盲目の作家の苦難

しぎょく

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三章「第二の人生」

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間もなくして授賞式が始まった。
 テレビ取材が来ているのは分かっていた。
 きっと撮られているのだというのも分かった。
 今回の授賞式の目玉は私だという事を聞いた。
 何時までも性別を隠し通せるとは思っていなかった。
 読者のほとんどの人は私の事を女性だと思っていると思う。しかし私は筍爛という女性につけるような名前をペンネームとして使ってはいるけれど、性別を隠そうとは思っていなかった。だから筍爛が男だと言う事を、読者の人はショックだとは思うかも知れないけれど、知られても良いと思った。
 ただ、読者の人に一番知られたくないと思うのは、私が失明していると言う事。
 私が小説を書かなかった約二年の間、私は諸事情により執筆は一時中断されているということにされている。
 業界の人なら知っている人はそれなりにいるので、知られても問題はないとは思うけれど、読者の人には失望させたくなかった。
 カメラが回っているのは授賞されている間のみ。その他でも回ってはいるけれど、テレビではほとんど放送はされない。
 次々と受賞者の名前が呼ばれる。そして私の名前も呼ばれ、知らない女性に誘導してもらい壇上に上がった。
 壇上に誘導されるのは私一人ではない、授賞される人全員が誘導される。
 これは出版社の人の計らい。私一人だけ誘導されていたら目立つだろうということで全ての受賞者に人をつけることになった。
 誘導スタッフは、各出版社の女性社員。そういうところにもちゃん計らいをされていた。
 授賞式は無事に終わった。
 終わったけれど、解放はされない。
 私はこれからテレビ取材を受けなければならない事になっているらしく、当分解放されそうもなかった。
 記者の人も私の目が見ないことは知ってくれていて、質問してくる時も聞き取りやすいように喋ってくれた。
 沢山な事を質問されたけれど、一番触れてほしくないことは一切触れてこなかった。
 これも出版社の計らいだろう。
 感謝しなければならない。
 「テレビの前の読者の皆様、この度、私、小野筍爛の『絶望の闇と希望の光』を呼んでくださってまことにありがとうございます。このような賞を頂けたのは、沢山の読者の皆様のお陰です。本当にありがとうございます。これから先、皆様に喜んでもらえるよう、小説を書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします」
 記者に質問の最後にテレビを見てくれている読者の皆に一言言ってほしいと頼まれたので、少し長くなってしまったけれど、賞を貰う事が出来た感謝の気持ちを言った。
 すごく緊張した。
 もう、カメラに撮られていない事を教えられた瞬間、緊張が解けたけれど、まだ心臓がドキドキと脈を打っていた。
 「瞬さん、お疲れ様です。姉貴が今日は遅いからって言うことで、ホテルを取ってくれているみたいなのですが、どうしますか?」
 表彰式は夕方に行われたため、終わった時には夜も遅かった。
 今から家に帰るため車を走らせても、家に着くのは何時になるのか分からない。
 それなら、今日はホテルに泊まって、明日家に帰れば良いと思ったので、ホテルに泊まることにした。
 せっかく久しぶりに自分の住む場所から出てきたのだから色々な場所に行ってみたいと思い、ホテルに行く前に、あつしくんにお勧めの場所に連れて行ってもらった。
 目が見えない私でも楽しむ事が出来る場所だという事で、映画館に連れて行ってくれた。
 参考になるかも知れないということで、恋愛映画を見ることにした。
 海外の映画らしく、吹き替えではなく、字幕だった。
 幸い、英語はそれなりに聞き取る事が出来るので、英語が出来てよかったと思った。
 案外面白い映画だったのではないかと思う。
 映像は見ることが出来ないけれど、台詞から色々想像することができた。
 想像していた事で、次の作品のアイディアが浮かび上がった。
 前作はフィクションとしているけれど、実際自分の事を設定を変えて書いている。
 でも、浮かび上がったものは、実話を交えたものではなく、完全フィクション。
 悲しいものはもう書かない。明るくて、読む人が楽しめるような恋愛話を思い浮かんだ。
 「映画、面白かったね。さて、ホテルに行こうあつしくん」
 映画が始まるまで彼は気が付いていなかった。
 吹き替えを見るはずだったのに、間違って字幕のチケットを買ってしまったことで、しばらくの間凹んでいたけれど、私が英語を分かると知ると、どうにか凹むのを止めてくれた。
 何度か謝られたけれど、洋画を見るときは、吹き替えではなく、字幕のほうが自分で英語を日本語に訳す事が出来るので、別の楽しみ方があって面白いと思ったので、字幕でよかったと思う。
 「まだお勧めする場所あったのですが、もう、ホテルに行ってもいいのですか?」
 「うん、いいよ、行って」
 夜はこれからだと言うけれど、私はホテルに行って、思い浮かんだ小説のアイディアを書きたかった。
 「わかりました。では、ホテルに向かいますね」
 車を走らせて、私達は敦美さんが取ってくれたホテルに行った。
 私はホテルにつくなり、鞄の中から紙を取り出して、ペンを走らせた。
 やっぱり私は小説を書くことが好き。でも、今は小説を書く以上に好きなのがある。それはあつしくんと一緒にいること。あつしくんがいれば私は何でもできる。それを知ることが出来たのは全部あつしくんに出会ったからだった。
 「ありがとうあつしくん。そして大好きだよ」

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