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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
8 体温と鼓動に安心する
しおりを挟むクリスがベッドに腰掛けると、低く軋む音がした。けど、俺には体重をかけない。クリスの重みを感じたい。キスだけじゃ、物足りない。
「んんぅ、くり、す、もっと……っ」
もっとキスして。
もっと抱きしめて。
もっとクリスを感じさせて。
もっと触って。
「くりす、だいて…っ」
どうしようもなくて、言葉にした。
なんでか、今すぐクリスが欲しくて。
「アキ」
クリスの唇が目元に触れて、涙が出てたことに気づいた。
「落ち着け」
「落ち着いてる」
クリスは何度も俺の目元にキスを落としていく。
「何が不安だ?俺の何がお前を不安にさせている?」
不安……不安なの?
クリスの膝の上に座れたこと、嬉しかった。クリスがすごく近くて。クリスの鼓動が聞こえてきてて。
でも、離れたら、鼓動も熱も感じなくて。
自分の身体なのに、満足に動かせない。そこには焦りとか不安とかがあると思う。でも、クリスがいてくれたら、それが消えてくのがわかる。
前より抱きしめてもらってない。キスも少ない。当然、抱かれてもいない。クリスには迷惑しかかけてない。
……あれ。俺の中、なんか、めちゃくちゃだ。胸が痛い。胸が苦しい。
「やだ……くりす、おれのこと、きらわないで……」
涙が止まんなくなる。
俺、ほんと、どうしたんだろう。
わけがわからなくてしゃくりあげていたら、クリスのため息が聞こえてきてびくりと身体が震えた。
「どうして俺がお前のことを嫌うことができるんだ?愛してるって、散々言わなかったか?」
呆れたような、でも、柔らかい声音。
「でも、だって、今の俺、クリスに何も、できない。迷惑しか、かけてない。俺が、こんなだから、クリス、仕事も、できてないし、ずっと、ずっと、俺のこと、ばかりで」
「自分よりも大切な愛しい婚約者がこんなにひどい怪我をしているのに、それを放置して仕事をしろと?…むしろ、そのほうが俺らしくないな。こうやって、アキの傍で世話を焼いてるほうが俺らしいと思うが」
「でも」
ぐちゃぐちゃは解けない。
もうわけがわからない。
「まったく…。ちょっと我慢な?」
クリスはそう言うと、俺をまた抱き上げてきた。
くらりと目眩に襲われたけど、クリスの胸元に顔を近づけていると、落ち着いてくる。
クリスはベッドに上がり、ベッドヘッドに体を預け、俺を向き合うように足の上に座らせた。
「……クリス」
「ほら」
ぐいっと頭を引き寄せられて、また、クリスの胸元にぺたりとくっつく。
とくんとくん……って。心臓の音……、安心する。
「アキ……どこまで覚えてる?」
「どこまで……って、遠征のときの?」
「怪我をしたときのことは覚えてるか?」
「………ワイバーンが俺の方に向かってきたのは覚えてる。口が大きくて、目をそらせなくて」
「その後は?」
「………覚えてない。あとは……、この部屋で、断片的な記憶しかないよ……」
クリスは頷いて、俺の頭をなでながら、その後のことを話してくれた。
俺がどれだけ酷い怪我をしたのか、どれだけ血を流したか、どうやって助かったのか、何回心臓と呼吸が止まったのか。
正直、自分の怪我の状態を聞いたときには、聞かなきゃよかったって後悔した…。グロすぎる。思わず右手で左肩を触っちゃったよ。
左腕がちぎれかけてて、出血止まらなくて、肉が抉り取られてて、一部骨が見えてました?……やめて。夢に見そう。
当然、血管も神経もめちゃくちゃ。変形してた肩も、もしかしたら戻らなかったかもしれない、って。
……それから、クリスが癒やしの力を使えるようになった、って。それも体液を介してだから、使う相手は俺だけだって…。嬉しいやら恥ずかしいやら。
