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逃亡
第三十一話 魔法屋敷は危険がいっぱい
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朝食も食べ終えて、四人は宿を後にした。お代は四人分きっちりと取られたが、幾らか安くしてくれたようで宿主は「気をつけて」と宿の外まで見送ってくれた。
「いい人だったね、宿の人」
「そうだな」
「さて、歩くぜ!」
鳳凰の声を皮切りに、四人はまた山道を歩き始めた。陽はまだそこまで登っていないので、歩くのも苦ではなさそうだ。野鳥の声がそこかしこから聞こえてきて、日和はずっと頭上を気にしていた。少しでもその姿が見られればと思っていたが、なかなか見つけることはできず。
「日和、何が鳴いてるんだ?」
「えっとね…………ほら、今鳴いたのはキビタキだよ。あとコマドリもいるのかな」
「ひよちゃん、鳥が好きなのか?」
「うん、バードウォッチングが趣味なの。双眼鏡とカメラがあればなあ……」
そういえば、こんなことに巻き込まれる前もバードウォッチングをしていた。キビタキを追いかけていたところを、男達に襲われて。あの時あの場所にいなければ鳳凰達にも会うことがなかったのかもしれないと思うと、何だか不思議な気持ちにもなった。
それからしばらく、歩いて歩いてようやく先を行く狷が足を止めた。しかしそこはただ木々の生える山肌が続いているだけで、何か建物が見える訳でもなかった。
「……ここ?」
「おう。まぁ見てな」
鳳凰が日和と正影を振り返ってにいっと笑う。狷が前へと手を翳すと、景色が突然変わって目の前に古びた屋敷が現れた。森に囲まれた屋敷は蔦に覆われていて、西洋の魔女の家のようにも見える。
「わあ……っ」
「魔法で見えなくしてるんだぜ」
「……すごいな」
「へへっ、そうだろ」
得意気に呟いた鳳凰は、屋敷へ入る狷に続いて二人を手招きした。日和と正影はお互いに顔を見合わせると、おそるおそる二人の後を追う。日和達が屋敷の中へ入ると、そこは元の山肌に戻り景色に紛れて消えた。
屋敷の中は沢山の物で散らかっていた。床にまで散乱した紙や机にうず高く積まれた本。外見だけでなく中身も魔女の住む家のようだ。
「何だか不思議なところ……」
「オレ達にも何がなんだか分かんねぇんだよ。こんな紙に書かれた文字とかさ」
手短にあった紙を拾い上げて、鳳凰はそれを指差してみる。それに記されているのは日本語でも英語でもない、難解な文字だった。日和は鳳凰が摘んでいる紙を眺めてうーんと唸った。
「何語なんだろう……」
「…………師匠にしか読み解けない暗号のようなものだ。俺にも読めない」
狷は机の上の本をばらばらと床に落としながらそう言って、何やら袋を手に取るとその中身を探り始めた。中から出てきたのは多数の紙幣だ。それが出るわ出るわ、溢れるように袋から落ちていく。……圧巻だ。それよりも、そこまで紙幣が入っているような袋だろうか。見た目にはそこまで大きくはないのだが。
「お、お金が……」
「この袋、四次元ポケットかってくらいお金が入ってるんだぜ」
「ある意味四次元だな。師匠の金はここに全て入っている。逆さまにはできない」
「どうして?」
「…………際限なく出てくるからだ」
日和は想像してごくりと唾を飲んだ。この袋を逆さまにすれば、金の雨が降るのかもしれない。狷の言う通りだと、この袋にも魔法がかけられているらしい。その考えが伝わったのか、狷は日和を一瞥して続ける。
「師匠はこの屋敷のあらゆるものに魔法をかけている。下手に触らない方がいい」
「触ったらどうなるの?」
「本に噛みつかれたりとかかなぁ。オレは何度か経験したぜ。いやぁ、あれは痛かった!」
けらけらと笑いながら鳳凰は机の上の本をばしばし叩いている。普通に聞いていればゲームか何かの世界の話にしか聞こえない。
「その本とか大丈夫なの……?」
「え? あ、確かに」
「大丈夫そうだけどな」
正影がそう言った直後だ。本がばたむと音を立てると、鳳凰の腕に噛みつかんと歯を剥き出しにして襲いかかってきた。本に歯があるなんてどういうことだろう。日和と正影は驚いて互いを抱き合った。
「ひっ!」
「ぎゃあっ!? あっぶねぇ!」
鳳凰は奇声を上げてその場から飛び退きことなきを得た。本は未だにばたばたと暴れながら何か噛みつくものがないかと蠢いている。呆れたようにため息をついた狷が、本の表紙を引っ掴んで無理やり本の口……いや、開かれたページの部分を閉じた。
「お前は分かっているはずなのにどうして引っかかる。馬鹿なのか」
「う……」
「一度この屋敷の魔法全てに引っかかってみろ。いや、馬鹿は死んでも治らん。ご苦労だったな」
「酷くね? いくらなんでも酷くね!?」
「ご苦労様」
「正影まで!?」
二人から蔑んだ目を向けられて、鳳凰は助けを求めるように日和へ縋りついた。
「ひよちゃん! 狷と正影が酷い!!」
「ああうんそうだね、でも私に来ちゃったら……」
「おい!! 日和にくっつくなこのスケベ野郎!!」
「うぎゃあっ!」
正影の拳骨を頭に受け、鳳凰はまたも奇声を上げてその場に倒れ込んだ。……もう苦笑いしか出ない。日和は鳳凰を「かわいそうだなあ」と思いながらも助けることはしなかった。またとんだとばっちりを正影から受けることになるのが目に見えていたからだ。
