43 / 50
逃亡
第四十三話 嘘と誠、三珠の真実
しおりを挟む
「お前らが三珠持ってるんだよね? ほら、それ」
蹲る鳳凰の横に立ったまま、アレキサンダーが日和達の腕輪を指差す。日和は正影の周りにも結界を張り巡らせた。先程も、狷や鳳凰に結界を張ることができていたら。判断が遅かった。アレキサンダーは少し考える素振りを見せたものの、二人に向かって歩く。
「渡してくれる? ああそうだ、それ外れないんだっけ」
「お前みたいな胡散臭いやつに誰が渡すか……!」
正影は苦々しく言い放つ。
「世界の革新……? 今のままの世界じゃ何がいけないんだ」
「ああ、そうだなぁ。今のままじゃオレが勝てないからだよ。世界に……いや、時代に、かな」
「勝つ……?」
「そ。いつでもこの世の中で一番強いのは時代だ。弱者にならない為に今までオレは時代に従って生きてきた。機会を探りながらね。でもそれももう終わり。時代に勝つ方法を見つけたんだ」
「それが魔法や三珠を消すことか……?」
「んー、正解と言いたいところだけど、近くて遠いな。三珠も魔法もその途中に過ぎない」
そこまで言うと、アレキサンダーはにやりと口角を吊り下げて笑った。卑しい笑み。ぞわりと寒いものが背筋を這い上がる。
「両面宿儺。こいつを目覚めさせる。そうすれば世界を作り変えられる。それには三珠と鈴が必要なんだ」
「……!!」
アレキサンダーの言葉を聞いていた狷は、倒れたまま目を見開いた。
「何言ってるのかさっぱり分からないけど、お前が胡散臭いのはよく分かった。三珠は渡さない」
「はあ……お前らさ、三珠がそもそも何なのか知ってんの? それも知らないんだろ」
「……それ、は」
「やっぱりな。教えてやろうか、三珠の正体」
以前鳳凰達から説明を聞いた時は、三珠の中には世界を救った神が封印されていると言っていた。その三珠の封印が解かれれば、世界に魔法が解き放たれてしまう、と。……聞いていたのはそれだけだ。アレキサンダーは続ける。
「三珠はあるものを封印してる。神でも悪魔でもない、太古の『魔物』だ。両面宿儺を呼び出す為に必要なんだよね」
「え……?」
「其奴の言うことを信じるな……!」
狷が腹を押さえながら立ち上がり、声を振り絞る。狷には目もくれないまま、アレキサンダーは小さく吹き出した。
「っはは! 何で隠す必要があるんだ? お前が一番知ってるはずだよね? 三珠の本当の存在意義をさ」
「黙れ!」
「図星か。分かった分かった、親切なオレが全部教えてやるよ。三珠はいいものだと思ったら大間違いだ。本当は……」
口を開こうとするアレキサンダーに狷は銀色に光る刃を放った。それを素手で受け止め、アレキサンダーは表情を消し去る。彼の手から滲んだ血が、ぽたりと床に落ちる。痛みなど全く気にしている様子を見せないアレキサンダーは、狷へ視線を投げてゆっくり首を傾げた。
「……何で止めんの? 話したところで何も変わらないでしょ。知られるのが怖い?」
「違う……貴様は間違っている。三珠の存在意義は貴様には分からない」
「間違ってるのはお前だよ、小林狷。お前は何も分かっちゃいない。魔法のことも、心のことも」
「……ッ!!」
「おっと」
殴りかかる狷をひらりと躱して、アレキサンダーは笑う。
「だからさぁ、そんなんじゃ当たんないって」
「なら、これならどうだ……!」
声を上げたのは鳳凰だった。鳳凰は後ろからアレキサンダーを羽交い締めにして、その動きを封じる。
「!」
「狷、行け!!」
狷の手から銀色の液体が溢れ、それは彼の手を覆う。鋼鉄の拳が、アレキサンダーの腹に叩き込まれた。——ように見えた。狷の拳はアレキサンダーの腹に届かなかった。その直前で狷の体がびきりと固まったのだ。
「……な、んだ」
「ざーんねん」
口元だけでにい、とアレキサンダーが笑う。その瞬間、狷と鳳凰は吹き飛ばされて壁に激突した。ばさばさと本の山が崩れる。
「狷ちゃんっ、鳳凰!」
「おい、日和!!」
日和は堪らず結界を解いて二人に駆け寄ろうとした。しかし見えない何かに体を縛られたような感覚を覚えて、日和は動けなくなる。
「……っ!?」
「動くなよ、そのまま」
結界を解いてしまった。近付いてくるアレキサンダーに、思わず喉が引き攣る。
「っや……」
「三珠もーらい」
アレキサンダーの手が日和に伸びる。ぎゅっと目を瞑る。その時——。
「日和に触るな……!!」
狷の低い声が、空気を震わせた。
