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逃亡
第四十一話 生きとし生ける意味を君に
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「お前は何も分かっていない……お前には分からない」
狷は苦々しく呟く。その言葉の意味が理解できない日和は彼へ歩み寄る。
「どういうこと? ちゃんと話してほしいよ」
「…………」
日和がそう言っても、狷は首を横に振るだけで一向に口を開こうとはしない。それどころか、日和から距離を取ろうと後退っていく。先程の少年らしい表情は、今や恐怖を感じているようなものに変わっていた。
「……何故だ。何故お前は俺に近付こうとする。こんなに突き放しているのに、何故お前は……」
「放っておけないからだよ。狷ちゃんのこと、一人にさせたくないから」
「そんなのお前のエゴだ。ただの自己満足だ」
「うん、狷ちゃんの言う通りかもしれないね」
でも、と日和は続ける。
「狷ちゃんだってそうでしょ? 私だけじゃないよ、みんなそう。だって誰も人の気持ちなんて分からないもん。だからぶつかるんだし、分かり合えたりするんだよ。そうして人って繋がってるんだよ。それがなくなっちゃったら、心が疲れちゃう」
「違う、他人と関わるから心が傷付く」
「それは違うって狷ちゃんが一番分かってるでしょ? だって、魔法は心の力だって、狷ちゃんが私に言ってくれたんだよ?」
日和の言葉に狷は口籠もり、目を伏せた。
「……俺は違う。一人で強くなってきた。一人になることで心を強く保ってきた。だからお前のことも不要だ。鳳凰も、あの女も。都合がいいから共にいるだけだ」
「……素直じゃないね、狷ちゃんは」
歩み寄る。
「誰も一人じゃ生きていけないよ。一人で生きてない。自分の体だって、自分の意思だけで動かしてるんじゃないでしょ?」
「…………」
「心臓だってね、止めたくても止められないでしょ? 息もそう、自分で止めようと思っても苦しくなっちゃう。寝てる間も無意識に体は動いてるよね。私達、誰かに生かされてるんだよ。いつだって一人じゃない」
狷はその言葉を聞いて目を丸くしていた。「誰かに生かされている」——この言葉は母の口癖のようなものだった。日和が小さい頃から聞かされてきた言葉だ。だから生きていることに感謝しなさい、と。人は一人では生きていけない、全ての出会いは自分の為にあるのだと。幼い頃はよく分からなかったが、年を重ねるごとにその意味を知っていった。
「だからね、一人じゃないよ。狷ちゃんにはみんながいる」
「……その言葉、どこで」
ぽそりと。狷が呟いた時だった。
大きな爆発音と共に、屋敷が揺れた。
「!?」
「なに……!?」
咄嗟に広間へ戻ると、正影と鳳凰が一点を見つめて固まっていた。日和と狷もその先を見て息を飲む。
土煙。壁が破壊されて発生したそれの奥、人影が浮かび上がる。そこから現れたのは、スーツを身に纏った黄金色の髪の男だった。男を見た狷の髪が僅かに逆立つ。
「貴様は……」
「あー、やっと俺直々に来れたわ。仕事が終わらない終わらない……どっか行こうとしたら社員に止められるし」
男はひとりぼそぼそと話し続ける。
「ここも前から知ってたんだけど、なかなか来れなかったんだよな。魔法を破るのに手こずったわ。やっと来てみたらお前らもいるしめっちゃラッキー」
「……誰だ?」
体勢を低くして言う正影に、その男はぱちぱちと目を瞬かせた。
「あれ、オレのこと知らない? 最近CM結構出てるんだけどなー」
「……!!」
その言葉で日和は理解した。ざわりと肌が粟立つ。
ウルペスコーポレーション。その広告塔。
——この男こそ、自分達を狙う張本人。
「アレキサンダー……!?」
「はは、呼び捨てか。まあいいんだけどね。それより、久しぶりだな、小林狷に……鳳凰だったか?」
男——アレキサンダーの言葉に二人を見やる。狷は鋭い視線をアレキサンダーに向け、敵意を剥き出しにしていた。鳳凰も歯を食いしばっていつでも動けるよう構えを取っている。一方のアレキサンダーからは敵意すら感じない。それが一層不気味さを醸し出していて、日和は身震いする。
「前に会ったのはいつだっけ? 確か……あの時は他にも誰かいたよな。女と男だ」
「……おい」
鳳凰が低く声を漏らす。アレキサンダーはそれに構わず続ける。
「強かったなあ。オレに傷付けたんだぜ、あの女。確か……伊佐、だっけ? 男の方も手強かった、名前は忘れちまったけど。まあ、殺したけどね。お前ら見てたんだっけ? ああ、いなかったっけ。女の方がお前らを逃したんだ、魔法で。あの顔今でも忘れられないんだよな、弟子だけは見逃してくれってさ」
「ッお前ええええええええええ!!」
バチバチと電気が走る音と鳳凰の咆哮が空気を震わせた。鳳凰は凄まじい電気を身に纏ってアレキサンダーへ駆ける。真正面からアレキサンダーへ拳を放つが、アレキサンダーは身動き一つせずそこに立っているだけだ。拳がアレキサンダーへ当たる直前、突然鳳凰の体が吹き飛んだ。鳳凰はなんとか受け身を取って床に着地する。日和には鳳凰が見えない何かに弾かれたように見えた。
「鳳凰っ、大丈夫!?」
「……許さねぇ……!!」
「はは、怒ったか? いいよ、かかってこいよ。あの時みたいに遊んでやるからさ」
