右手と魔法!

茶竹 葵斗

文字の大きさ
15 / 50
逃亡

第十五話 鹿の脚力があれば助走なしで150cm跳べるらしい

しおりを挟む
 あれから幾日いくにちか経って、日和達は野を越え山を越えもといた街から離れた場所へ来ていた。今いるのは山奥の竹林だ。しばらく歩いていたので、休めそうな少しひらけた場所で休むことにした。持ってきていた携帯電話の充電は切れてしまったし、飲み物や食料も底を尽きた。しかし、これには心配するなと鳳凰達は言う。食料を調達してくると言って一人どこかへ向かった狷を除き、日和、正影、鳳凰の三人で木漏れ日のもと一時の休息を取っていた。
 この数日で親交が深まった。鳳凰は日和を「ひよちゃん」と呼ぶようになり、日和もまた鳳凰を呼び捨てに。正影と鳳凰も互いを呼び捨てにするようになり、他愛たあいもない話もできるようになった。

「ねぇ、小林くん一人で行っちゃったけど大丈夫かな」
「あいつは大丈夫! ちゃんとオレ達の場所も分かるし」
「それはどうして?」
「気配だよ、オレ達の気配」
「ふうん……」

 日和はもう不思議なことを言われても取り乱したりしないようになっていた。自分の中で許容するように心掛けたからだ。それが理解できなくても、一度自分の中に事実として受け止めれば混乱することはない。無理に理解することもやめた。ありのままを受け止めることにすると、気が楽になった。正影のようにはできないが、それでもこの数日で自分も少しは成長したように思う。
 それよりも、日和には気になることがあった。——狷だ。
 彼は口数も少なく、皆で会話をしていても全く話に入ってこない。それに、話しかけても他愛もないことであれば全く会話が続かないのだ。日和は彼ともできれば仲良くなりたいと考えていた。しかし……。

「ねぇ小林くん、ずっと歩いてて疲れない?」
「…………」

「小林くん、ちょっと待ってよー」
「………………」

「小林くん、こっちおいでよ! みんなでお話しよう」
「……………………」

とまあ、こんな調子だったのである。いくら話しかけても反応がないか一言で終わってしまうのだ。いや、一言返してくれる時はまだマシな方かもしれない。人見知りなのかな、と思ったがそういうわけでもないようで、三珠みたまや鈴、魔法の話になると積極的に話をしてくれる。不器用なのかな、と思うことにしたが、やはり彼だけをよく知らないというのは気が引けて。
 しばらく経った時、狷が何やら大きなものをかついで戻ってきた。その大きなものを確認した時、日和は思わず「ひっ」と声を上げてしまった。彼の手には何かの動物の脚が担がれていたのだ。

「そそそ、それは……!?」
「食料だ。火を起こして焼く」
「えっ」
「え」

 これにはさすがの正影も目を丸くして絶句ぜっくしている。その脚は見たところ鹿のものだろうか、ももの辺りで綺麗さっぱりにさばかれた脚を鳳凰に差し出して、狷は小さく息をついた。

「後は頼む」
「ん、おう」

 鳳凰はこの光景を見慣れているのか、平気な顔で鹿の脚を受け取って地面にそっと置いた。ポケットからサバイバルナイフを取り出したかと思うと、脚の皮を手早く器用にいでいく。新鮮そうな赤い身が皮の下から覗いて、日和達はただそれを呆然ぼうぜんと眺めていることしかできない。全ての皮を剥ぎ取ると、今度は骨と身を分けていく。その手付きも慣れたもので、みるみるうちに鹿の脚は肉の塊に成り果てた。

「……すごいな」

 正影が思わずそう感嘆かんたんの声を漏らす。日和は鳳凰と出会った最初の頃、彼らが狩猟をして生活していると言っていたのを思い出した。

「慣れれば簡単だぜ! 鹿の肉は筋肉質でうまいんだ~、オレ超好き。ひよちゃん達にも早く食べてほしいな」
「……いいから火を起こせ」
「りょーかい」

 鳳凰は狷の言葉に素直に頷くと、地面に手を突き出した。すると、そこからパチパチと音を立てて炎が上がった。日和はやはり「わあ」と声をこぼしてしまう。魔法というものは、いつ見ても不可解で非現実的なものだ。でも彼らがこうして使う魔法には特に嫌悪感や恐怖を感じることはなくて、不思議な感覚を覚えてしまう。炎が上がったのを見た狷は、脇に差していた木の枝を手に取り、それを鳳凰に渡す。それを受け取った鳳凰は、木の枝に肉を突き刺していくと、囲炉裏いろりで魚を焼くような形で炎を中心に木の枝を地面に突き刺し、肉をあぶった。

「よし、これで焼き上がるのを待つだけ!」
「……魔法って本当になんでもできるんだね」
「へへへ。なんでもってわけじゃないけど、確かに色々できるよな」

 得意げに胸を張る鳳凰は、火の番をする為か炎を見つめて黙り込んだ。正影もそれを静かに見守っているので、日和は隣に腰を下ろした狷にそっと話しかけた。

「すごいね。小林くん一人で鹿をったの?」
「…………ああ」
「脚だけだけど、残りは?」
「…………後は野の獣や虫達にかえす。だから置いてきた」
「へえ、そうなんだ」
「……」
「…………」

……だめだ、会話が続かない。しかしここで諦めたくはなかった。こうなれば意地でも仲良くなるまでだ。何か距離を縮めるいい方法はないだろうか。少し考えて、日和はもう一度声をかける。

「ねぇ、みんな名前で呼び合ってるから、小林くんのことも狷ちゃんって呼んでもいい?」
「……?」

 日和の言葉にひくりと表情を動かした狷は、少し目を丸くして日和へ視線を向けた。こんな彼の表情を見るのは、初めてだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

処理中です...