右手と魔法!

茶竹 葵斗

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逃亡

第二十八話 やっぱり女心を分かっていない

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 ゆっくり休んでいたところに、仲居なかいが食事への誘導を行ってくれた。別の部屋で料理の用意をしてくれていたらしく、そちらの部屋へ通されて皆で食事をした。料理の内容も宿というよりは旅館らしい懐石料理で、鳳凰がとても喜んでいた。食事を終えて風呂にも入り、今は就寝前の会話を楽しんでいるところである。

「明日ここを出てどうしようか」
「……金が必要だ。もう残りが少ない」

 ふと切り出した正影の言葉に狷がそう返して、ズボンのポケットから二つ折りの財布を取り出し中身を確認した。そういえば財布の中身が減ってきたな、と日和も考える。というより、彼らはどこで金を得ているのだろうか。今までのことを考えると、二人ともバイトをしたりしている様子もないし、街に出た時も銀行に寄ったりすることはなかった。

「二人ってどうしてお金を稼いでるの?」

 気になって問うてみると、鳳凰と狷は顔を見合わせて何故か微妙な顔をした。しかし狷が日和へ視線を変えて静かに口を開く。

「……俺の師匠の遺産だ。金がなくなれば師匠の住んでいたところへ戻っている」
「そうなんだ」
「ここからそう遠くないし、明日朝出れば昼までには着くと思うぜ」

 布団の上で胡座あぐらをかいている鳳凰がそう言ってにかっと笑う。

「狷の師匠の家は面白いぜ! いろんなものがごちゃごちゃしてんだ。ほんと魔女の屋敷って感じ」
「へぇ……」

 彼らはよく「師匠」と呼んでいるが、その「師匠」達がどんな人物なのかは今まで深く語ることはなかった。日和も気になってはいたのだが、聞くほどのものでもないのかと思って聞かなかったのだ。しかしこれから師匠のいた所に向かうというのなら、興味は嫌でも湧いてくる。

「二人のお師匠さんってどんな人だったの?」
「お師さんはオレがずっと小さい時から育ててくれてたんだー。本物の母さんみたいだったな。優しくて何でも教えてくれた。狷の師匠は……なんか変な人ってイメージしかねぇや」
「……師匠は魔法以外興味がなかった。俺のこともただ魔法を受け継がせる器のように思っていたんだろう。俺も師匠のことはよく知らない」

 二人の師匠はどうやら対照的だったらしい。そこで鳳凰は「あっ」と声を上げると、日和を見つめてにこにこと笑みを浮かべた。

「おれのお師さん、多分ひよちゃんに似てるんだ! なんか親近感湧くなーって思ってたら、そういうことかー!」
「そ、そうなの?」
「おう! ほわほわしてて笑顔がかわいくってさ! そっかー、そうだったんだなー!」

 ひとり納得したように何度も頷いている鳳凰に、日和はとりあえず笑ってみせた。全く、この男達は異性の気持ちを理解していない。簡単に可愛いなんて言うものじゃないのに、と考えたところで、日和ははっと顔を上げておそるおそる正影をうかがった。……正影は人を刺し殺すのではないかと思うほどの恐ろしい形相で鳳凰を睨みつけていた。鳳凰はそれには気付いていない。いや、気付かない方がいいだろう。命が惜しければ。

「ひよちゃん顔がいいもんなー。オレのお師さんもきれいな人だったし、雰囲気も似てるし」
「……鳳凰」
「絶対モテてただろーひよちゃん。オレ学校にひよちゃんみたいな子がいたら絶対告白してるもん!」
「鳳凰……それ以上は言わない方がいいよ……」
「え?」
「…………お前、うちの日和をそんな風に見てたのか」

 ……正影の後ろに般若が現れた、ように見えた。

「え? え?」
「いい度胸だな……オレの日和を自分のものにできるとでも?」
「オレの日和? えっちょっと待って正影さん、その手は何? オレにはすごい握りしめてるように見えるんですけど」
「歯ぁ食いしばれ?」
「いや! いやぁー! 待ってやめて殴らないでやめてお願い! こ、殺されるー!!」

 掴みかかられてぎゃーぎゃーとわめき立てる鳳凰を、狷は汚いものを見る目で見つめていた。日和ももう何も言わずただ笑うことしかできない。正影の「オレの日和」発言もどうかとは思うが、そこも突っ込まないでおこう。きっと火に油だ。正影はこういうことになると途端に冷静さを失うのを日和は知っていた。昔から日和の色恋沙汰ざたになると、正影は自分のことのように思うのかいつもの彼女からは想像できないほど感情を露わにしていたのだ。

「……なんだかなあ……」
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