アレキサンダーは楽しそうにそう言って、くいくいと手を動かした。
狷は苦々しく呟く。その言葉の意味が理解できない日和は彼へ歩み寄る。
「どういうこと? ちゃんと話してほしいよ」
「…………」
日和がそう言っても、狷は首を横に振るだけで一向に口を開こうとはしない。それどころか、日和から距離を取ろうと後退っていく。先程の少年らしい表情は、今や恐怖を感じているようなものに変わっていた。
「……何故だ。何故お前は俺に近付こうとする。こんなに突き放しているのに、何故お前は……」
「放っておけないからだよ。狷ちゃんのこと、一人にさせたくないから」
「そんなのお前のエゴだ。ただの自己満足だ」
「うん、狷ちゃんの言う通りかもしれないね」
でも、と日和は続ける。
「狷ちゃんだってそうでしょ? 私だけじゃないよ、みんなそう。だって誰も人の気持ちなんて分からないもん。だからぶつかるんだし、分かり合えたりするんだよ。そうして人って繋がってるんだよ。それがなくなっちゃったら、心が疲れちゃう」
「違う、他人と関わるから心が傷付く」
「それは違うって狷ちゃんが一番分かってるでしょ? だって、魔法は心の力だって、狷ちゃんが私に言ってくれたんだよ?」
日和の言葉に狷は口籠もり、目を伏せた。
「……俺は違う。一人で強くなってきた。一人になることで心を強く保ってきた。だからお前のことも不要だ。鳳凰も、あの女も。都合がいいから共にいるだけだ」
「……素直じゃないね、狷ちゃんは」
歩み寄る。
「誰も一人じゃ生きていけないよ。一人で生きてない。自分の体だって、自分の意思だけで動かしてるんじゃないでしょ?」
「…………」
「心臓だってね、止めたくても止められないでしょ? 息もそう、自分で止めようと思っても苦しくなっちゃう。寝てる間も無意識に体は動いてるよね。私達、誰かに生かされてるんだよ。いつだって一人じゃない」
狷はその言葉を聞いて目を丸くしていた。「誰かに生かされている」——この言葉は母の口癖のようなものだった。日和が小さい頃から聞かされてきた言葉だ。だから生きていることに感謝しなさい、と。人は一人では生きていけない、全ての出会いは自分の為にあるのだと。幼い頃はよく分からなかったが、年を重ねるごとにその意味を知っていった。
「だからね、一人じゃないよ。狷ちゃんにはみんながいる」
「……その言葉、どこで」
ぽそりと。狷が呟いた時だった。
大きな爆発音と共に、屋敷が揺れた。
「!?」
「なに……!?」
咄嗟に広間へ戻ると、正影と鳳凰が一点を見つめて固まっていた。日和と狷もその先を見て息を飲む。
土煙。壁が破壊されて発生したそれの奥、人影が浮かび上がる。そこから現れたのは、スーツを身に纏った黄金色の髪の男だった。男を見た狷の髪が僅かに逆立つ。
「貴様は……」
「あー、やっと俺直々に来れたわ。仕事が終わらない終わらない……どっか行こうとしたら社員に止められるし」
男はひとりぼそぼそと話し続ける。
「ここも前から知ってたんだけど、なかなか来れなかったんだよな。魔法を破るのに手こずったわ。やっと来てみたらお前らもいるしめっちゃラッキー」
「……誰だ?」
体勢を低くして言う正影に、その男はぱちぱちと目を瞬かせた。
「あれ、オレのこと知らない? 最近CM結構出てるんだけどなー」
「……!!」
その言葉で日和は理解した。ざわりと肌が粟立つ。
ウルペスコーポレーション。その広告塔。
——この男こそ、自分達を狙う張本人。
「アレキサンダー……!?」
「はは、呼び捨てか。まあいいんだけどね。それより、久しぶりだな、小林狷に……鳳凰だったか?」
男——アレキサンダーの言葉に二人を見やる。狷は鋭い視線をアレキサンダーに向け、敵意を剥き出しにしていた。鳳凰も歯を食いしばっていつでも動けるよう構えを取っている。一方のアレキサンダーからは敵意すら感じない。それが一層不気味さを醸し出していて、日和は身震いする。
「前に会ったのはいつだっけ? 確か……あの時は他にも誰かいたよな。女と男だ」
「……おい」
鳳凰が低く声を漏らす。アレキサンダーはそれに構わず続ける。
「強かったなあ。オレに傷付けたんだぜ、あの女。確か……伊佐、だっけ? 男の方も手強かった、名前は忘れちまったけど。まあ、殺したけどね。お前ら見てたんだっけ? ああ、いなかったっけ。女の方がお前らを逃したんだ、魔法で。あの顔今でも忘れられないんだよな、弟子だけは見逃してくれってさ」
「ッお前ええええええええええ!!」
バチバチと電気が走る音と鳳凰の咆哮が空気を震わせた。鳳凰は凄まじい電気を身に纏ってアレキサンダーへ駆ける。真正面からアレキサンダーへ拳を放つが、アレキサンダーは身動き一つせずそこに立っているだけだ。拳がアレキサンダーへ当たる直前、突然鳳凰の体が吹き飛んだ。鳳凰はなんとか受け身を取って床に着地する。日和には鳳凰が見えない何かに弾かれたように見えた。
「鳳凰っ、大丈夫!?」
「……許さねぇ……!!」
「はは、怒ったか? いいよ、かかってこいよ。あの時みたいに遊んでやるからさ」
アレキサンダーは楽しそうにそう言って、くいくいと手を動かした。
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