右手と魔法!

茶竹 葵斗

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逃亡

第四十三話 嘘と誠、三珠の真実

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「お前らが三珠みたま持ってるんだよね? ほら、それ」

 うずくまる鳳凰の横に立ったまま、アレキサンダーが日和達の腕輪を指差す。日和は正影の周りにも結界を張り巡らせた。先程も、狷や鳳凰に結界を張ることができていたら。判断が遅かった。アレキサンダーは少し考える素振そぶりを見せたものの、二人に向かって歩く。

「渡してくれる? ああそうだ、それ外れないんだっけ」
「お前みたいな胡散臭うさんくさいやつに誰が渡すか……!」

 正影は苦々しく言い放つ。

「世界の革新……? 今のままの世界じゃ何がいけないんだ」
「ああ、そうだなぁ。今のままじゃオレがからだよ。世界に……いや、に、かな」
「勝つ……?」
「そ。いつでもこの世の中で一番強いのはだ。弱者にならない為に今までオレは時代に従って生きてきた。機会を探りながらね。でもそれももう終わり。時代に勝つ方法を見つけたんだ」
「それが魔法や三珠を消すことか……?」
「んー、正解と言いたいところだけど、近くて遠いな。三珠も魔法もその途中に過ぎない」

 そこまで言うと、アレキサンダーはにやりと口角を吊り下げて笑った。卑しい笑み。ぞわりと寒いものが背筋を這い上がる。

両面宿儺りょうめんすくな。こいつを目覚めさせる。そうすれば世界を作り変えられる。それには三珠と鈴が必要なんだ」
「……!!」

 アレキサンダーの言葉を聞いていた狷は、倒れたまま目を見開いた。

「何言ってるのかさっぱり分からないけど、お前が胡散臭いのはよく分かった。三珠は渡さない」
「はあ……お前らさ、三珠がそもそも何なのか知ってんの? それも知らないんだろ」
「……それ、は」
「やっぱりな。教えてやろうか、三珠の正体」

 以前鳳凰達から説明を聞いた時は、三珠の中には世界を救った神が封印されていると言っていた。その三珠の封印が解かれれば、世界に魔法が解き放たれてしまう、と。……聞いていたのはそれだけだ。アレキサンダーは続ける。

「三珠はあるものを封印してる。神でも悪魔でもない、太古の『魔物』だ。両面宿儺を呼び出す為に必要なんだよね」
「え……?」
其奴そいつの言うことを信じるな……!」

 狷が腹を押さえながら立ち上がり、声を振り絞る。狷には目もくれないまま、アレキサンダーは小さく吹き出した。

「っはは! 何で隠す必要があるんだ? お前が一番知ってるはずだよね? 三珠の本当の存在意義をさ」
「黙れ!」
「図星か。分かった分かった、親切なオレが全部教えてやるよ。三珠はいいものだと思ったら大間違いだ。本当は……」

 口を開こうとするアレキサンダーに狷は銀色に光るやいばを放った。それを素手で受け止め、アレキサンダーは表情を消し去る。彼の手から滲んだ血が、ぽたりと床に落ちる。痛みなど全く気にしている様子を見せないアレキサンダーは、狷へ視線を投げてゆっくり首を傾げた。

「……何で止めんの? 話したところで何も変わらないでしょ。知られるのが怖い?」
「違う……貴様は間違っている。三珠の存在意義は貴様には分からない」
「間違ってるのはお前だよ、小林狷。お前は何も分かっちゃいない。魔法のことも、心のことも」
「……ッ!!」
「おっと」

 殴りかかる狷をひらりとかわして、アレキサンダーは笑う。

「だからさぁ、そんなんじゃ当たんないって」
「なら、これならどうだ……!」

 声を上げたのは鳳凰だった。鳳凰は後ろからアレキサンダーを羽交はがい締めにして、その動きを封じる。

「!」
「狷、行け!!」

 狷の手から銀色の液体があふれ、それは彼の手を覆う。鋼鉄の拳が、アレキサンダーの腹に叩き込まれた。——ように見えた。狷の拳はアレキサンダーの腹に届かなかった。その直前で狷の体がびきりと固まったのだ。

「……な、んだ」
「ざーんねん」

 口元だけでにい、とアレキサンダーが笑う。その瞬間、狷と鳳凰は吹き飛ばされて壁に激突した。ばさばさと本の山が崩れる。

「狷ちゃんっ、鳳凰!」
「おい、日和!!」

 日和はたまらず結界を解いて二人に駆け寄ろうとした。しかし見えない何かに体を縛られたような感覚を覚えて、日和は動けなくなる。

「……っ!?」
「動くなよ、そのまま」

 結界を解いてしまった。近付いてくるアレキサンダーに、思わず喉が引きる。

「っや……」
「三珠もーらい」

 アレキサンダーの手が日和に伸びる。ぎゅっと目を瞑る。その時——。

「日和に触るな……!!」

 狷の低い声が、空気を震わせた。
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