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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
9 久しぶりのお風呂
しおりを挟むこの国……というか、この世界は、1か月は30日の固定で、1年が360日。曜日や週という認識はない。
四季は日本と同じ。月の呼び名は、『春の一の月』『春の二の月』『春の三の月』みたいに呼ぶ。
新年は春の一の月の一日目。
で、4月に誕生日な俺がこっちに来たのは、春の二の月の中頃。ってことは、多分、春は3月から5月くらいの区切りかな。そのあたりの区切り自体は、多分日本と同じ。
遠征に出たのは、春の三の月の初め頃。
……そして現在、夏の一の月。はい。夏になりました。2つの太陽がぎらぎら輝いています。
意識不明だったり、朦朧としていたり、寝たり起きたり、気絶したり、うっかり生死の境を彷徨っていた俺は、本当に日付ってところがピンときてなかった。
だから、一ヶ月以上もベッドの住人になっていることに、ひどく驚いた……。
手元に暦でもつけておこうかな……。
スープから始まった食事は、徐々に固形物が増えて10日ほど過ぎた頃、夕食にお肉が出た。
「肉……!」
食べれる量はまだ少ない。
それでも食事の回数は、昼と夜の1日2回に増えていて、クリスの膝の上に自力で座っていられるくらいには、体力がついてきた。
「少しずつだからな?」
クリスが苦笑しながら、小さな一口大にカットされたステーキ肉を、俺の口の中にいれてくれる。
肉汁だ!!肉汁がたっぷりだ!!
「ん~~っ」
「よく噛めよ?」
わかってるよ。わかってる。ほら、よく噛んでるでしょ?ね?大丈夫、大丈夫。大丈…………夫???
「………むぃ」
涙目になった俺の頭をクリスがなでると、すぐにメリダさんが小さな袋を出してくれた。
そこに、料理してくれた人と食材に謝りながら、飲み込めなかったものを吐き出す。
「ううう」
「肉はまだ駄目か」
「噛めたけど……飲み込めなかった……」
クリスが差し出してくれたグラスに右手を添えて飲む。すっきり果実水は飲みやすい。
「じゃあ肉はもう少し先だな」
「うう……」
「柔らかく煮込んだものなら食べれるんじゃないのか?」
「食べれる……かも」
「なら、明日作ってもらおうか」
クリスは笑いながら俺の目元に触れる。
「……はやくクリスと同じものが食べたい……」
「焦ることはないですよ。坊っちゃん、アキラさんの紅茶です」
「ああ。ありがとう」
クリスはメリダさんが差し出したカップをソーサーから持ち上げると、いつものように俺に取っ手を向ける。10日前よりは力の入る右手は、カップを持ち上げても震えることはなくなった。
今日はリンゴのような香りの紅茶。もうアップルティーって呼んでもいいと思う。
「ほぅ……」
美味しくて、ため息が出る。
「アキ……風呂に入るか?」
「え」
「ラルが、長湯しないのなら入ってもいいと言っていたから」
「入りたい!!」
勢いよく言ったら、クリスが苦笑。
「メリダ、夜着用の服を出しておいてくれ。あと、果実水の準備を。それが終わったら下がっていいから」
「はい。ご用意いたしますね」
メリダさんにそう指示を出してから、クリスは俺を抱き上げて立ち上がった。
お風呂、一ヶ月ぶり!!
こんなに長くベッドの上の住人だった割に、身体も頭もベタついてない。身体は拭いてもらう病人(怪我人?)仕様なことはしてもらってたけど、やっぱりお風呂に入れるすっきり感には程遠くて。髪とかサラサラしてるけど、やっぱり洗いたいし。
クリスが俺を抱いたまま脱衣所に入る。そこには、前は置かれてなかったソファよりは小さい座りやすそうな椅子が一つ置かれていた。
クリスはその椅子に俺をおろした。
「少し座ってられるか?」
「うん。大丈夫」
「少し待っててくれ」
そう言うと、クリスは服を脱ぎ始めた。
俺はちょっと見てられなくて、視線を下に落とす。……心臓がね。ちょっとやばくてね。
……だってね。一ヶ月ぶりくらいのお風呂だからめちゃくちゃ喜んだけど、クリスの素肌を見るのも一ヶ月ぶりくらいなわけで、物凄く恥ずかしくなってしまったというか…、格好良すぎて見惚れてしまうというか…、抱いてほしくなってしまうというか…。
今日のあのお肉がちゃんと飲み込めていたら、抱いてもらえたんだろうか。無理矢理にでも飲み込めばよかったかな…?