ラルフィン君は、毎日毎日倒れるまで俺に癒やしをかけてくれてたみたい。
俺の肩を見るたびに、あれほどの怪我がここまで綺麗になるなんて…って、皆驚いてたんだって。
「そもそも、怪我は治ってきても、血が足りてないんだ。目眩がするのもすぐ疲れるのも仕方のないことだから」
あ、つまり貧血ですね。理解しました。
「それから、俺も我慢してる。だがな、今のお前に無理をさせるわけにはいかないんだ。ベルグの街でお前を抱いたときとは違う。今無理をさせたら、俺は、永遠にお前を失うかもしれない。そんなことになったら、俺は自分が許せなくなる。お前がいなくなったら生きてる意味がなくなる。お前は、俺が生きる意味そのものなんだ」
顎の下に指が添えられて、クリスを仰ぎ見る。そしたら、泣き笑いのような表情のクリスが、こつん…と額を合わせてきた。
「力の限り抱きしめたいし、ずっと口づけていたい。可愛い胸に吸い付いてねだる声が聞きたい。お前の中の一番奥深いところまで己を沈めて――――抱き潰したい」
だき……つぶす、って。
赤くなればいいのか青くなればいいのかよくわからなかったけど、顔は熱くなったから、多分赤。
「今すぐ抱きたい。お前の中をかき回したい。………ほら」
右手を、クリスの下腹部に導かれた。
「っ」
そこはもうかなり滾ってる。…思わず喉が鳴ってしまったのは、仕方ない…よね?
「お前の痴態を思い出すだけでこうだ。挿れたくて仕方ない。けど、我慢してる。…わかるよな?」
「うん……。で、も、だったら、俺、いつクリスと……できるの?」
「食事が取れるようになって、体力がもう少し回復したら」
「……ほんとに?」
「本当。だから、もうおかしなことは考えるな。とにかく今は少しでも身体をもとに戻すことだけ考えていればいい」
クリスの指は俺の頬を何度もなでていく。
もやもやが、消えていくみたい。
「それに、仕事はしてるからな?必要なものは運ばせてある。昼間、お前が寝てる間にここで書類仕事くらいはしてるから」
「…そう、なんだ」
「寝顔を見たりときどき口付けたり、肌に触れたり……………顔が赤いな?」
「…だ、って、…っ」
俺が寝てるときにあれこれされてるのかと思うと恥ずかしいじゃないか…。
「アキ」
クリスが体をかがめて、唇を重ねてきた。すぐに舌が入り込んできて、あちこち丁寧になめられる。背筋がゾクゾクするけど、下腹部に熱が溜まってる感じはしない。
流れ込む唾液を飲み込めば、身体の中からじんわりと暖かさが広がる。
「んぅ……」
左肩がじんわり熱を持った。クリスの言ってた癒やしの力ってやつだろうか。
キスをしながら、クリスは左手の三角巾を解いていく。
最後にリップ音を立てながら唇が離れ、目元を撫でられた。
それから、左の指先をとられ、ゆっくり持ち上げられる。ほんの少し、左肩に痛みが走る。
「愛してるよ、アキ」
手の甲に口付けられた。クリスの唇の柔らかさやあたたかさが伝わってくる。
「俺も……大好き。クリス」
俺の左手を離したクリスが、ぎゅって俺のこと抱きしめてくれた。いつもより、力強く。
右腕だけ背中に回して抱きついた。両腕でクリスに抱きつきたい。しがみついて、体温と鼓動を感じたい。
「そろそろ横になろうか。顔色が悪くなってきている。疲れただろ?」
「ん……少し」
クリスは俺をベッドに横たえると、自分も隣に寝転んだ。
俺の頭の下に左腕を差し込んで、俺の動かない左手の位置を調整しながら、横向きにしてくれる。それから右手で抱き込まれて…、こんなにくっついているの、久しぶりな気がして嬉しくなる。
「おやすみ」
「ん…、おやすみなさい」
まだ日は高いけど。
クリスの体温と鼓動に安心して、俺は目を閉じた。
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