ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの

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父が退室した後、アーサーがすぐ外にいた護衛の人に何か声をかけると、少し離れたところから部屋を見張るように気配が遠ざかった。

いちおう部屋の扉は開いているけど、我が家の応接間にアーサーが座っていて、室内は2人きりという光景に落ち着かなくて、何を話したら良いのか分からない。
ついでに私の頭はまだ目の前の状況をうまく処理できていない。

ええと、今これって、何の時間だっけ…?

なんとかソファに腰を落ち着けて、紅茶を一口飲む。向かいに座るアーサーも目の前に置かれたカップを口に運んでいる。

よし、ひとまずアーサーが礼装で、馬車に乗って我が家を訪ねてきたところまでは把握しているはず。

「…それにしてもしばらくぶりだな。…今日は何をしに来たんだ?」

私はやっとのことで喉から声を絞り出す。
アーサーは口に含んだ紅茶を吹き出しそうになり、慌ててカップを置くと軽く咳き込む。

「コホッ…今のはひどいぞ!イヴ、さすがにこのタイミングで笑わせ…」

軽く握った手を口元に当て、少し涙目でいつものイタズラっぽい笑みを浮かべてこちらを見た。

しかし、からかう様子などない真剣そのものの私の顔を見て、その表情はふっと消える。

ふと引き締まった彼の眉目から、意識の奥で気持ちを整えるかのように集中したのが分かった。
彼は何度か瞳を瞬かせ、真っすぐな眼差しで私を見据えた。

「…今日は、君に婚約を申し込むためにここへ来たんだ。

イヴ、君は俺の番だ。

御父上からは許可を頂いている。

…君の気持を聞きたい。」

一言ずつ噛んで含めるようにアーサーが告げた。

…つが…い?
……これは、本当に縁談の話なの?それとも…また何かの冗談とか…?
だってそんなの…ありえないよ…

夢に見ることすら叶わなかった言葉が聞こえてきた。
嬉しいよりも先に言葉の意味に納得できず、私は胡乱げな視線を向けてしまう。アーサーが慌てて言葉を続けた。

「数年前、君が国境沿いの街に…うちの領地との境に遠征に来ていた時、初めて君の存在に気付いたんだ。そこから色々調べて君の名前と、第7騎士団で副団長をしていることを突き止めたよ。
俺は番が見つかったことがあまりに嬉しくて、早速、縁談を申し込んだけど、本人から即日断りの連絡が入ったと聞いてね。
これではいけないと思い直したんだ。」

「ぇ…

ぇえ!?そ、そっか、あの時の縁談って、アーサーからの!?」

驚きのあまり変な声が出てしまったけど、私には自分の振る舞いを振り返る余裕も無い。
アーサーは照れくさそうに頷き、瞳をそらすことなく話を続ける。

「あの時は君をよく知りもしないうちに先走って、手痛い結果に終わったよ。
でも大事な番だから諦められないし、何としても俺のもとに来てほしかった。
もちろん手段を選ばなければ、君の意志とは関係なく家同士で無理を通すこともできた。

でも、俺は君と心が通い合う関係になりたかったんだ。」
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