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逃亡
第二十一話 考えたって仕方がない時は仕方ない
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「そんな……正影に三珠が……」
鳳凰は正影の腕輪を見て呆然としながら呟いた。ひとまず三珠をなくした訳ではないことに安堵したような狷だったが、それも束の間で正影のそばに歩み寄る。
「お前も……三珠に選ばれたのか」
「選ばれた、か……なんとも言えないな」
自分の手首に嵌る漆黒の腕輪に、正影は苦笑いを零した。日和の脳裏に様々な考えが巡る。三珠が正影の身に宿ったということは、彼女もまた魔法を使えるようになるのかもしれない。それに、自分のように三珠と正影は一つになる。そうなれば、正影自身に怪我はなくとも、三珠がダメージを受ければ、そのダメージは正影のものになるということだ。日和はぞっとした。自分のような危険に遭わせたくないと思っていた正影が、まさか同じようなことになるなんて。
「そんな……正も……」
「日和、そんなに心配するな」
眉を下げた日和に正影が静かに笑いかける。
「お前だって今ちゃんと生きてるじゃないか。これがついたって死ぬわけじゃないんだから。今となっては何でもかかってこいって感じだよ。お前も魔法を使ってみんなを守っていたのに、オレだけ何もできないのは嫌だしな」
その言葉は、正影自身も魔法を使えるようになると覚悟を決めているようなものだった。
「心配したって今更だろ。というよりも、都合がいいんじゃないか?」
「……こいつの言う通りだ。これで全員が魔法を使える可能性が出てきた。自分の身は自分で守れる。互いのことも」
「ほらな。狷もこう言ってる」
すんなり受け止める正影と狷に対し、日和と鳳凰はまだ不安げだった。
「でも……」
「心配性だなぁ日和は……気にするなよ、オレがいいって言ってるんだから」
「……うーん」
「認めないと殴るぞ、ほらもういいだろ」
嘘なのか本当なのか分からない冗談を言ってのける正影に、日和は「分かった」と渋々頷いた。正直まだ不安が消えた訳ではないが、正影自身が言うのなら心配は無用なのだろう。友達として心配しない訳にはいかないが……。
「それにしても……本当に外れないんだな、これ」
そう言いながら、正影は腕輪と手首の間に指を入れようとしている。しかし腕輪は手首に縫い付けられているようにくっついて、隙間すらできない。光すら反射しない、世界が塗り潰されているような漆黒の腕輪。改めて日和も自分のそれを見下ろしてみる。
「……どういう基準でこうしてつくんだろうな」
「うーん……それは分かんねぇ……」
「ずっと持っていたお前達に、なんでつかなかったんだろう」
確かにそうだな、と日和は考えた。仮に何か違いがあるとしても、鳳凰と狷との違いといえば魔法を使えたか使えなかったと、男であるか女であるかだ。しかしそんな簡単な理由ではないような気もして、日和は首を捻った。
「まあ今更考えたって仕方ないか」
「正……なんでそんな楽観的なの」
「楽観的というか、考えたって分からないことは分からないだろ」
——確かにそうだ。
「魔法だってオレ達には全く理解できないことだしな。でも確かに存在しているんだし」
「うん……」
正影の答えに日和は返す言葉が見つからなかった。全く彼女はどこまでも平常心だ。見習わなくては。でも、どうしたって不安感は拭えない。昔から心配性であった日和には、正影のように考えることはまだできなかった。
「とにかく……今は休もう。あまり悩んだって体に毒だぞ」
「おう……そうだな」
正影は場を仕切るのが上手かった。昔からそうだ。いつも周りに気を配って、意見の食い違いがあれば間に入って皆をまとめていた。ここへきても彼女は変わらない。日和はそれに僅かな安心感を覚え、ほう、と息をついた。
「休むんなら、オレシャワー浴びてぇな」
「私も」
「じゃあ順番に風呂入ろうぜ」
