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非日常の訪れ
第八話 逃亡生活の始まり……なのだろうか
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その日の夜、日和は全く寝付けなかった。隣で眠る正影、カーペットの上でいびきをかいている鳳凰。二人が寝ている間に、何かが襲いかかってきたら。また、あの男達のような者が現れたら。不安で、怖くて、体が小刻みに震えた。そうしていると、隣で寝ていた正影が身動ぎをしてこちらを確認するためか目を開いた。ばちりと視線が合って、日和ははっと息を飲む。
「……大丈夫か? いや、大丈夫じゃないな」
「……うん」
素直に頷くと、正影は日和の肩をぽんぽんと撫でた。それだけのことだったが、日和は安心感を覚えて目が潤んだのを感じた。
「大丈夫、大丈夫」
「…………ありがとう、正」
ぐすん、と鼻を鳴らすと、正影はおかしそうに笑った後目を閉じた。自分も早く寝てしまおう。朝になれば、少しは不安も取り除かれるはずだ。そう思い込んで、日和もそっと瞼を下ろした。
翌朝、一番に目を覚ましたのは鳳凰だった。鳳凰はもごもごと口を動かしながら薄ら目を開き、のそりと体を起こす。薄暗い部屋の中、ベッドが膨らんでいるのを見て自分が一番に起きたのだと悟った鳳凰は、部屋を見回して二人を起こさないよう洗面所へ向かう。昨夜、泊まるのならと用意してくれていた新しい歯ブラシのパックを開けて、鳳凰はふと洗面所に置かれているコップに目をやった。コップには二つの歯ブラシが入れられている。日和は確か一人暮らしのはずだが……彼氏がいるのだろうか。でも、昨日の正影の反応を見る限り、そういう訳ではないような気もする。二人は親友だと言っていたので、彼氏がいれば秘密にすることもないだろう。だとすれば、もう片方の歯ブラシは正影のものなのかもしれない。友達が泊まりに来るとも言っていたし、きっとそうだ。仲がいいんだなあ、などと考えながら、鳳凰は歯を磨いて顔を洗い、髪をセットして部屋へ戻った。
部屋へ戻っても二人が起きる様子がないので、鳳凰は電気をつけて二人を起こしにかかった。
「おーい、朝だぜ! そろそろ起きろよー」
「……うーん……?」
もぞもぞと布団の中で動いた日和が、小さな声を漏らして体を起こした。寝起きはいい方らしい。
「槻尾さん、おはよ。起きた?」
「……鳳凰くん、おはよう……今何時……?」
「九時だぜ。まだ早かった?」
「ううん、大丈夫……今日お休みだから」
ふるふると首を横に振った日和が、正影の体を揺さぶる。正影はうーんと唸って布団に潜り込んでしまった。起きるにはまだ時間がかかりそうだ。
「昨日渡してくれた歯ブラシ、使わせてもらったぜ。ありがとうな」
「うん。私も用意してくる。……鳳凰くん、床で寝てたけど痛くなかった?」
「全然平気! オレ、どこでも寝られるからさ」
「そう? それならいいけど……」
少し心配そうだった日和だが、鳳凰の言葉を受け取って頷くと、ベッドから立ち上がって洗面所の方へ向かっていった。そんな時、腹の虫が鳴りそうになって鳳凰は思わず腹をさする。
「……腹減ったなあ」
「…………お前は遠慮ってものを知らないのか」
「え? あ、お、起きてたんだ?」
日和に続いて体を起こした正影が、鳳凰へ眠そうな怠そうな視線を投げる。
「ひとりごとひとりごと! 別に欲しいって言ってるわけじゃ……」
「ふふ、分かってるよ。ちょっとからかっただけだ」