「金は手に入った。これからどうするかだ」
「オレは無視なの……?」
「いい人だったね、宿の人」
「そうだな」
「さて、歩くぜ!」
鳳凰の声を皮切りに、四人はまた山道を歩き始めた。陽はまだそこまで登っていないので、歩くのも苦ではなさそうだ。野鳥の声がそこかしこから聞こえてきて、日和はずっと頭上を気にしていた。少しでもその姿が見られればと思っていたが、なかなか見つけることはできず。
「日和、何が鳴いてるんだ?」
「えっとね…………ほら、今鳴いたのはキビタキだよ。あとコマドリもいるのかな」
「ひよちゃん、鳥が好きなのか?」
「うん、バードウォッチングが趣味なの。双眼鏡とカメラがあればなあ……」
そういえば、こんなことに巻き込まれる前もバードウォッチングをしていた。キビタキを追いかけていたところを、男達に襲われて。あの時あの場所にいなければ鳳凰達にも会うことがなかったのかもしれないと思うと、何だか不思議な気持ちにもなった。
それからしばらく、歩いて歩いてようやく先を行く狷が足を止めた。しかしそこはただ木々の生える山肌が続いているだけで、何か建物が見える訳でもなかった。
「……ここ?」
「おう。まぁ見てな」
鳳凰が日和と正影を振り返ってにいっと笑う。狷が前へと手を翳すと、景色が突然変わって目の前に古びた屋敷が現れた。森に囲まれた屋敷は蔦に覆われていて、西洋の魔女の家のようにも見える。
「わあ……っ」
「魔法で見えなくしてるんだぜ」
「……すごいな」
「へへっ、そうだろ」
得意気に呟いた鳳凰は、屋敷へ入る狷に続いて二人を手招きした。日和と正影はお互いに顔を見合わせると、おそるおそる二人の後を追う。日和達が屋敷の中へ入ると、そこは元の山肌に戻り景色に紛れて消えた。
屋敷の中は沢山の物で散らかっていた。床にまで散乱した紙や机にうず高く積まれた本。外見だけでなく中身も魔女の住む家のようだ。
「何だか不思議なところ……」
「オレ達にも何がなんだか分かんねぇんだよ。こんな紙に書かれた文字とかさ」
手短にあった紙を拾い上げて、鳳凰はそれを指差してみる。それに記されているのは日本語でも英語でもない、難解な文字だった。日和は鳳凰が摘んでいる紙を眺めてうーんと唸った。
「何語なんだろう……」
「…………師匠にしか読み解けない暗号のようなものだ。俺にも読めない」
狷は机の上の本をばらばらと床に落としながらそう言って、何やら袋を手に取るとその中身を探り始めた。中から出てきたのは多数の紙幣だ。それが出るわ出るわ、溢れるように袋から落ちていく。……圧巻だ。それよりも、そこまで紙幣が入っているような袋だろうか。見た目にはそこまで大きくはないのだが。
「お、お金が……」
「この袋、四次元ポケットかってくらいお金が入ってるんだぜ」
「ある意味四次元だな。師匠の金はここに全て入っている。逆さまにはできない」
「どうして?」
「…………際限なく出てくるからだ」
日和は想像してごくりと唾を飲んだ。この袋を逆さまにすれば、金の雨が降るのかもしれない。狷の言う通りだと、この袋にも魔法がかけられているらしい。その考えが伝わったのか、狷は日和を一瞥して続ける。
「師匠はこの屋敷のあらゆるものに魔法をかけている。下手に触らない方がいい」
「触ったらどうなるの?」
「本に噛みつかれたりとかかなぁ。オレは何度か経験したぜ。いやぁ、あれは痛かった!」
けらけらと笑いながら鳳凰は机の上の本をばしばし叩いている。普通に聞いていればゲームか何かの世界の話にしか聞こえない。
「その本とか大丈夫なの……?」
「え? あ、確かに」
「大丈夫そうだけどな」
正影がそう言った直後だ。本がばたむと音を立てると、鳳凰の腕に噛みつかんと歯を剥き出しにして襲いかかってきた。本に歯があるなんてどういうことだろう。日和と正影は驚いて互いを抱き合った。
「ひっ!」
「ぎゃあっ!? あっぶねぇ!」
鳳凰は奇声を上げてその場から飛び退きことなきを得た。本は未だにばたばたと暴れながら何か噛みつくものがないかと蠢いている。呆れたようにため息をついた狷が、本の表紙を引っ掴んで無理やり本の口……いや、開かれたページの部分を閉じた。
「お前は分かっているはずなのにどうして引っかかる。馬鹿なのか」
「う……」
「一度この屋敷の魔法全てに引っかかってみろ。いや、馬鹿は死んでも治らん。ご苦労だったな」
「酷くね? いくらなんでも酷くね!?」
「ご苦労様」
「正影まで!?」
二人から蔑んだ目を向けられて、鳳凰は助けを求めるように日和へ縋りついた。
「ひよちゃん! 狷と正影が酷い!!」
「ああうんそうだね、でも私に来ちゃったら……」
「おい!! 日和にくっつくなこのスケベ野郎!!」
「うぎゃあっ!」
正影の拳骨を頭に受け、鳳凰はまたも奇声を上げてその場に倒れ込んだ。……もう苦笑いしか出ない。日和は鳳凰を「かわいそうだなあ」と思いながらも助けることはしなかった。またとんだとばっちりを正影から受けることになるのが目に見えていたからだ。
「金は手に入った。これからどうするかだ」
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