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逃亡
第二十四話 何も出来ない時ほど辛いものはない
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「むう、固いのう」
結界を攻撃し続ける疾風は表情を曇らせる。……もう限界だ。日和は震える肩を自ら抱いて、ぎゅっと目を閉じた。
その時、狷が動いた。一瞬の内に疾風の懐に潜り込み、左下段から彼を蹴り上げた。咄嗟に受け身を取った疾風は軽く吹き飛んだが、ダメージは少ないようですぐに体勢を元に戻す。
「ふう、びっくりした」
「貴様はここで殺す」
低く呟いた狷はどこからともなく現れた銀色に光る刃を右手に握り、また疾風へ距離を詰める。斬撃。一度、二度、三度——。止むことのない攻撃の手に疾風は避けるばかりだ。
「鋭いのう……隙がない。手練れじゃな」
「喋っている暇があるのなら潔く降参しろ」
日和は霞む視界になんとか二人を捉えて浅い息を吐き出した。意識が朦朧とする。手足の先が冷たい。これは、もう、だめかもしれない。——そこで日和の意識は途絶えた。
パリンッ。
澄んだ音が響いて、結界が破れた。それと同時に日和は倒れた。正影はさっと顔色を変えて、倒れた日和を抱き起こした。
「日和! 日和ッ!」
呼び掛けても反応がない。彼女の顔は青白く、また額には冷や汗が滲んでいた。相当なダメージを受けたことが窺えて、正影の心臓は早鐘のように鳴る。その間にも、狷と疾風は鋭い攻防を繰り広げている。
「日和っ、しっかりしろ……!」
触れた日和の手は冷たい。しかし今こんな状態の日和をどうにかできる場合ではない。ぎりりと歯を食いしばり、正影は彼女の体をぎゅっと抱きしめた。
「くそ……オレに何か出来れば……っ」
「ふむ、お前は何もできぬのか」
近くで聞こえた声に、正影は全身が粟立つのを感じた。視線を動かす。狷が少し先で地面に膝をついている。——この状態は、まずい。
「お前達の腕についているもの、それは三珠じゃのう。渡してもらおうか」
「……ッ!」
正影はそばに立つ疾風をギッと睨み上げると、日和をその場に寝かせて拳を放った。しかしそれはいとも簡単に受け止められてしまう。
「無駄な抵抗はよせ。何もできん者を傷付けようとは思わん、三珠さえ寄越せばのう」
「ッ誰がお前なんかに渡すか……!」
正影の言葉を聞いた疾風は、ふむ、と言葉を零すと鋭い正拳突きを繰り出した。腹に突き刺さる一撃に、息が詰まった。
「ぐ、うっ……」
「急所は外しておる。安心せい」
崩れ落ちる。痛みに思わず呻き声が漏れた。狷もまだ片膝に手をついて動けないようだ。このままでは。
「うむ……では三珠を頂戴するとしようかのう」
疾風の手が日和へ伸びる。「やめろ」と言いたかったが、口からはくぐもった呻き声しか出なかった。疾風の手が日和の三珠に触れた。それを外そうと試みているようだが、三珠はやはり外れない。
「ぬ……これは外れぬのか」
困ったな、と漏らした疾風の足首を掴んで、正影は思いきり腕を引いた。すると気を抜いていたのか、疾風は思ったよりも簡単に地面に尻餅をついた。
「うっ?」
「や、めろ……!」
「うむう、やめろと言われてものう……。こちとら仕事なんでのう。やめるわけにもいかんのじゃ」
疾風は正影の腕を捻り上げて離させると、起き上がって再び日和へ触れる。日和はぐったりとしていて動かない。
「……ッそれ以上触れば、お前を……!」
「お前を、どうするのじゃ?」
きょとんとした顔でこちらを見下ろし、疾風は首を傾げた。彼は完全に自分には何もできないと思い込んでいる。そうだ。自分には何もできない。それが歯痒くて、悔しくて、耐え難い怒りに変わって。
