寺の本堂を出ていった。しばらくの沈黙。鳳凰は気まずそうに日和の肩から手を離し、ぼりぼりと頭をく。

「……行こっか。あいつ、言い方ひどいけど普通の人にそんなことするやつじゃねぇからさ。って言っても、怖いよな……オレもあいつ怖いもん」
「……」

 日和はまだ震える足を叱りつけ、そっと立ち上がった。帰りたい、今すぐに。

「危ないから送るよ」
「うん……ありがとう、鳳凰くん」
「へへ、鳳凰でいいよ」
 狷とは対照的で、明るく優しい鳳凰に、日和は少し安心して涙腺がゆるみそうになった。


 道中も鳳凰は、できるだけ日和に気を遣って話をしてくれた。自分は文化的な生活をしていないから、ろくに掛け算もできないとか、普段は狩猟をしながら暮らしているとか、やはり近代とはかけ離れた話ばかりだった。名前からおかしいし、日和はなんとなく本当なんだ、と納得してしまう。

「じゃあ、お金とかは持ってないの?」
「いや、お金は持ってるぜ。やっぱり今はお金がないと限界があるし……、あ、でもスマホ? とかは持ってねぇなー」
「免許証とかも?」
「もちろん」
「……保険証は?」
「それもないなぁ」

 びっくり仰天である。

「じ、じゃあ病気した時はどうするの?」
「寝る!」
「ああ、そっか……うん、間違ってはいない、かな」

 日和は苦笑いを浮かべて前に向き直った。もう陽は落ちかけている。夏の夕空は、いつも涼しそうに見える。今の状況は、先程までの出来事を払拭ふっしょくしてくれるかのようで、心地よかった。彼とはなんだか、遠い昔からの知り合いにも思えて。日和は不思議な感覚になった。

「ねえ、苗字はないの?」
「オレ? オレは分かんないけど、狷は小林って言ってたかな」
「分かんないって……本当に先住民みたいだね」

 二人して笑いあう。狷はとっつきにくいのに、鳳凰はとても親しみやすかった。最初は距離感が近いな、と思ったが。

「あ、着いたよ」
「よかった、何もなくて。オレ、ちょっとドキドキしてたんだ。襲われたらどうしようって」
「……そっか」

 鳳凰は自分の発言に少し後悔したのか、慌てて話題をすり替える。

「で、でさ! 槻尾さんは一人暮らし?」
「うん、そうだよ。たまに友達が泊まりに来たりするの」
「そっかぁ。一人、か……。うーん、一日っつっても危ないなぁ……」

 やはり危ないらしい。一人暮らしだと答えれば、危ないと反応が返ってくるのはなんとなく分かっていた。でも、男の子を突然家に上げる訳には……。

「よし、オレが一緒にいるよ!」
「まずは私に断って!? ほ、本気で言ってる?」
「? だって危ないし」

 そういう問題ではない!

「初対面だよ? それに、ここに男の子連れてきたことないから、ち、ちょっと、恥ずかしいというか……」
「そんなこと気にすんなよー! もう友達だろ?」
「え……そう、なのかな……」

 友達。そう言われて、なんだか今の発言が妙に気恥ずかしくなってしまった。何を勝手に意識していたんだ、私は……。彼は心配して言ってくれているだけなのに。いや、でも、それでもやはり、異性を招くのには一呼吸必要だ。

「……片付けてきてもいい?」
「うん、それはもちろん」

 恥ずかしそうに呟く日和に、鳳凰はにっこりと笑ってみせた。
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