右手と魔法!

茶竹 葵斗

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逃亡

第二十五話 そして怒りが力になる

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——これは、昔の話。
 日和と正影は家も近く、幼稚園生の頃からいつでも一緒だった。おっちょこちょいで泣き虫だった日和。正影はいつも日和を守っていた。いじめっ子に絡まれている日和を助けたり、けた彼女をおぶって先生のところに連れて行ったり。まるで本当の姉妹のようだった。
 小学生に上がった頃も、周りに上手く馴染めない日和を引っ張っていたのは正影だ。この頃から正影は自分を「オレ」と呼ぶ、男勝りな女の子になった。正影は人望も厚く、またリーダーの素質も持っていた。正影はいつもクラスの中心にいた。そんな正影を、日和はうらやましくも頼もしく思っていた。

 二人は中学も高校も、はたまた大学も一緒だった。日和は可愛らしい女の子に成長したし、正影はより男勝りになっていた。日和は男子生徒からひそかな人気を得ていたが、その脇にはいつも正影がいた。下手に日和に手を出せば、正影の制裁せいさいが下されることも広まっていた。いつも日和を守っていたのは正影だった。正影は日和を守らねば、と思っていた。

——そんな時に日和がある事件に巻き込まれた。三珠みたまとやらを拾ってしまった日和は、秘密結社に命を狙われることになったのだという。正影はパニックにこそならなかったが、湧き上がる怒りに体が震えた。何故、日和がそんなことに巻き込まれないといけないのか。幼い頃から妹のように可愛がってきた彼女を、危険な目に遭わせることなんてしたくなかった。日和がその事件を自分で招いたとしても、正影は日和を守らねばという責任感を感じていた。

 そんな中で日和は魔法に目覚め、身をていして自分を守った。それも何度も。日和が自分を守ってくれたのは初めてだった。いつも守る側だった自分が、日和によって守られていた。悪い気がした訳ではない。こんな状況になって、何も出来ない自分が歯がゆかった。



——今もこうして、自分は何も出来ないで行く末を見ているだけだ。今まで日和を守ると決めていたじゃないか。このまま何もしないで、ただ倒れているだけなのか。自分はそこまでやわだったのか。そうして自分をき付けていく。怒りを力に変えるように。

 そうして、正影は『覚醒』した。

 まるで正影の怒りを具現化するように、日和と正影の周りを巨大な炎の渦が取り囲んだ。空高く立ち昇る火柱。飛び退いた疾風はそれを見上げて呆気あっけに取られる。

「何じゃこれは……」

 その炎は膨大ぼうだいな熱量をはらんでいた。その熱は離れた場所にいる鳳凰の肌をもちりちりと焼くようだった。

「……っ?」

 うずくまって動けなかった鳳凰は、その光景を見て目をみはる。狷も炎を見上げて驚いたように目を見開いていた。
 炎の中で、正影は怒りに燃えつつも冷静に今の状況を把握しようとした。この炎は、恐らく自分の力なのだろう。そう、魔法だ。三珠みたまと触れている部分が一瞬だけ熱くなったのだ。そして、自分はその炎の熱を感じない。日和にも熱を伝えていないのが理解できた。それは感覚だ。触覚に近いが、そのことを教えてくれている。正影はぐっと足を踏みしめて地面に膝をつく。

 「……オレの意思に従うなら、奴をここから遠ざけてくれ……!!」

 願えば力になる。そう信じて、正影は低く声を漏らした。その瞬間、炎の渦は弾けて消えた。外ではまだ呆然ぼうぜんとした疾風がいた。彼に向けて、炎を放つ——。
 イメージが具現化される。正影の目の前で炎が形成され、無数の弾となって疾風に飛ぶ。疾風はそれを避けることしかできない。

「っく……熱い……!」

 疾風は炎の熱量に圧倒されている。それは狷と鳳凰も同じだった。乱れ飛ぶ炎は周囲をでたらめに焼いている。これは、上手く魔法を制御できていない証だ。

「無茶しちゃダメだ!!」

 鳳凰の言葉は正影には届かなかった。正影はらん限りの力を振り絞って、疾風へ炎を向けた。疾風はぐっと唇を噛み締めると、これ以上は危険だと察したのかそこから立ち去っていった。

「正影! もう大丈夫だ!」

 鳳凰の言葉を聞いても、正影は止めなかった。——いや、止められなかった。
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