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番外編
私の可愛い義弟
しおりを挟む二日連続で私の家族の一人になるはずの可愛いシュリちゃんが、裸同然の格好でお屋敷の中を駆け抜けた。
正式にファビラウス様の伴侶になったはずなのに、一体何が起きてるんでしょう。
疑問に思いながら、情愛の余韻がバッチリ残ったシュリちゃんの体にシャワーをかけた。
こんなに真っ白で華奢な体なのに、胸と言わず背中と言わず、何かの病気を疑いたくなるほどの所有印がつけられている。
「お尻も洗うから。動かないでね?」
「はい…」
我慢するようにきゅっと目を閉じる姿も可愛い。
お尻の中まで指を入れて洗うことに躊躇いがないわけではないけれど、私の義兄となる方は容赦なく子種をこの華奢な体に注いでいるようだから、しっかり洗わないと私の可愛いシュリちゃんが体調を崩してしまうかもしれない。そんなのは絶対に嫌だわ。
「今日もおくすりを塗るわね」
「うん…」
……それにしても。
シュリちゃんには何度も会っているのに、意外と気づかれないものなのね。
入浴を終わらせてぼうっとしてるシュリちゃんに服を着せていく。
そう、このレースやフリルがシュリちゃんにはよく似合うのよ。
そして準備が終わったシュリちゃんを執事に託した。
その後は浴室を綺麗に片付ける。
メイド服を直して髪型も直して、他のメイドたちがいる場所へ赴いて、自然と溶け込むように今日の仕事に加わる。
「もうシュリ様って呼ばないと駄目なのね」
「ちょこちょこしてて可愛かったのにね」
裏側を見ておくのは大事なこと。
仕事を把握しないと仕事の指示は出せないもの。
それからまた少しメイドに紛れて仕事をして、ごく自然にその輪を離れる。
入った部屋で結い纏めていた髪を一旦解いてる間に、部屋主が戻ってきた。
「ドリー」
「クララ」
少し驚いて、でもすぐに破顔したラウドリアス。
「またそんな格好して。君がここに嫁いできたら屋敷の者たちが全員腰を抜かしてしまうよ」
「あら。でもシュリちゃんは全然気づいてくれないわ。来るたびにお菓子を持ってきたのに」
クラリッサ・ハイゼ。
ハイゼ子爵家の長女で、アーデルグレイス伯爵家次男ラウドリアス様の婚約者。――――それが私。
「その可愛いシュリちゃんが、あんな裸同然の格好でお屋敷の中を走り回るなんて……」
「あー……うん。それね」
「義兄上様は甲斐性なしなのかしら」
「うん。私も見かねて、さっき二人が婚姻届書にサインしたのをしっかり見届けてきたところだよ」
「今日?昨日ではなくて?」
「そう。本当に兄上には困ったよ。シュリははっきり言っても変な方向に納得してしまうのに、誤解を生むような言葉でシュリに伝えるものだから……」
「あー……それでシュリちゃん、昨日は自分が『奥様』だってことを理解してなかったのね?義兄上様がぼかした言い方とか婉曲な言葉を使って、シュリちゃんがそれを誤解したまま理解してしまったのね」
「うん。……あ、クララごめん。そろそろ戻らないと。シュリが目を覚ましてるかもしれない」
「シュリちゃん、何かあったの?」
「いや、しっかりと兄上の伴侶になることを教えて、正式に婚姻届書に名前も書いたら、安心したのか緊張したのか気を失っちゃって今寝てるんだ」
「義兄上様がついていらっしゃるんじゃないの?」
「兄上は今、王都の神殿に婚姻届を出しに行ってるから」
「あ、なるほど……」
魔術に長けたあの方だから可能なことね。
「ふふ…。じゃあ、私達の可愛い義弟のために早く戻ってあげて?目を覚ましたときに誰もいなかったら不安になるでしょ?」
「うん。クララはもう帰るのかな」
「ええ。…今度『クラリッサ』として遊びに来るわ」
「待ってる。兄上たちのことが片付いたら私達の番だからね」
「それもわかってる。楽しみなのよ、私」
ふふ…と笑って、軽く抱擁し合う。羽根のように触れて離れた唇は、とても熱くて柔らかかった。
「愛してるよ、クララ」
「私もよ、ドリー」
早く嫁いできたいわ。
ドリーと別れの挨拶をして、こっそりとお屋敷を抜け出し、いつものように執事が用意してくれていた馬車に乗り込む。
嫁いできたらあの可愛いシュリちゃんと毎日でもお茶ができる。
…でも、義姉の私にお尻の中まで洗われてたと知ったら、シュリちゃん、恥ずかしすぎて私と会ってくれにくなるかしら?
……あら。
もしかして。
ファビラウス様と婚姻するのだから、義弟ではなく義兄になる……?
あらあら。どうしましょう。
……でも、まあ……いいですよね。あの子は私達の可愛い義弟。うん。それで行きましょう。
*****
メイドに化けてる弟の婚約者。
執事さんは全て知ってます。
弟も知ってます。
兄……シュリのことにしか興味ないので知りません。
シュリは当然気づいてません…(笑)
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