右手と魔法!

茶竹 葵斗

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逃亡

第二十六話 魔法とは

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 正影は自分の内から溢れる力を制御できなくなっていた。飛ぶように放たれる炎はなくなったが、彼女の周りをまだ赤い炎が渦巻いている。

「……ッ」

 魔法を使うのも体力がいるのだと正影はさとった。体の内側からじりじりと焼けるように熱い。先程までは熱さを感じなかったのに、今は自分自身が焼かれているようだ。

「正影!」

 鳳凰の呼びかけが遠くで聞こえる。脅威きょういはどうにか去ったらしいのは分かるが、この力をどう止めればいいのか分からなかった。

「正影! 落ち着け! これじゃオレらも近付けねぇ!」
「……っでも、どうやって」
「水だ。水を想像しろ」

 鳳凰とは違う方向から、狷の少し張り上げた声が届く。水——。正影は瞬時に理解した。
 目を閉じる。水面みなも。一滴のしずく。静かに波打つ。それはどこまでも続いて、静まり返る。……徐々に感情が、炎が落ち着いていく。

「流れに身を任せろ」

 川がさらさらと流れるように。時がゆっくりと流れるように。心がいでいく。
 そうか、魔法とは、心だ。
 気付いた時には、炎は跡形もなく消え去っていた。同時に、極度の疲労感を感じて正影はがくりと項垂うなだれた。

「正影……っ」

 駆け寄ってくる鳳凰にゆっくりと顔を上げて、正影は日和を一瞥いちべつした。

「……オレよりも日和の方が心配だ」

 日和はいまだ倒れて動かないままだ。自分も経験したので分かるが、魔法を使いすぎて体力を消耗したのだろう。いや、日和の場合はダメージを受けすぎたと言った方が正しいかもしれない。遅れて三人のそばへやってきた狷は、まだ脇腹を抱えていた。

「……目を覚まさないのか」
「みたいだ……。狷、大丈夫か?」
「…………自分で治す。問題ない」

 そう言った狷の脇腹をちらりと見て、正影は息を飲む。……服の下から血がにじんでいた。疾風につけられた傷だろう。痛みはあるはずだが、狷は至って涼しそうな顔をしていた。その顔にも一本の赤い筋ができたままだ。

「狷、とにかく今は傷を治して、少し休めるところを見つけようぜ。日和ちゃんも心配だ」

 正影はぐったりしている日和を抱き上げた。守れた、のだろうか。この結果は、果たして守れたと言っていいものか。不安は消えないまま、三人は日和を連れてその場を後にした。



 比較的近くに古びた宿屋を見つけた。友人が倒れたのだと宿主に伝えると、宿主は床を貸してくれると言う。

「すみません、お世話になります」
「いいよいいよ、とりあえず早く友達を寝かせてあげなさい」

人の良さそうな中肉中背ちゅうにくちゅうぜいの宿主は日和を心配そうに見つめてそう言うと、せかせかと三人の背中を押して部屋へ案内してくれた。その部屋もやはり少々古びていたが、休めるのであれば上々だ。というよりも、宿主に感謝しかない。……お金を払うか払わないかのところには触れなかったが。

「ありがとうございます」
「それじゃあゆっくりしてね。友達も起きるといいけど……」

 そう言って、宿主は部屋の戸を閉めて去っていった。ひとまず日和を布団に寝かせて、三人はようやく息をついた。日和が目を覚ますまで不安はぬぐえないが、時間が経てばきっと。

「あの時、魔法で痛みがやわらいだみたいだし、一応やっとく?」
「……ああ」

 鳳凰の言葉を受けて、狷は日和の額に手を触れた。そうしてしばらくそのままだった狷は、手を離して目を細める。

「……やれることはやった。後は目を覚ますかどうかだ」

 正影は日和を見下ろし、布団の中のその手を握った。未だ固く目を閉じたままの彼女。自分達を守る為に無茶をさせてしまった。

「…………ごめんな」

 小さな呟きは部屋の静寂せいじゃくに溶けて消えた。




「……三珠みたまを取り逃した?」

 男の声に思わず体が固くなる。ここはウルペスコーポレーションの社長室だ。疾風は立派な椅子に座る男を見て、ごくりとつばを飲んだ。

「魔法は、三珠はやはり手強てごわい……あのままではおれが死んでおった」
「……まあ、お前を失うのはオレとしても痛手だからね。今回は大目に見るとして」

 そこで男は机にひじをつき、手を組んだ。

「……さっき報告を受けた通り、三珠が腕輪になってるってのは興味深いな。しかも外れなかったんだって?」
「そう……まるでその者と癒着ゆちゃくしておるようじゃった。三珠だけを奪うのは難しいかもしれんのう」

 疾風の言葉にふむ、と男は声を漏らす。しかしすぐに机に手をつくと、男は口を開いた。

「なら腕を切り落とすまでだ。疾風、次もよろしく頼むぞ」
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