右手と魔法!

茶竹 葵斗

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逃亡

第二十三話 ここへ来て強敵現る

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 日和はそばに立つ正影に抱きついた。彼女も一緒に結界の中へ入れてしまって、戦いの行方を見守った。
 今度は疾風が攻撃を仕掛けた。光るやいば。狷はそれをしゃがんでやり過ごす。

「身軽じゃのう」

 終始ほわほわとした喋り口調で話す疾風は、それとは正反対に鋭い動きでクナイを際限なく放つ。鳳凰と狷はそれを避けるので精一杯のようだった。しかし狷はギッと疾風を睨みつけると、突如とつじょ彼の前へと素早く駆けた。

「お?」

 狷が腕を振るう。その手にはあの銀色の刃が握られている。一閃。しかし疾風はバック転をして軽々と攻撃をかわす。

「間合いを詰めるのはいい考えじゃ。しかし」

 疾風も狷と同じように腕を横ぎに振るった。かろうじてそれを避けた狷の頬に、赤い線が走った。

「!」
「クナイは放るためだけのものではない」

 クナイを逆手に持った疾風が続け様に下から上へ振り上げる。やはりすんでのところで身を身をひるがえした狷は、一瞬体のバランスを崩した。疾風は見逃さなかった。
 ドスッ——。
 くぐもった音が耳に届く。

「狷!!」

 クナイを持った疾風に突進された狷は、彼の手をぎちりと握った。腹にクナイが刺さっている場所からは、血——ではなく、銀色の液体が流れた。

「何……?」

 疾風は驚きに目を見開く。その瞬間どろりと狷の体が。銀色のどろどろとした液体に成り果てた狷が、疾風の体を覆っていく。

「!!」

 疾風は瞬時にその場から離れて、一度体勢を整えた。銀色の液体は地面へこぼれ落ちると、うごめきながら形を成していった。それはまた狷の姿になり、皮膚や髪が構成されていった。

「はは……魔法とは摩訶まか不思議なものよ」

 苦笑いを浮かべた疾風が再びクナイを構えた。一瞬ほっと息をついた鳳凰は、ちらりと日和達を一瞥いちべつして小さく舌打ちをした。日和はそれに気付いてぎゅっと拳を握り締める。このままでは長い戦いになってしまうだろう。戦いは平行線のままだ。いや、こちらが相手にわずかにされているかもしれない。

三珠みたまを持っているのはお前じゃのう。しかし……手強てごわい。ならば」

 疾風はそこまで言うと、表情を引き締めて日和達へ視線をやった。言い表せない恐怖感を感じて、日和は身を縮こませた。

「周りから攻めるまで」

 言うが早いか、疾風は日和と正影を守る結界の前に駆け出した。クナイによる斬撃。また日和をあの痛みが襲う。

「っ、う……!」
「日和!」
「これも壊せんことはないじゃろう。いつまでもそこにとどまっておらんと出てきたらどうじゃ」

 鳳凰が止めにかかろうと走る。青白い電撃を放つが、それも避けられた。疾風は電撃をやり過ごすと、今度は鳳凰へ飛んだ。その間にもクナイが投げられる。身軽に避ける鳳凰は、疾風を引きつける為かどんどん距離を取っていく。

「鳳凰、そのままだ」

 狷の言葉の後、銀色のつるが地面から飛び出した。しゅるしゅると唸り疾風目掛けて伸びる蔓。しかしそれもいとも簡単に避けられてしまう。

「っくそ、すばしっこいな……!」
「だてに戦闘員なぞしておらんからのう」

 鳳凰のそばまで踏み込んだ疾風は、今度はひじを曲げて思いきり鳳凰の鳩尾みぞおちに叩き込んだ。鳳凰はその一撃に一瞬息を止めると、詰まった息をかふりと吐き出した。

「……ッ」
「鳳凰!」
「まずは一人」

 迷うことなくくるりときびすを返した疾風は、やはり日和達へと向かう。狷はそうさせまいと銀の蔓を操るが、素早い疾風の動きをとらえられない。このまま蔓を無闇に動かせば、日和が展開している結界まで傷付けてしまうかもしれない。狷はぐっと眉をしかめて歯を食いしばった。攻撃の手がゆるむ。それを見計らって、疾風は次々と結界へ攻撃を仕掛ける。

「……っ!」

日和は叩き込まれる痛みにしゃがみ込んだ。しかし、ここで力を緩めては自分だけでなく正影も危険にさらしてしまう。そんなことはさせない。唇を噛んで、日和は攻撃をえた。
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