小さく笑った正影は、ベッドの縁に座って欠伸を噛み殺した。昨日はとても怖い印象を受けた正影だが、今更昨日のことを蒸し返す気もないのか今はそんな雰囲気も感じられない。胸を撫で下ろした鳳凰は、洗面所の方を一瞥して正影へ声をかける。
「今槻尾さんが支度してるとこだぜ。さっき起きたとこ」
「ああ。お前が一番先に起きたんだな。ちょっと意外だ」
「早起きなんだー、オレ」
そんな他愛もないことを話していると、支度のできたらしい日和が部屋へ戻ってくる。
「あ、おはよう正。洗面所空いたよ」
「ん、オレも用意してくる」
立ち上がり洗面所へ向かう正影を見送ってから、鳳凰は日和を見やった。これからどうするのか。その話をしなければならない。日和が座椅子に座ったのを見計らって鳳凰もカーペットに腰を下ろし、小さく咳払いをした。
「槻尾さん、これからのことなんだけど……」
「あ……うん」
「ずっとここにいるのは危ないと思うんだ。昨日、痕跡がどうとか言ってただろ? 三珠は不思議なオーラを出してるらしくて、それを追って昨日みたいな奴らが襲ってくるんだ。だから、逃げないと」
「……でも、逃げるってどうやって?」
日和は困惑した表情を浮かべている。無理もないだろう。昨日からの出来事を理解するのも難しいだろうに、こんなことを言われてもどうすればいいのか彼女には分からないはずだ。
「オレ達は三珠を持っていろんなところに隠れながら逃げてたんだ。山の中とか、人混みの中とか……とにかくいろんなところ。奴らに極力襲われないようにして逃げてきた」
「……そう、なんだ」
「だから槻尾さんも逃げなきゃ。大丈夫、オレと狷が守るから。な?」
今はこんなことしか言えないが、鳳凰は宥めるように日和へそう告げる。こうなってしまった以上、全力で彼女を守らなければならない。その責任が自分にはあるのだ。彼女は魔法ともなんら縁のない、ごく普通の女の子。怖がらせてしまっただろうし、今も不安だろう。狷は三珠のことをまだ教えてはいけないと言っていたが、そろそろそれも限界だと鳳凰は思った。
「……三珠のこととか、全部話すからさ。とにかく狷と合流して、どうするか決めよう」
「…………うん」
未だ不安そうにしている日和に若干心が痛んだが、鳳凰は務めて平静を装った。
「……大丈夫か? いや、大丈夫じゃないな」
「……うん」
素直に頷くと、正影は日和の肩をぽんぽんと撫でた。それだけのことだったが、日和は安心感を覚えて目が潤んだのを感じた。
「大丈夫、大丈夫」
「…………ありがとう、正」
ぐすん、と鼻を鳴らすと、正影はおかしそうに笑った後目を閉じた。自分も早く寝てしまおう。朝になれば、少しは不安も取り除かれるはずだ。そう思い込んで、日和もそっと瞼を下ろした。
翌朝、一番に目を覚ましたのは鳳凰だった。鳳凰はもごもごと口を動かしながら薄ら目を開き、のそりと体を起こす。薄暗い部屋の中、ベッドが膨らんでいるのを見て自分が一番に起きたのだと悟った鳳凰は、部屋を見回して二人を起こさないよう洗面所へ向かう。昨夜、泊まるのならと用意してくれていた新しい歯ブラシのパックを開けて、鳳凰はふと洗面所に置かれているコップに目をやった。コップには二つの歯ブラシが入れられている。日和は確か一人暮らしのはずだが……彼氏がいるのだろうか。でも、昨日の正影の反応を見る限り、そういう訳ではないような気もする。二人は親友だと言っていたので、彼氏がいれば秘密にすることもないだろう。だとすれば、もう片方の歯ブラシは正影のものなのかもしれない。友達が泊まりに来るとも言っていたし、きっとそうだ。仲がいいんだなあ、などと考えながら、鳳凰は歯を磨いて顔を洗い、髪をセットして部屋へ戻った。
部屋へ戻っても二人が起きる様子がないので、鳳凰は電気をつけて二人を起こしにかかった。
「おーい、朝だぜ! そろそろ起きろよー」
