【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
41 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

40 その存在を失うことはない ◆クリストフ

しおりを挟む



 翌朝、アキの熱はかなり下がっていた。
 抱きしめて眠ったためか、昨日のような冷たさは感じない。
 けれど、まだ意識ははっきりとしない。

 桶の水を替えようかと、シャツを羽織り外に出ると、まだ日が登りきらない早朝だというのに、オットーとザイルがいた。

「殿下」
「おはようございます」
「私が桶の水を替えてきます」
「殿下はここに座ってください。包帯を換えます」
「あ、ああ」

 連携がいいな、こいつら。
 オットーが包帯を解き、傷の具合を確認していった。

「…殿下、今日はまだ激しく動かないでください。剣を振るうと腹部の傷が開きそうです」
「…わかった」

 そうして、また器用に包帯を巻いていく。
 シャツを羽織り直した頃に、ザイルが戻ってきた。

「新しい果実水も用意しました。天幕の中に運んでもよろしいですか?」
「……頼む」

 ザイルは笑って頷くと、天幕の方へと向かっていった。

「朝食の準備が整い次第お持ちします。殿下はもう少しお休みください」
「…そうする。ありがとう、オットー」
「はい」

 どこかほっとしたような顔で、オットーは頷いた。多分、昨日から心配ばかりかけているのだろう。
 天幕に向かう途中でザイルともすれ違った。手には昨日の果実水の入った水差しを持っている。

「殿下、何か必要なものがあればすぐお声掛けください」
「ああ。ありがとう、ザイル」

 そのまま天幕の中に入った。
 机の上は片付けられ、タオルも新しいものが置かれている。
 果実水をグラスに注ぎ、飲み干した。

「アキ」

 頬に口づけ額を合わせる。
 まだ、少し熱が高い。

「…俺は、周りに恵まれすぎているようだ」

 果実水をグラスに注ぎ直し、一口、口に含む。
 そのままアキに口づけ、ゆっくりと、流し込んだ。
 アキの喉が鳴る。
 舌を絡めても、応えることは、まだ、なくて。

「はやく…戻っておいで、アキ」

 そうして昨夜と同じく、アキを抱き寄せながらベッドに横になる。
 アキの体の暖かさを感じながら、再び眠りについた。




 王都からの馬車は太陽が中天に差し掛かる前に到着した。
 そこから慌ただしく撤収作業が開始される。
 馬車に乗るのは、俺とアキ、兄上だ。

 移動のために抱き上げたとき、薄っすらと瞳が開いた。

「……くり、す」
「っ、アキ」

 それまでは力もなく動かなかった手が、俺の胸元に添えられる。力はまだ入らないようで、服は掴めず震えてはいた。

「………っ」

 アキの意識が戻った…!!
 まだ完全でなくても、俺の名を呼んでくれた…!!

「アキ……アキっ」

 抱きかかえたまま、口づけた。舌を差し込めば、確かに反応がある。

「ん…ちょ、っと、ま、って」
「ああ、すまない」

 アキは頬を赤らめ、首を横に振る。

「……いや、じゃ、なく、て、なんか」
「無理に話さなくていい。これから王都に馬車で向かう。果実水は飲めそうか?」

 アキは小さく頷いた。

「わかった」

 そのまま天幕を出た。

「オットー、馬車の中に果実水と果物を用意してくれ!」

 そう声をかければ、瞬時に状況を理解してくれる。
 馬車まで移動すれば、兄上が俺たちのもとに駆け寄ってきた。

「アキの意識が戻った」
「!…そうか。よかった…っ」

 腕の中のアキは目を彷徨わせてから俺を見る。状況が飲み込めていないのだろう。
 馬車に乗り込むと、片方の座席にはクッションが多めに置かれていた。普段見かけない毛布まで積んである。

「横になるか?」

 そしたら首を横に振る。

「くりすが、いい」
「わかった」

 座席に腰掛け、足の上に横向きに座らせた。背中を預けられるように、クッションをいくつかアキの背中に置く。

「…くりす」

 頬に手が伸びてきた。震える指先が、傷を辿る。

「…なん、で?」
「全部、話す。聞いてくれ」

 ゆっくりと、昨日の出来事を伝えた。
 ヘルハウンドを倒したあと、魔力暴走が起きたこと、そこから意識をなくしていたこと。
 それを聞きながら、頬の傷を悲しそうに辿る。

「…ごめん、なさい、これ、おれの」
「アキのせいじゃない。急ぎすぎた俺が悪い」

 アキの頭を胸元に引き寄せた。

「…目覚めてくれて、ありがとう…アキ」
「…くりす」

 アキが顔を上げる。それから、静かに目を閉じる。俺は、強請られたものを、渡すだけだ。

「ん………っ」

 唇を重ねる。
 最初は触れるだけの口づけを。
 だがすぐに深く絡み合う口づけへと変わる。何度も、角度を変えながら。
 オットーたちが用意したバスケットを持った兄上が、馬車に乗りんでくるまでずっと続けていた。

「……私、馬で行こうか?」

 っていう兄上の言葉に、アキは真っ赤になって首を横に振った。俺は、苦笑するしかない。
 兄上が座席につくと、馬車が動き始めた。振動はそれほど大きくはない。

「私に遠慮しなくていいから、好きなだけクリストフに甘えるといいよ、アキラ」

 そう言われて、アキは俺を見上げ、また、顔を赤くする。
 その様子を兄上は楽しそうに見ながら、バスケットの中から水差しを取り出しグラスに注いでくれた。

「クリストフ」
「すまない」

 それを受け取り、アキの手元に持っていく。

「持てるか?」

 手はまだ震えている。
 それでも両手で支え、何とかグラスを口元まで運んだ。

「……おいしい」

 ゆっくり、ゆっくり飲みこみ、半分くらい飲んだところで手をおろした。こぼさないようにそのグラスはすぐに受け取る。
 アキは息をつくと、頭を俺の胸元によりかからせてきた。

「眠れ」
「……ん」

 アキの体を抱え直す。右手で毛布を取り体にかけると、すぐに寝息が聞こえてきた。

「一安心、だね」
「…ああ」

 僅かに馬車の揺れが大きくなる。
 速度を上げたのか。それでも馬を駆るより遅いのは仕方のないこと。

「流石に日没までにはつかないなぁ…。まあ、夜中にならないだけましかもしれない」
「王都近郊であれば、日が落ちてから走り続けても問題はないだろう」
「そうだね」

 ふと、アキが薄っすらと目を開いた。俺のことを確認すると、口元に笑みを浮かべまた目を閉じる。
 またすぐに寝息に変わったが、胸がざわついた。愛しくてたまらない。

「アキ…」

 想いが溢れ、額に唇を押し当てた。

 それから後は、アキが寝息をたてている間に、少しずつ果実水を口移しで飲ませた。俺の魔力を与えることにもなるから丁度いい。
 兄上は携帯していた本を取り出し静かに読み始める。
 アキが目を覚ますと、果物を口へと運ぶ。
 兄上の存在を忘れるのか、たまに口づけを強請られる。もちろんそれには即座に答え、唇と舌を思う存分味わうのだが、途中で兄上のことを思い出し、真っ赤になって離れてしまう。

 アキの状態が完全によくなった訳ではない。
 けれど、アキが俺にその瞳をむけて微笑んでくれる。
 それだけで、俺は喜んでいた。
 アキを失うことはないのだと、確信できて。

 本当に、よかった――――


しおりを挟む
感想 543

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...