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なんで僕が王族の皆様に囲まれているんだろう
しおりを挟む今、僕の目の前には、少女のように微笑む王妃様と、艷やかな黒髪の王弟妃の彼と、……何故か、先王様がいらっしゃる。
僕の後ろには不動のミア。他にも豊穣の国の騎士が数名。
……なんで?
昨夜は到着したばかりということで、夕餉に招かれたけれど国王陛下ご夫妻と、ハリーと僕の四名だけの席だった。
今夜改めて晩餐会が予定されているらしい。
ミアが省かれてることに少し苛立ちはあったけど、これは仕方ない。ミアはあくまでも護衛騎士だから。
でも夜は、ミアは僕と一緒にいてくれた。ハリーのところにつけられた侍女さんが、僕の支度の手伝いとかを申し出てくれたけど、ミアがいるからって断ったら、とてもとても不思議そうな顔をされた。
……僕、ハリーの婚約者とか思われてるような気がする。だとしたら、ずっとミアを傍につけている僕の不貞が疑われそうだけど……、そんな事実はないから堂々としてることにした。
昨日は到着した喜びと気疲れで変な気分の高揚感があったけれど、ミアにもたれながら丁度いい温度の柑橘の匂いがするお湯に浸かってる間に、寝てしまったらしい。ミアともハリーとも、シた記憶がない。
…けど、今朝目が覚めたとき、何故かミアとハリーに挟まれて寝てたんだけど…。僕が寝ちゃったあと、何があったんだろう…?
そして今日は、朝からハリーは学院に行っている。お昼も向こうで摂るらしく、戻ってくるのはお茶の時間頃だと言っていた。
なので、おまけでくっついてきた僕は自由時間。だから、可能な限りお城の中を見て回ろうと思っていたら、お茶のお誘いが来たので、なんとなく了承した。ミアはずっと僕のそばにいてくれるし、なにかしでかすことはないだろう、と。
案内されるままお城の中を進む。
陽の光が十分取り込めるように作られた窓に、その光を集めて広げるクリスタルのような飾り。お城の中がキラキラしてとても綺麗だった。
連れて行かれたのは、中庭らしき場所。
出入り口には濃緑の軍服を着た騎士が二名。
促されるまま庭園の中を進むと、赤色の軍服を着た騎士が二名と、濃紺の軍服の騎士も二名いた。
彼らが守る中心には、白いテーブルを囲んで、王妃様と王弟妃様が談笑されていた。
「お招きいただきまして、ありがとうございます」
当たり障りのない挨拶をして、促された席に腰掛けると、昨日部屋に案内してくれた侍女の人が、僕の前に紅茶を出してくれた。
「急にごめんなさいね。ハインリヒ殿下はお忙しそうだから、貴方が寂しいんじゃないかと思って」
「お心遣い感謝いたします」
僕としてはこんな間近にハルのような彼を見ることができて、眼福以外ないからいい。
「あんまりかしこまらなくていいよ。俺、全然そうい振る舞い覚えられないし」
という割に、カップを持ち上げる仕草も、椅子に座る姿も、口にお菓子を運ぶ手付きも、全部洗練されてるように見える。
……もしかして、僕の目にはハル効果でも付いてるんだろうか。目の前でハルが笑って飲食してる姿にしか映らない。
なんて幸せな空間なんだろう……ってほわほわしていたら、騎士の動きが少し変わった。
「邪魔してもいいかい」
……と、老齢というにはまだ精悍な、男性がこの庭園にやってきて。
「「お義父様」」
と、王妃様と王弟妃様の声が、この方が先王陛下だということを僕に知らせてきた。
うん。ほんと。
僕はクリフトとハルの足跡を求めて来ただけなんだけど。
なんで王族の人たちに囲まれてるんだろう……?
緊張しすぎて何もできないか?……まあ、それはなかった。なんていうか、みんな、気さくな人たちなんだよ……。国でやる貴族が集まったお茶会よりも、何一つ気疲れしない。いい人たちばかりだ…。
お茶を用意してくれる侍女さんも、手際がいいし、お茶も美味しい。指でつまめるお菓子も食べやすくていい。
「…ん?」
僕がほんわかしていたら、先王様が入り口の方に視線を向けた。
なんだろう…と僕も視線を向けたら、幼い子が二人、手を繋いでやってきた。
「じぃじ」
「来たのか」
……一気に先王様の顔が溶けた。
王妃様と王弟妃様からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
その子達は第一王子と、王弟殿下の息女、らしい。
辿々しい仕草で僕に挨拶をしてくれたのは、三歳か四歳くらいの王子様。それからしっかりとカーテシーをしたのは、王弟殿下の息女様。
……確か、息女様は養女だと聞いたはずだけど、随分と王弟妃様に似てるような……気がする。
僕も立ち上がって二人にしっかり挨拶をすると、二人とも嬉しそうに笑ってくれた。うん。可愛いなぁ。
「すまないが、先に失礼するよ」
先王様は二人に手を引かれて、席を立った。
あー……とっても孫に甘いおじいちゃんの顔してますね。
彼らを見送ってから、また会話を再開させた。
「あら、ハインリヒ殿下の婚約者ではないの?」
「はい。仲良くさせていただいてますが、ハリー………ハインリヒ殿下には婚姻を望んでる方もいらっしゃいますし」
「うーん?」
お二人とも首を傾げてしまった。
……ハリー、僕のことなんて説明したんだよ……。
「あ、あの、不躾で申し訳ありませんが、こちらに『アリサ』という侍女の方か、勤めてる方はいらっしゃいませんか?」
「アリサ…?」
王妃様には心当たりがないらしい。
「……『アリサ』」
けど、王弟妃様の視線は泳いで、給仕をしてる侍女の人にその視線が止まった。
「……いませんね。……一応」
一応ってなに?
はて?と思いながら侍女の人を見たら、目があってとってもニッコリと微笑まれた。
「ところで、その人はどういう人?」
王弟妃様の少し困ったような顔。
なんか秘密にしなきゃならないことだったんだろうか。
「あの……、僕が好きな書物の作者がその『アリサ』という方で……、もしかしたらこのお城にいる方なんじゃないかと……」
「あ~~~~~」
あれか……って、王弟妃様が小さく小さく呟いたことを、僕は聞き逃さなかった。
え、知ってる?王弟妃様、あの書物のこと知ってるの?
「あの」
「あ」
僕が声を出したのと、王弟妃様がなにかに気づいたのがほぼ同時だった。
「迎えきた」
「あら。ではそろそろお開きね」
王妃様はくすくす笑う。
迎え……って他の人は誰も来てない……って思ったら、それが間違いだとすぐにわかった。
庭園に、国王陛下と王弟殿下が、連れ立ってやってきた。
僕が慌てて立ち上がって礼の姿勢を取ると、「楽にしていい」とすぐに声をかけられて顔を上げた。
国王陛下は王妃様に。
王弟殿下は王弟妃様に。
それぞれ手を伸ばして腰を抱く。
なんとも、仲睦まじい姿だった。
愛し愛される二人の姿。
幸せそうな、表情。
そして、王弟殿下は王弟妃様を抱き上げて、顔中に口付けを落とした。
『クリフト殿下……やめてっ、人に見られる……っ』
『見せつければいいだろう。ハル、お前は俺だけのものだ』
一瞬にしてそんな台詞が頭の中を駆け巡って、僕は思わず口と鼻を手で覆ってた。
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