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六幕 イヴ*3
しおりを挟む色んな感情が爆発して、アデラール様にキスをしてしまった。もちろん、触れるだけのものだったけれど、嫌がられなかったし、その後の告白も受け入れてもらうことができた。
蚊帳の外に置いていた殿下がわめき出したとき、今まで成り行きを見守るだけだった王様らしき人が、声を上げた。
静まり返る会場。
王様らしき人の傍らに立っている人は、青い顔でいつも僕の近くにいた一人を睨みつけている。
王様らしき人は、殿下をお城に強制送還させるよう兵士に指示を出していた。
そして僕たちには、この会場からの退場と、別の一室での待機が命じられた。
――――そして、今。
僕はアデラール様のお父君と兄君の前で『土下座』を披露している。
「今回の騒ぎの原因は僕にあります…!!でも、お願いです。僕がアデラール様を好きな気持ちに嘘偽りありません。全身全霊をかけてお守りして、一生幸せにすると誓います…!!だから、どうか、アデラール様との婚約及び結婚をお許しください…!!」
「い……イヴっ」
誠心誠意の謝罪と思いを伝えるためには、土下座が一番だと『僕』の記憶にある。
でも貴族として正しいかわからないから、後でアデラール様に聞こう。
土下座は土下座で、下げた頭を上げるタイミングが分からない。お父君と兄君からは、『いいよ』とも声がかからない。
それどころか――――
「アデル、可哀想に……!!辛い思いをしてたんだね。兄様に言ってくれればあんな下衆で頭の悪い王子なんかすぐに排除したのに…!」
「に、兄様」
「全く……っ。あのクソ王子がどうしてもと言うからアデルを嫁がせる決意をしたというのに……この仕打ちはあまりにも酷すぎやしませんか、陛下」
「いや、すまん。アデラールに刺激されてあれも真っ当になるかと思ったんだが……」
「アデルの可愛らしさに気づいたところまでは許しましょう?ですがね、なんですか、断罪って!奴隷印の準備までしていたそうじゃないですか!!なんですか、勉強はからっきしなのにそういう覚えなくてもいいことはしっかりと覚えるクソ王子は私達の可愛いアデルを奴隷にして弄ぶつもりだったんですかね!!!」
「いや、本当に済まない……」
「アデル、もう怖くないからな。兄様と公爵邸に帰ろう」
「アデルはもう結婚なんて考えなくていい。ずっと父様たちと公爵邸で過ごそうな?」
「アデラール、フランソワはもう一度教育し直す。お前の近くには寄らせぬから安心してくれ」
「というか、教養にも勉学にもうるさい学園があるでしょ、隣国に。全寮制の。そこに入れましょう。そして二度とアデルの前に現れるなっ」
「従兄殿、此度の件、もちろんアデルには一切非はないと発表してくれるんですよね?」
「ああ、もちろんだ」
「では早急にお願いします」
…………………………頭を上げれるわけがない。
父君と兄君のあとから部屋に入ってきた王様も加わって、もう何がなんだかごちゃごちゃだ。
そして土下座したままの僕のことなんて、誰も気にしてくれない。
……そりゃ、そもそもの原因は僕だから、いい感情を持たれてないことくらいわかるけど……、ここまで見事に無視されると、僕だって泣きたくなる。
「アデル、何も憂うことはないからな。さあ帰ろう」
お父君がアデラール様を促す声がする。
え、本気で僕のこと無視?
なんのコメントもなく終わっちゃうの?
「っ、父様っ、僕はまだ帰りません!!」
僕のすぐ近くでアデラール様が叫んだ。
一斉に僕(達)に視線が向けられるのを感じる。
「イヴを無視しないでください!イヴがこんなに頭を下げてるのに……父様も兄様も、何一つ話を聞かないだなんてっ」
「だけどね、アデル。そこのピンク髪のせいでアデルはあんな目にあったんだよ?……ああ、もちろん、婚約解消のきっかけをくれたってところは評価するけども」
「あのバカ王子のところに嫁がなくてよくなったことで、ある意味アデルのことを幸せにできていると思うから、これ以上は出しゃばらなくていいと思うよ」
お父君と兄君からの言葉は辛辣この上なかった。彼らの中で僕は邪魔などうでもいい存在になってる。
どうしよう。
どうしたら。
もう僕は昨日までの僕に戻らない。ちゃんと考えろ。アデラール様だって僕が好きと言ってくれたんだから。このまま認められずに終わるわけに行かないんだ。
でも突破口がわからない――――
「イヴ、頭を上げて」
ぐるぐる頭の中が大混乱してると、優しいアデラール様の声が耳元で響いた。
「アデラール様……」
「僕だってイヴを幸せにしたいよ?」
だから任せて
アデラール様は、思わず見とれてしまうような笑顔を僕に向けて頷いた。
それからすぐに大人たち三人に向き直る。
「僕、イヴと駆け落ちします」
「「「「は!?」」」」
……ナンテコトヲ。
三人だけじゃなくて、僕の声まで被ってしまった。
「僕はイヴに危害を加えられたわけじゃないですし、むしろ、イヴは殿下が用意していた奴隷印に気づいて僕を助けてくれました。助けられたから好きになったわけじゃないです。ふわふわ笑うイヴがずっと好きでした。でも、僕は殿下の婚約者でしたから、自分の気持ちや希望を表に出すことができなかった。でも、その婚約はなかったことになって、僕はようやく自分の気持ちに素直になっていいんだと思ったんです。……なのに、父様も、兄様も、おじ様までも、話も聞いてくれないし、僕の気持ちをわかってくれない」
「あ、アデル」
「だから、僕はイヴと駆け落ちします!!自分の幸せはイヴと自分でつかみ取ります!」
「アデラール様……」
「ね、イヴは僕と駆け落ちしてくれる?僕だけのイヴになってくれる?」
「もちろんです…!!絶対絶対幸せにします……!!」
……駆け落ちって、堂々と宣言するものだったかしら?とは思いながらも、アデラール様からの『求婚』(で間違ってないはず!)を断るなんてあり得ない。
アデラール様の笑顔。
この笑顔が手に入るなら、僕はなんだってできる。
………と、思う。
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