蹲る鳳凰の横に立ったまま、アレキサンダーが日和達の腕輪を指差す。日和は正影の周りにも結界を張り巡らせた。先程も、狷や鳳凰に結界を張ることができていたら。判断が遅かった。アレキサンダーは少し考える素振りを見せたものの、二人に向かって歩く。
「渡してくれる? ああそうだ、それ外れないんだっけ」
「お前みたいな胡散臭いやつに誰が渡すか……!」
正影は苦々しく言い放つ。
「世界の革新……? 今のままの世界じゃ何がいけないんだ」
「ああ、そうだなぁ。今のままじゃオレが勝てないからだよ。世界に……いや、時代に、かな」
「勝つ……?」
「そ。いつでもこの世の中で一番強いのは時代だ。弱者にならない為に今までオレは時代に従って生きてきた。機会を探りながらね。でもそれももう終わり。時代に勝つ方法を見つけたんだ」
「それが魔法や三珠を消すことか……?」
「んー、正解と言いたいところだけど、近くて遠いな。三珠も魔法もその途中に過ぎない」
そこまで言うと、アレキサンダーはにやりと口角を吊り下げて笑った。卑しい笑み。ぞわりと寒いものが背筋を這い上がる。
「両面宿儺。こいつを目覚めさせる。そうすれば世界を作り変えられる。それには三珠と鈴が必要なんだ」
「……!!」
アレキサンダーの言葉を聞いていた狷は、倒れたまま目を見開いた。
「何言ってるのかさっぱり分からないけど、お前が胡散臭いのはよく分かった。三珠は渡さない」
「はあ……お前らさ、三珠がそもそも何なのか知ってんの? それも知らないんだろ」
「……それ、は」
「やっぱりな。教えてやろうか、三珠の正体」
以前鳳凰達から説明を聞いた時は、三珠の中には世界を救った神が封印されていると言っていた。その三珠の封印が解かれれば、世界に魔法が解き放たれてしまう、と。……聞いていたのはそれだけだ。アレキサンダーは続ける。
「三珠はあるものを封印してる。神でも悪魔でもない、太古の『魔物』だ。両面宿儺を呼び出す為に必要なんだよね」
「え……?」
「其奴の言うことを信じるな……!」
狷が腹を押さえながら立ち上がり、声を振り絞る。狷には目もくれないまま、アレキサンダーは小さく吹き出した。
「っはは! 何で隠す必要があるんだ? お前が一番知ってるはずだよね? 三珠の本当の存在意義をさ」
「黙れ!」
「図星か。分かった分かった、親切なオレが全部教えてやるよ。三珠はいいものだと思ったら大間違いだ。本当は……」
口を開こうとするアレキサンダーに狷は銀色に光る刃を放った。それを素手で受け止め、アレキサンダーは表情を消し去る。彼の手から滲んだ血が、ぽたりと床に落ちる。痛みなど全く気にしている様子を見せないアレキサンダーは、狷へ視線を投げてゆっくり首を傾げた。
「……何で止めんの? 話したところで何も変わらないでしょ。知られるのが怖い?」
「違う……貴様は間違っている。三珠の存在意義は貴様には分からない」
「間違ってるのはお前だよ、小林狷。お前は何も分かっちゃいない。魔法のことも、心のことも」
「……ッ!!」
「おっと」
殴りかかる狷をひらりと躱して、アレキサンダーは笑う。
「だからさぁ、そんなんじゃ当たんないって」
「なら、これならどうだ……!」
声を上げたのは鳳凰だった。鳳凰は後ろからアレキサンダーを羽交い締めにして、その動きを封じる。
「!」
「狷、行け!!」
狷の手から銀色の液体が溢れ、それは彼の手を覆う。鋼鉄の拳が、アレキサンダーの腹に叩き込まれた。——ように見えた。狷の拳はアレキサンダーの腹に届かなかった。その直前で狷の体がびきりと固まったのだ。
「……な、んだ」
「ざーんねん」
口元だけでにい、とアレキサンダーが笑う。その瞬間、狷と鳳凰は吹き飛ばされて壁に激突した。ばさばさと本の山が崩れる。
「狷ちゃんっ、鳳凰!」
「おい、日和!!」
日和は堪らず結界を解いて二人に駆け寄ろうとした。しかし見えない何かに体を縛られたような感覚を覚えて、日和は動けなくなる。
「……っ!?」
「動くなよ、そのまま」
結界を解いてしまった。近付いてくるアレキサンダーに、思わず喉が引き攣る。
「っや……」
「三珠もーらい」
アレキサンダーの手が日和に伸びる。ぎゅっと目を瞑る。その時——。
「日和に触るな……!!」
狷の低い声が、空気を震わせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる