右手と魔法!

茶竹 葵斗

文字の大きさ
6 / 50
第一章 落とし物

第六話 感情ジェットコースター

しおりを挟む
「何でこんなことになったんだろう……」

 何度目か分からない疑問を口にして、日和はお気に入りの小鳥のぬいぐるみを抱きしめた。鳳凰を部屋に上げることになったのはいいものの、どこまで片付ければいいのか分からなかった。人を上げられないわけではないが、かといってとても綺麗だとは言い難い。あまり待たせるのも悪いし、ベッドの上のぬいぐるみ達はそのままでもいいだろうか。正直、大学生にもなってぬいぐるみを集めているとバレたら、少し恥ずかしい気もする。まあ、そこは好みの問題だが……。いや、そんなことを考えている場合ではない。日和はぬいぐるみをベッドの端に押しやって玄関へ向かった。

「えっと、鳳凰くん? 上がっていいよ」
「お、片付いた?」

 外で待っていた鳳凰は扉を開いてお邪魔します、と行儀よく挨拶をしながら部屋へ上がる。

「おお、女の子らしい部屋ー」
「あんまり見ないで……」
「全然変じゃないぜ? 綺麗じゃん、いいなーワンルームだし」

 鳳凰はどこか楽しそうに部屋を見渡している。見ないでと言っているそばから、この男は。日和は耳が熱くなるのを感じてぶんぶんと首を横に振った。

「と、とりあえず何かいる!? お茶とか! うん出そうお茶でいいよね? お茶! 冷たいけど!」
槻尾つきおさん、動揺しすぎ」
「もう何がなんだか分からなくて変な気分だよ! うう……」

 今日一日で色々なことが起こりすぎている。正直知恵熱が出そうだ。あんな恐ろしい体験から一刻も早く抜け出したかったのに、いざ家に帰ると異性を部屋に上げることになっているし、実体験の温度差に、気が狂いそうだった。

「はいどうぞ!」
「ありがと。座ってもいい?」
「はいどうぞ!」

 カチコチの日和に鳳凰は苦笑している。

「槻尾さんも座ったら?」
「……」
「…………」

 部屋が急に沈黙に包まれ、二人はどうも居心地が悪くなった。鳳凰は一口お茶をふくんで、ごくりと音を立てて飲み込んだ。こうなると、どんな話題を持ちかければいいのか分からない。さっきまで本当に友達のように話していたのに。そうか、友達。彼は友達だ。普通に会話すればいいのではないか。日和は自分もお茶を飲んで息をついた。

「……ごめんね、取り乱しちゃって。あの、それで……魔法? って、具体的にはどんなものなの?」
「ああ、そういえば説明してなかったな」

 鳳凰は何度か頷くと、首を捻ってうーんと唸った。

「っつってもなぁ……口で説明すんのも難しいんだよな。じゃあ、魔法使ってみようか?」
「うん、見てみたい」

 できれば何かを壊したりしないような。日和の願いは果たして叶うのか。鳳凰はお茶の入ったコップにそっと手をかざす。すると、お茶が手に吸い込まれるように渦を巻き、浮き上がった。鳳凰が手を徐々に上げると、それについていくように水もコップから離れていく。日和の頭の中に「なんということでしょう」という、どこかで聞いたことのあるフレーズが浮かんだ。

「すごい!」
「へへ、すごいだろ? いろんな形にも変えられるんだ」

 そう言って鳳凰がもう片方の手を横から近付けると、お茶はうねうねと蛇のように細長く渦巻く。これが、魔法。まるで手品だ。鳳凰がまたコップへ手を持っていくと、お茶はさも今までそこにありました、というかのように元の姿に戻り、コップに収まった。

「本当に超能力だよ! こんなの、見たことない」
「そっかそっか。他にもこんなことが……」

 言いかけた時、部屋のインターホンが鳴った。日和がインターホンに応えようとモニターへ近寄ると、鳳凰が心配そうな面持ちでそちらを覗き込む。モニターには赤い髪の人物が映し出されていた。画面越しで少しわかりにくいが、とても中性的な顔をしていて、鳳凰には男なのか女なのか分からなかった。

『日和? 連絡がないから心配してたんだけど』
「あ、まさ! ごめんね、ちょっと連絡できない事情があって……」
『とりあえず上げてくれ』
「うん」

 日和の友達らしいことを確認して、鳳凰は安心した様子だった。襲ってきた集団だと思ったのだろう。しかし、こんなところまで分かるのだろうか?鳳凰達が痕跡、と言っていたあたり、三珠みたまには何か特別な電波みたいなものが出ているのかな、と日和はオートロックを解除しながら何でもないように考えた。その時点では、もうおかしな体験が身に染み付いてしまっていることに、日和は気付かなかった。

「友達?」
「うん。ほら、話してた面白い名前の子だよ」
「へえー」

 そうこう言っているうちに、すぐにまたインターホンが鳴った。日和は玄関まで小走りで駆けて、扉を開ける。そこにいた人物は、部屋の中を覗き込み、鳳凰を見るや否やぎょっとした顔をして扉を閉めようとした。

「待って待って! 何で閉めようとするの!?」
「おまっ、彼氏がいるなら言えよ! 邪魔しちゃ悪いだろ!」
「ちちちち違うから! 友達だから、ただの!」
「……本当か?」

 訝しそうに鳳凰を見つめる目はとても疑っているように見える。日和は慌てたように鳳凰を振り返りぎこちなく笑って両手を振った。

「あはは、ごめんね! なんか勘違いしちゃってるみたいで!」
「いやいいけど……」
「正、上がって上がって! 紹介するね、彼、鳳凰くん。今日知り合ったの。こっちは正影まさかげだよ。こんな名前だけど女の子だからね」
「え、女の子!?」
「はあ!? 今日知り合った!?」

 二人から驚きの声が上がり、日和はどこから説明すればいいのか混乱する。

「えっと、正、とりあえずお茶でいい!? 鳳凰くんもお茶だしいいよね! 冷たいお茶!」
「パニックになったらお茶出そうとする癖治ってないなお前! 分かった分かった、順番に説明してくれ」
「ああ、これ癖なんだ……」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

処理中です...