僕は伯爵様の抱きまくら………だったはず?

ゆずは

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本編

僕は抱きまくらです。…この度永久就職いたしました

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 僕はファビ様のお膝の上で、横向きに座らされて、大きな温かい手で涙を拭われる。

「食事を続けよう」
「はい」

 僕用のサンドイッチは小さいから、ファビ様なら一口で食べてしまう。けど、ファビ様は、具が一番多いところを僕に齧らせて、残りを自分の口に放り込んでた。

「兄上の伴侶になっても、家のこととか領地のこととかは気にしなくていいからね?」
「?」

 突然ラウドリアス様に言われたことに、首を傾げてしまった。
 そんな僕を見て、ラウドリアス様は楽しそうに笑う。

「当主の妻には家内の取り仕切りとか、領地経営の手伝いとか、色々な仕事があるんだよ」
「え」

 ど、どうしよう。
 僕、そんなこと何にもできない。

「だから、気にしなくていいって言ったでしょ?」

 僕が目に見えて落ち込んだからか、ラウドリアス様はまた笑うと、そう言ってくれた。

「跡取りも気にしなくていい。アーデルグレイス家の跡取りは、私達の子になるから」
「………」

 そうだ。跡取り。伯爵家なのだから、跡取りになる子供がいなければならなかったんだ。

「う……」

 僕はどうやっても子供を産めない。

「僕……捨てられますか……?」
「なぜそうなる」
「シュリはもう少しちゃんと私達の話を聞こうね?」

 二人から頭を撫でられてしまった。

「もう一度言うけど、兄上が婚姻されたから、私もそろそろ婚約者と婚姻してこの家に住みたいんだよ。彼女はシュリのことも知ってる。とっても可愛がってくれると思うよ?」
「……ラウドリアス様のご婚約者様……」

 何度か会ったことがある。
 お屋敷に来るときには美味しい甘いお菓子をお土産にくれた。

「だから、跡取りとか、領地のこととか、家のこととか、何も心配しないで」
「あ、あの、じゃあ、僕は何を……」

 今までのような侍従の仕事をしたらいいんだろうか。
 ファビ様は仕事に行くのに、僕は昼間、何もしないでたった一人でこのお部屋にいることになるの…?

「抱きまくらだろ?」
「え?」
「シュリは私だけの抱きまくらだろ?」
「えと…、はい」
「正直、その『抱きまくら』っていうのはどうかと思うんだけど…、兄上にシュリが必要なのは確かなことなんだよ」

 抱きまくら……は、いいんだけど。
 必要って言われたから嬉しい。

「兄上は、シュリがいないと寝ないんだ。この家にも帰ってこない。王城の魔術師団詰め所で延々と魔術の研究をしていて、寝不足で同僚の人たちが何人も倒れてしまうんだ。それで、国王陛下に怒られてようやく家に帰ってくるんだよ」
「……へ?」
「シュリが来るまで本当にあった話し」
「一週間や二週間、寝なくても問題ないだろ」
「それは兄上の話でしょ。周りはそんなことしたら死人が続出するからね?」
「……ファビ様……」
「ん?どうした?」
「……僕、一日でも眠れなかったら、きっと死んじゃいます……」
「……!それはだめだ…!!シュリ、今からでも寝るか?眠れないなら私が魔法で……!」
「あ、いえ、今は大丈夫です…!で、でも、僕はちゃんとファビ様にも寝てもらいたいから……」
「シュリ…!」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、苦しいけど嬉しい。

「まあ、そんなわけで、シュリがうちに来てから、魔術師団の方々からも感謝の言葉をもらってるんだ。あの部署は兄上のせいで働きすぎのところだったから。ちなみに、国王陛下からも感謝の言葉と、秘密だけどお菓子を頂いてるんだよ。……本当に兄上はあちこちに迷惑しかかけない魔術バカだったからね……」
「失礼だな。私の研究があってこそ、この国は今平和なんだろう」
「だから、シュリがこの魔術バカな兄上の抱きまくらをしてくれるのは、とてもいいことなんだ。国のためと言ってもいいくらい。なんなら、国王陛下から『抱きまくら』の称号を頂けるよ?」

 ……ちょっと、話についていけない……、かな?
 でもわかることは一つだけあった。

「僕はずっとファビ様の抱きまくらです」

 堂々と宣言した。
 そしたら、何故か二人から苦笑が漏れてくる。

「シュリ」
「ファビ様…?」
「シュリは抱きまくらの前に私の唯一の伴侶だからね?愛しい人だからね?」
「あ……」
「愛してるよ、シュリ」
「ファビ様……」

 キスが、降ってきた。
 嬉しい。
 大好き、ファビ様。





 ラウドリアス様からは、今後絶対、毛布やシーツだけで屋敷内を走り回らないこと……って、言いつけられた。
 ファビ様のお仕事が気になったけど、昨日から一週間の婚姻休暇を取っていたらしい。……昨日から。僕の旦那様はとても気が早いというか……、なんというか。
 ファビ様は神殿に行ったとき、婚姻式の予定も立ててきたらしい。……それが三日後って聞いて、ラウドリアス様が激怒して呆れ返っていた。
 ワタワタと準備をして件の三日後。
 僕はファビ様と、大勢の人から祝福された。突然のことだったのに沢山の人が集まってくれて、僕は嬉しくて泣いてしまった。

 それから数日間、僕はほとんどベッドからでれなかった。
 一週間の休暇が終わってからも、ファビ様は朝ぎりぎりまで僕のそばにいて、お昼になると一旦帰ってきて僕とお昼ごはんを食べて、夜はとても早い時間で帰ってきた。
 僕は毎日、僕にしかできないことをする。
 だから今夜も、ファビ様の腕の中で、幸福を感じながら微睡む。
 大好き。
 とっても大好き。
 僕はずっとファビ様の抱きまくらですからね。
 ファビ様も、僕を手放さないでくださいね。










(おわり)











*****
お付き合いありがとうございました!
続きを希望してくださった方々、有難うございました^^
シュリが可愛かったです……ひたすら(笑)
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