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第一章 落とし物
第七話 オフホワイトは黒に勝てない
しおりを挟む「で、今日知り合ったって? お前がそんな男を部屋に入れるなんてな……本当にただの友達か?」
「う、疑ってるの? ただの友達だよ、ね?」
「おう、友達だぜ!」
屈託のない笑顔を浮かべる鳳凰を、正影はまだ疑いの目で見つめている。
「どこで知り合ったんだ?」
「え……っと」
「連絡できなかった理由っていうのは?」
「えーっと……」
「……合コンか」
「違う!!」
もう、と怒ったような声を漏らす日和に、正影は表情を緩め、けらけら笑って冗談だよと声をかけた。
「お前そんな柄じゃないもんな。……それよりさ、そんなブレスレット持ってたっけ? 全然お前の趣味と違うぞ。なんか……真っ黒だし」
「あ……っ」
日和は今まで忘れていた腕輪の存在に触れられ、言葉に詰まった。鳳凰にちらりと視線をやるが、彼もまた何も言葉にできないようで押し黙る。正影は二人の様子を見てまた怪訝そうな顔をした。
「さっきからしどろもどろだな……何かやましいことでもあるのか?」
「そうじゃないんだけど……」
目を泳がせる。話すわけにはいかない。それに、話したところで信じてもらえないだろう。でも、どうすればこの状況を打破できる? 家に正影を上げなければよかったのか? そちらの方が心配されるし、きっと正影なら日和が制止しても入れろと言っただろう。二人は幼馴染みであった。小さい時から一緒で、本当の姉妹以上に過ごした二人にとって、隠し事はないに等しかったはず。
……だから、正影にはやはり、今日の出来事を話すしかないのかもしれない。
「日和、ちゃんと話せ。場合によってはこの男をぶん殴って追い出すぞ」
「え、オレ!?」
「お前が一番怪しいんだよ!」
「……話すよ。全部」
日和の言葉に二人が黙り込んだ。
「……本当はね、彼氏なの。鳳凰くん」
「え?」
「まだ付き合って三日も経ってないけど、この腕輪、鳳凰くんにもらったの。あんまり趣味はよくない、けど、大切にしようかなって」
——いや、だめだ。正影を訳の分からない出来事に巻き込むなんて、できない。苦し紛れの嘘でも、そちらの方がよっぽどマシだ。日和の様子に、正影は黙ったまま腕を組んでため息を漏らす。
「……お前は嘘をつくのが下手くそなんだから、無理して変な話を作るなよ」
「う……」
「バレバレだぞ。どういうことだ? ただの友達じゃないのか? お前もなんとか言ったらどうなんだ」
指摘された鳳凰も、口を噤んで視線を泳がせる。いよいよ嘘がつけなくなった。巻き込みたくはない。こんなことに。確かに魔法はすごい。でもこの腕輪がある限り、自分は命を狙われる、らしい。現に一度拉致されているのだ。その事実も正影には言えない。
「……なんて言ったらいいのか分かんない。言いたくない」
「まさか……できたのか」
「ち、が、う! そっちの方向から離れて!」
「じゃあ何なんだ」
日和を問い詰める正影。鳳凰がぐっと唇を噛んだ。
「オレが……巻き込んだんだ。事件に」
「……は?」
「オレが人に渡しちゃいけない大事なものを落として、探してたら槻尾さんが持ってたらしくて、怪しいやつらに誘拐されてて。助けたんだけど、大事なものが、その……ブレスレットなんだけど、槻尾さんにくっついて離れないんだ。 それを狙ってるやつらが大勢いる。だから、言えなかった」
「……意味がわからないが、お前が日和を巻き込んだのは確かだな。ぶん殴る」
立ち上がって拳を作った正影を、日和が慌てて制止する。彼が悪いのではない。自分があれを拾ったのが悪いのだ。
「ま、正! 悪いのは私だよ! 落し物を何も考えずに拾ったのは私だから」
「どこのなにかも分からない物拾ったお前もお前だけど、責任取らなきゃいけないのはこいつだろ」
「責任は取るし、殴られるよ、オレ。ごめんじゃ済まねぇからさ……」
肩を縮こませて正座になった鳳凰。見ていて痛ましい限りだが、正影は俄然鳳凰を殴る気になってしまったようだ。服の袖を捲り上げ、日和の手を振り払って鳳凰へ掴みかかる。
「うちの日和が何に巻き込まれたってんだ? 怪しいやつらに誘拐? こいつがどれだけ怖い思いをしたか考えたか? 落し物は落とし主としての責任もあるんだぞ。大事なものなら、なんで落としたんだ? お前のずさんな行動で日和は傷付いたんだよ」
「……すみません」
「で、どう責任取るつもりなんだ」
正影の正論に鳳凰は更に萎縮したが、日和を一瞥して視線を落とした。
「言いにくいけど、その……それがないとオレ達も困るし、取れるまで側にいて、危険になったら守るよ。もう傷付けない」
「守るってどうやって」
「それは……戦って」
「戦う? 意味が分からないな、お前が怪しいやつらと戦うっていうのか? オレ達ってことは他にも連れがいるんだな。そいつはどこにいる?」
質問責めに遭う鳳凰はたじたじである。彼が可哀想になって、日和はまた正影を止めに入り、遠慮がちに声をかけた。
「正、あんまり責めたら鳳凰くんも話しづらくなっちゃうよ」
「日和、お前なんでこんなやつを……」
そこまで言って、正影は躊躇うように息を吸い、そして大きく吐いた。それは、人が何かを諦めるときの仕草だ。正影はとやかく言うことをやめたらしい。
「分かったよ……もういい。責任を取るって言うなら、取ってみろ。日和に何かあったらお前、ただじゃおかないからな」
「うん……もちろん」
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