【完結】『悪役令息』らしい『僕』が目覚めたときには断罪劇が始まってました。え、でも、こんな展開になるなんて思いもしなかった……なぁ?

ゆずは

文字の大きさ
8 / 12

八幕 アデラール*5

しおりを挟む




「駄目だよ。王様のところに行こう。……ああ、でも、着替えが先?お風呂にも入ったほうがいいかな」
「……必要ないから」

 なんで、って顔をしたと思う。
 まあ、服はいいとしても、汚れは落としたほうがいいよね。ブーツだって結構汚れてるんだ。
 僕がそれを指摘しようとしたとき、イヴは僕の耳元に口を寄せてきて、『浄化』って一言、言葉にした。

「あ」

 それは魔力を載せた言葉――魔法になっていて、ふわりと温かなものに包まれたかと思えば一瞬で綺麗に汚れが落ちていた。
 くすんでいたピンクゴールドも本来の色艶を取り戻しているし、服やマント、ブーツまでも、埃も泥汚れも綺麗に落ちてるし。

「すご……」

 こんなにあっさりと魔法を使うなんて。
 しかも発動がたった一言。
 しかもしかも、こんな魔法知らない。

「イヴ」
「アデラール様と離れたくない」

 ようやく僕を床におろしたイヴ。
 あ、よかった。
 なんだかんだで兆してたものは平常に戻ってる。

「一緒に行こうか?」
「うん」

 僕だってイヴと離れたくない。
 執務室から僕と同じように出てきて固まってた同僚に、このまま謁見の間まで行くことを伝えた。それから、兵士の一人に、SSランク冒険者であるイヴ・ワーグナーが来城したこと、これから謁見に向かうことを王様側に伝えてもらうことにする。
 僕から伝言を指示された兵士は、SSランク冒険者と聞いて顔を青ざめさせて、ペコペコと頭を下げて早足でこの場から逃げ出すように去っていった。

「行こっか」
「うん」

 大きな、少しゴツゴツしたイヴの手を握る。すぐにもぞもぞ動いて指を絡めるように繋ぎ直された。

 謁見の間に着くまで、色んな話をした。
 歩みはゆっくり。
 半年で信じられないくらい成長したね、とか。魔獣討伐の話とか。他国の遺跡を見つけて踏破したこととか。
 手紙に書かれていて知っていたことから、知らなかったことまで、色んな話を。

「一日でも早くわかりやすい実績も功績も欲しかったんです。でも、貴族は色んなものに縛られると思ったから、自由にできる冒険者になることに躊躇いはなくて」
「うん」
「SSランクまで行けば絶対反対されないと思ったから……とにかく我武者羅に頑張ったんです」

 半年もかかっちゃいましたけど……って苦笑するイヴ。
 ……多分、他の人なら半年で最高位ランクまで上がるなんてこと、できなかったよ。

 謁見の間の前で僕は待つつもりだったけど、イヴが手を離してくれなかったから、僕も一緒に謁見の間に入ることになってしまった。
 壁に近いところに近衛騎士が並ぶ。
 部屋の奥側には上位貴族の面々。
 二段ほど上の壇には、玉座に座る王様。
 その隣に、宰相様と王太子殿下。
 ……それから、一段下がったところに、何故か何故か、僕の父様と兄様が……。何故。

 謁見自体は特に問題なく進んだ。
 王様からの最高位ランクに登りつめたことに対する労いや言祝が贈られた。更にワーグナー男爵は子爵への陞爵となることが告げられた。それからイヴ自身にも叙爵の話がされたけれど、イヴはそれに対しては保留と答えた。実家への恩賞としての陞爵はいいみたいたけど。

「叙爵なんかより、お願いがあります」

 ざわりと、周りがざわめく。
 わかる。
 叙爵を『なんか』呼ばわりしちゃ駄目だよ、イヴ……。

「願いとは」

 イヴは何も気にせず、握っていた僕の手を改めて強く握りしめる。

「アデラール・セドラン様との結婚を許してください」

 それ、この場で言う事?
 でもこの場で口にすることで、他の貴族たちにも周知できる。イヴはそれを狙った…?
 王様とうちの父様と兄様はお互いに見合って頷いた。

「私が提示した『条件』はクリアできている。アデルの気持ちも変わってないようだし、約束通り二人の婚約を――――」
「いえ。婚約ではなく、結婚します」
「イヴ…っ」

 貴族の結婚とは、平民のものとは違う。
 婚約をして、両家で話し合い、色々を決め合って、衣装を手配して、結婚式の日取りを決めて、招待状を送って……と、とにかく色んな手順があるから、必ず必要な婚約期間。その間に心変わりする可能性もあるからね。

「そんなことは……っ」

 焦る父様。
 でもイヴはもう前を向いていなかった。

「アデラール様。僕と結婚してください」
「イヴ…っ」

 イヴは繋いでいた手を離して、改めて僕の左手をとって、指先にキスを落とした。
 それから、イヴの瞳色のような赤みがかった紫の宝石をあしらった指輪をどこからともなく取り出し、僕の左の薬指に滑り込ませる。

「『定着』」
「!」

 その魔法言葉で、少し大きかった指輪が僕の指に合う大きさに変わった。

「アデラール様」

 そして、僕の手の中には、薄い青色の宝石があしらわれた指輪が。

「お願いします」

 ゴクン…と、喉が鳴る。
 僕はそれを少し震える指で持ち上げて、イヴの左手を取った。
 僕より太い指に、その指輪を嵌めていく。
 神様の前じゃなくて、王様たちの前で指輪の交換。

「絶対幸せにします。何より誰より大切にします。愛してます、アデラール様」
「……っ、ぼ、くもっ、イヴのこと、愛してる……っ」

 ぽろぽろと涙が落ちていく。
 イヴはその涙を唇で拭うと、鼻の頭にちょんとキスを落としてから、僕の唇に唇を触れ合わせた。
 それはまるで誓いのキスのよう。
 そっと触れるだけのやさしいキス。
 唇が離れると、目元を赤く染めたイヴが微笑みながら僕を見る。
 そしてもう一度、僕の左手を取って、指輪に口付けた。

「これで、僕たちは夫婦ですよね?」

 イヴは僕を片腕に抱き上げながら、王様と父様たちに言った。

「そ、うだな。あとは神殿で――――」
「それなら、もうは終わりましたよね」
「……ん?」
「これからは夫婦の時間ですから」
「「は!?」」
「え、イヴ」

 慌てたのは王様たちだけじゃない。
 僕も、だ。

 イヴは僕ににこりと微笑みかけると、耳元で「行きましょう」って言った。

『転移』

 その瞬間。
 ざわめき慌ただしくなった謁見の間から、ふかふかのベッドの上に移動してた。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...