「……ッくそ……!!」
ふつふつと湧き上がる何かに——正影の中の何かがごう、と音を立てて燃えた。
結界を攻撃し続ける疾風は表情を曇らせる。……もう限界だ。日和は震える肩を自ら抱いて、ぎゅっと目を閉じた。
その時、狷が動いた。一瞬の内に疾風の懐に潜り込み、左下段から彼を蹴り上げた。咄嗟に受け身を取った疾風は軽く吹き飛んだが、ダメージは少ないようですぐに体勢を元に戻す。
「ふう、びっくりした」
「貴様はここで殺す」
低く呟いた狷はどこからともなく現れた銀色に光る刃を右手に握り、また疾風へ距離を詰める。斬撃。一度、二度、三度——。止むことのない攻撃の手に疾風は避けるばかりだ。
「鋭いのう……隙がない。手練れじゃな」
「喋っている暇があるのなら潔く降参しろ」
日和は霞む視界になんとか二人を捉えて浅い息を吐き出した。意識が朦朧とする。手足の先が冷たい。これは、もう、だめかもしれない。——そこで日和の意識は途絶えた。
パリンッ。
澄んだ音が響いて、結界が破れた。それと同時に日和は倒れた。正影はさっと顔色を変えて、倒れた日和を抱き起こした。
「日和! 日和ッ!」
呼び掛けても反応がない。彼女の顔は青白く、また額には冷や汗が滲んでいた。相当なダメージを受けたことが窺えて、正影の心臓は早鐘のように鳴る。その間にも、狷と疾風は鋭い攻防を繰り広げている。
「日和っ、しっかりしろ……!」
触れた日和の手は冷たい。しかし今こんな状態の日和をどうにかできる場合ではない。ぎりりと歯を食いしばり、正影は彼女の体をぎゅっと抱きしめた。
「くそ……オレに何か出来れば……っ」
「ふむ、お前は何もできぬのか」
近くで聞こえた声に、正影は全身が粟立つのを感じた。視線を動かす。狷が少し先で地面に膝をついている。——この状態は、まずい。
「お前達の腕についているもの、それは三珠じゃのう。渡してもらおうか」
「……ッ!」
正影はそばに立つ疾風をギッと睨み上げると、日和をその場に寝かせて拳を放った。しかしそれはいとも簡単に受け止められてしまう。
「無駄な抵抗はよせ。何もできん者を傷付けようとは思わん、三珠さえ寄越せばのう」
「ッ誰がお前なんかに渡すか……!」
正影の言葉を聞いた疾風は、ふむ、と言葉を零すと鋭い正拳突きを繰り出した。腹に突き刺さる一撃に、息が詰まった。
「ぐ、うっ……」
「急所は外しておる。安心せい」
崩れ落ちる。痛みに思わず呻き声が漏れた。狷もまだ片膝に手をついて動けないようだ。このままでは。
「うむ……では三珠を頂戴するとしようかのう」
疾風の手が日和へ伸びる。「やめろ」と言いたかったが、口からはくぐもった呻き声しか出なかった。疾風の手が日和の三珠に触れた。それを外そうと試みているようだが、三珠はやはり外れない。
「ぬ……これは外れぬのか」
困ったな、と漏らした疾風の足首を掴んで、正影は思いきり腕を引いた。すると気を抜いていたのか、疾風は思ったよりも簡単に地面に尻餅をついた。
「うっ?」
「や、めろ……!」
「うむう、やめろと言われてものう……。こちとら仕事なんでのう。やめるわけにもいかんのじゃ」
疾風は正影の腕を捻り上げて離させると、起き上がって再び日和へ触れる。日和はぐったりとしていて動かない。
「……ッそれ以上触れば、お前を……!」
「お前を、どうするのじゃ?」
きょとんとした顔でこちらを見下ろし、疾風は首を傾げた。彼は完全に自分には何もできないと思い込んでいる。そうだ。自分には何もできない。それが歯痒くて、悔しくて、耐え難い怒りに変わって。
「……ッくそ……!!」
ふつふつと湧き上がる何かに——正影の中の何かがごう、と音を立てて燃えた。
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