「アキ?」
呼ばれて視線を上げたら、目の前にクリスがいた。
俺の前で腰を落としてるみたいで、視線がまっすぐ絡み合う。
「考え事?」
「え……っと。別、に」
「何考えてた?」
頬に触れる指。何度もくすぐるように撫でてくる。
「…クリスの身体、綺麗だな……って」
「ん?なら、どうして下を向いていた?」
「は、恥ずかしくなって……。よく考えたら、クリスの裸見るのも久しぶりだし…」
ぼそぼそ言ってたら、クリスが笑った。
笑いながら俺にキスをしてくれる。
「毎日見せてやるさ。恥ずかしさなんて感じないくらいに。…ほら、アキも服を脱ぐぞ?」
「ん…」
腰の紐を解かれた。
上の羽織は右腕から脱いで、最後に左腕から滑り落とす。下に穿いていたゆったりしたズボンは、クリスが俺の身体を片手で支えてくれてる間に足元に落とした。下着は……下着は、ね、例の、あれなので、紐を解いて終わり……。
風呂に入るだけなのに、ドキドキが落ち着かない。クリスの視線をめちゃくちゃ感じるし…。
「アキ、包帯を取るから」
左肩に、クリスの手が触れた。
包帯が解かれていく。
「……傷のところ、見てみるか?」
「え…」
確かに、今なら見れるよね。脱衣所には鏡もある。少し、怖い気もするけど。
「…今は、いいかな。なんとなくは見えるし。それより、はやくお風呂入りたい…」
クリスの首に右腕を回した。素肌の感触……すごくいい。
「わかった。さっさと入ろうか」
クリスは笑ってから俺を抱き上げた。
俺は、クリスが立ち上がってから、左手を掴んでお腹の上に上げて抑えてた。
浴室の扉を開けると、気持ちのいい湯けむりが出てくる。
「はぅ……」
「まだ湯に浸かってないのに」
思わず漏らしたため息のような声に、またクリスが笑った。
「だって、湯気だけでも気持ちよくて…」
「それは何より」
クリスは湯船の近くに腰を下ろして、胡座をかいてその上に俺を横向きに座らせた。
手桶で少しずつ俺にお湯をかけてくれる。
「ん……」
左肩には本当にそーっとかけてくれた。
「痛くないか?」
「うん……大丈夫」
すごく気持ちいい。
それからは、全部クリスがしてくれた。
そういえば、ベルグの宿屋でも、俺が寝てる間に身体も髪も洗ってくれたんだっけ……って、思い出した。
クリス、器用だなぁ。
せめて…と思いながら、右手に泡をもらって、クリスの背中に回した。あまり力は入らないけど、背中なら洗ってあげれると思って。
「気持ちがいい。ありがとう、アキ」
「どういたしまして」
二人で笑って唇を触れ合わせた。
頭も身体も洗い終わると、クリスはまた俺を抱き上げて立ち上がり、湯船に向かう。
最初は少し深めのところで、肩まで。
「ふあぁぁぁ」
思わず漏らした声。
「気持ちいい?」
「すっごく……!」
身体が温まった頃に、段差のところまで移動して、クリスの足の上に、向かい合うように座らされた。
……これは、恥ずかしい。
「え、っと」
「寒くない?」
「大丈夫……だけど」
「身体は?辛くないか?」
「うん……平気」
「…アキ」
そっと、抱きしめられた。
なんか、壊れ物を扱うみたいに。
「少し…触れてもいいか?」
耳元のかすれた声に、心臓がまた跳ねはじめた。
「いい……よ。クリスに、触ってほしい……っ」
唇を触れ合わせる。
二人の吐息が熱く感じた。
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