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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

17 不安ばかり

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 背筋のぞわぞわが収まらない。
 この嫌な感じ、西の森でワイバーンが来るとき感じたやつだ。

「クリス……」
「少し楽になったか?」
「ん……、うん。あのね」
「ん?」
「森から三体くらい……獣型ぽい。判別無理…。あと、東側からも二か三体くらい……」
「わかった」

 周りの状況がわからない。
 どれくらいの距離にいて…も、わからないけど、俺たちに向かってきてるのは確かだと思う。
 ギルマスが、空間属性の特技的なものと言っていた感知能力。ん、魔法じゃないからいいよね。てか、制御の仕方なんてわからない。

「……クリス」
「心配するな」

 起こされて、クリスの腕の中に抱き込まれる。
 すごく……ほっとする。
 そのまま、何度もキスされた。
 とんとん、っていう、背中を叩くリズムがいい。
 クリスの鼓動を感じるだけで安心していく。
 身体のだるさとか痛みとかが薄らいで、軽くなる。熱く感じていた吐息も、平熱に戻った感じがする。
 暫くして、クリスしか見ていなかった目を周りに向けたら、簡易日よけの近くにはオットーさんがいて、色々指示を出してるようだった。よく見たら、魔物の死骸らしきものもある。

「討伐完了のようだ」

 クリスが耳元で教えてくれたけど、正直、「え、もう?」って感じ。そんなに時間経ってないよね?

「アキラ様~~!!見てくださいましたか!?私も討伐に参加しましたよ!!!」

 エアハルトさんも参加したのか…。
 あー、うん。返事しなくていいかな。見てないし。
 クリスにくっついてるの、気持ちいい。

「殿下」
「終わったか」
「はい。素材の切り出しまで完了です。東からはウォーウルフ三体、森からはヘルハウンド三体でした。怪我人等出ていません」
「まあ、通常の魔物だな」

 うん。森や平原に普通にいる感じだよね。

「あとは死骸の処理なのですが…」

 放置は良くないよね。
 穴掘って埋めるのがいいけど、時間、結構かかるよね。

「そうだな……」
「それならば、私が!!土魔法はそれなりに使えますので!!」

 なんていうか、エアハルトさん、遠慮がないというか、普通に話に割って入ってくる人だね。

「アキラ様にもっと私が役立てるところをお見せしなくては……!」
「それは必要ないが、穴は開けてくれ。オットー、指示を」
「はい」

 俺はクリスの胸元から少しだけ頭を上げた。
 オットーさんに引きずられるように移動したエアハルトさんは、魔物の死骸が集められているところで魔法を発動させた。当然のように無詠唱で、魔物死骸の山の真下に、ぼこっと、穴を開けたらしい。

「……すごい」

 死骸の山は一瞬で穴の中だし、その穴を土属性の魔法でまた塞いだから、ほんと、一瞬の出来事で。
 これには、周りで見ていた隊員さんからも感嘆の声が上がる。

「……洗練された魔力だな」

 クリスまで感心してる。
 まあ、本気ですごいなぁって見ていたら、エアハルトさん、オットーさんの制止を振り切って、俺達の方にダッシュしてきた。

「アキラ様!殿下!!見てくださいましたか!?」

 ワクワクした感じの、褒めてほしい感じの。犬か。この人。

「見事だった」
「ありがとうございます!!では、入隊を…!!」
「却下」

 ………ブレない。ほんと、ブレない。
 思わず笑ってしまった。

「アキラ様の微笑み……!!」

 エアハルトさんは大袈裟に数歩よろめき下がり、「あああ……!!」と叫んで地面に膝をついた。

「なんて……なんて素晴らしい、愛らしい微笑みなのか…!!それを私ごときに向けていただけるなど……!!……はっ、これはもしや、おそばに侍ることを許されたのでは……!?」
「それはないな」

 相変わらずの一刀両断。清々しい。
 俺は、ようやく身体に少し力が戻ってきた感じがする。クリスの魔力と癒やしが、身体の中に馴染んだかな。
 クリスの足の上に、対面になるように座らされていたんだけど、なんとか動いて横向きになった。クリスは「大丈夫?」って顔だったけど。

「……エアハルトさんって、なんでそんなにめげないの?」

 すごく不思議で。
 何を言われても動じなくて。
 ……自信満々で。
 鬱陶しいけど、感心する、というか。

 多分、今、俺が弱ってるから、余計、羨ましく感じるのかもしれない。

 クリスにまだ背中を擦られてる。
 甘やかされてる。
 隊員さんたちは、何も、言わないけれど。
 でも、きっと、迷惑だって、思ってる。

 エアハルトさんは少しの間俺のことを見ていたけど、ふ…って、微笑んだ。

「アキラ様は不安なんですね」

 とても静かな言葉だった。

「私は、まぁ、自分が思うようにしか進めないんですよ。駆け引きとかは得意じゃないんです。すぐ顔に出るらしいので」

 ……ちょっと、笑ってしまった。

「なので、無理はしないことにしました。溜め込むのは体調にも良くない。だったら、真正面から聞いて、体当りして、自分の思いをわかってもらうだけです。そうしないと、相手の真意もわからない」

 それができる人って、そんなにいないよね。余程、自分に自信を持っていたり、周りから、好かれていないと。
 俺の中でそれが許されるのは、クリスとお兄さんくらいだと思ってる。
 多分、カリスマ性とか、そういうもの。
 迷いなく進んで、皆も信頼して、ついていく。
 俺は、いつも迷ってばっかりだし。
 相手の顔色ばかり伺うし。
 言いたいこと全部なんて、とてもじゃないけど口にできない。
 ……今だってそうだ。
 ごめんなさい、迷惑だよね、って。でも、どうしてもクリスと一緒にいたいから、俺にできること頑張るから、一緒に行ってもいいですか、って。……みんなに、聞いてなくて。
 クリスはいいよって言ってくれる。……だって、クリスだもん。俺の願いは、大概聞いてくれる。
 でも、みんながどう思っているのか、わからないから。
 だから、こんなに、不安なんだ。



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