「……うーん……?」
もぞもぞと布団の中で動いた日和が、小さな声を漏らして体を起こした。寝起きはいい方らしい。
「槻尾さん、おはよ。起きた?」
「……鳳凰くん、おはよう……今何時……?」
「九時だぜ。まだ早かった?」
「ううん、大丈夫……今日お休みだから」
ふるふると首を横に振った日和が、正影の体を揺さぶる。正影はうーんと唸って布団に潜り込んでしまった。起きるにはまだ時間がかかりそうだ。
「昨日渡してくれた歯ブラシ、使わせてもらったぜ。ありがとうな」
「うん。私も用意してくる。……鳳凰くん、床で寝てたけど痛くなかった?」
「全然平気! オレ、どこでも寝られるからさ」
「そう? それならいいけど……」
少し心配そうだった日和だが、鳳凰の言葉を受け取って頷くと、ベッドから立ち上がって洗面所の方へ向かっていった。そんな時、腹の虫が鳴りそうになって鳳凰は思わず腹をさする。
「……腹減ったなあ」
「…………お前は遠慮ってものを知らないのか」
「え? あ、お、起きてたんだ?」
日和に続いて体を起こした正影が、鳳凰へ眠そうな怠そうな視線を投げる。
「ひとりごとひとりごと! 別に欲しいって言ってるわけじゃ……」
「ふふ、分かってるよ。ちょっとからかっただけだ」
小さく笑った正影は、ベッドの縁に座って欠伸を噛み殺した。昨日はとても怖い印象を受けた正影だが、今更昨日のことを蒸し返す気もないのか今はそんな雰囲気も感じられない。胸を撫で下ろした鳳凰は、洗面所の方を一瞥して正影へ声をかける。
「今槻尾さんが支度してるとこだぜ。さっき起きたとこ」
「ああ。お前が一番先に起きたんだな。ちょっと意外だ」
「早起きなんだー、オレ」
そんな他愛もないことを話していると、支度のできたらしい日和が部屋へ戻ってくる。
「あ、おはよう正。洗面所空いたよ」
「ん、オレも用意してくる」
立ち上がり洗面所へ向かう正影を見送ってから、鳳凰は日和を見やった。これからどうするのか。その話をしなければならない。日和が座椅子に座ったのを見計らって鳳凰もカーペットに腰を下ろし、小さく咳払いをした。
「槻尾さん、これからのことなんだけど……」
「あ……うん」
「ずっとここにいるのは危ないと思うんだ。昨日、痕跡がどうとか言ってただろ? 三珠は不思議なオーラを出してるらしくて、それを追って昨日みたいな奴らが襲ってくるんだ。だから、逃げないと」
「……でも、逃げるってどうやって?」
日和は困惑した表情を浮かべている。無理もないだろう。昨日からの出来事を理解するのも難しいだろうに、こんなことを言われてもどうすればいいのか彼女には分からないはずだ。
「オレ達は三珠を持っていろんなところに隠れながら逃げてたんだ。山の中とか、人混みの中とか……とにかくいろんなところ。奴らに極力襲われないようにして逃げてきた」
「……そう、なんだ」
「だから槻尾さんも逃げなきゃ。大丈夫、オレと狷が守るから。な?」
今はこんなことしか言えないが、鳳凰は宥めるように日和へそう告げる。こうなってしまった以上、全力で彼女を守らなければならない。その責任が自分にはあるのだ。彼女は魔法ともなんら縁のない、ごく普通の女の子。怖がらせてしまっただろうし、今も不安だろう。狷は三珠のことをまだ教えてはいけないと言っていたが、そろそろそれも限界だと鳳凰は思った。
「……三珠のこととか、全部話すからさ。とにかく狷と合流して、どうするか決めよう」
「…………うん」
未だ不安そうにしている日和に若干心が痛んだが、鳳凰は務めて平静を装った。
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