「じゃんけんだな」
うんうんと頷いて、三人はやっと笑みを零した。その様子を狷はただ静かに見つめていた。
鳳凰は正影の腕輪を見て呆然としながら呟いた。ひとまず三珠をなくした訳ではないことに安堵したような狷だったが、それも束の間で正影のそばに歩み寄る。
「お前も……三珠に選ばれたのか」
「選ばれた、か……なんとも言えないな」
自分の手首に嵌る漆黒の腕輪に、正影は苦笑いを零した。日和の脳裏に様々な考えが巡る。三珠が正影の身に宿ったということは、彼女もまた魔法を使えるようになるのかもしれない。それに、自分のように三珠と正影は一つになる。そうなれば、正影自身に怪我はなくとも、三珠がダメージを受ければ、そのダメージは正影のものになるということだ。日和はぞっとした。自分のような危険に遭わせたくないと思っていた正影が、まさか同じようなことになるなんて。
「そんな……正も……」
「日和、そんなに心配するな」
眉を下げた日和に正影が静かに笑いかける。
「お前だって今ちゃんと生きてるじゃないか。これがついたって死ぬわけじゃないんだから。今となっては何でもかかってこいって感じだよ。お前も魔法を使ってみんなを守っていたのに、オレだけ何もできないのは嫌だしな」
その言葉は、正影自身も魔法を使えるようになると覚悟を決めているようなものだった。
「心配したって今更だろ。というよりも、都合がいいんじゃないか?」
「……こいつの言う通りだ。これで全員が魔法を使える可能性が出てきた。自分の身は自分で守れる。互いのことも」
「ほらな。狷もこう言ってる」
すんなり受け止める正影と狷に対し、日和と鳳凰はまだ不安げだった。
「でも……」
「心配性だなぁ日和は……気にするなよ、オレがいいって言ってるんだから」
「……うーん」
「認めないと殴るぞ、ほらもういいだろ」
嘘なのか本当なのか分からない冗談を言ってのける正影に、日和は「分かった」と渋々頷いた。正直まだ不安が消えた訳ではないが、正影自身が言うのなら心配は無用なのだろう。友達として心配しない訳にはいかないが……。
「それにしても……本当に外れないんだな、これ」
そう言いながら、正影は腕輪と手首の間に指を入れようとしている。しかし腕輪は手首に縫い付けられているようにくっついて、隙間すらできない。光すら反射しない、世界が塗り潰されているような漆黒の腕輪。改めて日和も自分のそれを見下ろしてみる。
「……どういう基準でこうしてつくんだろうな」
「うーん……それは分かんねぇ……」
「ずっと持っていたお前達に、なんでつかなかったんだろう」
確かにそうだな、と日和は考えた。仮に何か違いがあるとしても、鳳凰と狷との違いといえば魔法を使えたか使えなかったと、男であるか女であるかだ。しかしそんな簡単な理由ではないような気もして、日和は首を捻った。
「まあ今更考えたって仕方ないか」
「正……なんでそんな楽観的なの」
「楽観的というか、考えたって分からないことは分からないだろ」
——確かにそうだ。
「魔法だってオレ達には全く理解できないことだしな。でも確かに存在しているんだし」
「うん……」
正影の答えに日和は返す言葉が見つからなかった。全く彼女はどこまでも平常心だ。見習わなくては。でも、どうしたって不安感は拭えない。昔から心配性であった日和には、正影のように考えることはまだできなかった。
「とにかく……今は休もう。あまり悩んだって体に毒だぞ」
「おう……そうだな」
正影は場を仕切るのが上手かった。昔からそうだ。いつも周りに気を配って、意見の食い違いがあれば間に入って皆をまとめていた。ここへきても彼女は変わらない。日和はそれに僅かな安心感を覚え、ほう、と息をついた。
「休むんなら、オレシャワー浴びてぇな」
「私も」
「じゃあ順番に風呂入ろうぜ」
「じゃんけんだな」
うんうんと頷いて、三人はやっと笑みを零した。その様子を狷はただ静かに見つめていた。
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