右手と魔法!

茶竹 葵斗

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逃亡

第二十二話 再びの襲来

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 ホテルで休息を十分に取った四人は、また街から離れることにした。もう少し滞在していたかったというのが本心だったが、ごく最近襲われたことも考慮して、すぐに出発したのだった。

「また山の中か……こういう場所の方が襲われる可能性が高い気がするんだけどどうなんだ?」
「それはそうだけど、街中でいきなり襲われたら周りがパニックになるじゃん? だから被害を最小限に収めるためにさ」
「ああ……じゃあもう襲われるのは確定なんだな」

 山道を歩いている中、正影の顔色が一気に曇る。鳳凰の言うことにも一理あるが、襲われることが決まっているのも考えものだ。

「はあ……嫌だなあ……」
「オレも嫌だなぁ……でも向こうも諦めるようなやからじゃないし、我慢しなきゃさ……ていうか、終わらせねぇと」
「……どうやって終わらせるんだ?」

 正影の問いに鳳凰は言葉を濁した。適当に言ったのか、答えは出せなかったようだ。それを見兼ねてか、狷が口を開いた。

「ウルペスコーポレーションを潰す。それだけだ」
「つ、潰す? でも今こうして逃げてるじゃないか」
「そうだよ……潰すって、どうやって?」
「ウルペスコーポレーションの社長、アレキサンダーさえ殺せばあの秘密結社は終わる。今はその機会を探っている状態だ」

 殺す? ——人を?
 日和は彼らと出会った時に男が絶命していたのを思い出した。危険だったのは承知の上だが、人をあやめるのはどうなのだろうか。その考えを読んだように、狷は続けた。

「これは戦争だ。魔法と化学のな。表沙汰ざたにはならない、なってはならない秘密の戦いだ。そこには犠牲も存在する」
「……」

 自分の命を奪おうとした男。彼の恐ろしい表情を思い出して、日和は身震いする。あれは、あの顔は、完全に自分を殺そうとしていたものだ。あそこであの男を殺さなければ、自分が死んでいたのかもしれない。殺したのは自分ではないが、日和は怖くなって顔をそむけた。

らなければ殺られる。それだけは覚えておけ」

 そう狷が口にした時だった。

「そうじゃのう。この世は殺るか殺られるか。いつでも命の戦いが繰り広げられておる」
「!!」

後ろから突然声をかけられて、日和達は勢いよくそちらを振り返った。そこには甚平じんべいを着た男が立っていた。くるくるとパーマのかかった茶色い髪は風になびいてふわふわと揺れている。

「誰だ、貴様」
「誰だと言って名乗るほどの者でもないが、名前だけでも名乗っておこうかのう。おれは疾風はやて。ウルペスコーポレーションに雇われて、こうしてお前達のところにやってきた」
「ウルペスコーポレーション……!」

 自分達の命と三珠みたまを狙う者だ。その場に固い緊張感が張り詰める。

「おれはあまり争いなどはしたくないからのう。大人しく三珠と鈴を渡してもらえればいいんじゃが……」
「そんなこと聞いて素直に渡すやつがいるかよ!? 絶対に渡さないぞ!」
「ふむぅ……そうか……。なら致し方ないのう」

疾風と名乗った男は緊張感のない古風な話口調でそう言うと、ふところから黒く鈍く光るものを取り出した。それはどこかで見たことのある形をしていた。そこではっと目をみはる。——クナイだ。忍者が使う昔の武器。

「大丈夫、殺しはせん。少し動けなくするだけじゃ」
「そんなの嫌なこった……!」

 鳳凰の手に電気が走る。狷の腕にも炎が宿って、臨戦態勢が整った。……また、戦わなければいけないのか。

神無月かんなづきは手も足も出なかったと言っておったが、おれは一筋縄ではいかんぞ?」

 そうして、戦いの火蓋が切って落とされた。
 最初に仕掛けたのは狷だ。腕を振るって炎を放つ。勢いよく走った炎をひらりと避けて、疾風は小さく笑った。

「ほほっ、好戦的じゃのう」

 疾風は炎を見てもものともしていない。落ち着き払ったその態度に、日和は冷や汗を感じた。瞬間、ぎらりと光るクナイが投げられた。それは一直線に——日和へと飛んでいた。

「!!」

 日和は咄嗟に身を屈めた。それと同時、彼女の周りをあの結界が取り囲み、クナイを弾いた。結界を見た疾風は少し目を丸くしたが、腕を組むと興味深そうにうなった。

「ほう、なるほど。それが神無月の言っていた結界か……」
「余裕ぶっこいてていいのかよ!」

 その間にも、疾風に迫った鳳凰が電気を帯びた拳を振るう。それでも疾風は軽い身のこなしで拳を避け、くるんと宙で一回転すると少し離れた場所に着地した。その身体能力に正影は目を見開いた。

「動きが雑じゃ。それではおれに傷を付けることはできんぞ」
「っこの……!」
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