【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

79 婚姻式①

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 神官の人の後について、廊下を進む。
 長くはない廊下の終着点は、大きな扉。
 そこで足を止めた神官さんは、扉に手をかけながら、俺に「少しお待ちください」と小さな声で話しかけてきた。
 それに頷いて、時を待つ。

 神殿の中に、鐘が鳴り響く。
 不思議と、明るく、軽やかな音に聞こえた。

「ご婚礼おめでとうございます」

 神官の人はそう言ってから、扉を開けた。

 礼拝堂の中は光が溢れていた。
 ……ああ。クリスの魔力を感じる。少し先の方に、黒い人影が見える。ヴェールがかかっているからはっきりとは見えないけれど、それはクリスの姿に間違いない。
 一歩、神殿内に足を踏み入れる。
 また、一歩。

 普通、立式で行われる結婚式だけど、今日は適度な間隔を空けた長椅子に、全員が座っている。
 これは俺が望んだこと。

 静かな、礼拝堂の中。
 ちらりと参列者の方を見ると、笑顔のティーナさんの姿が目に映った。よかった。
 それから、リアさんと。
 ……ギルマスが、いるのは何故だ。

 俺がクリスと一緒にいるときにかけられる、嫌悪を孕んだ囁きとか視線とか。そんなものは何一つなかった。
 静かな礼拝堂の中、時折、俺の足元からカツン…って音がするだけ。
 ここにいる全員の顔も名前もわかるわけじゃない。けど、確かなことは、みんなが俺を受け入れてくれていること。
 敵ばかりだと思っていたけど、こうして俺を認めてくれてる貴族の人もいるのだという事実。
 クリスが厳選した参列者の方。多くはないけど、俺には十分だ。むしろ、こんなにいる。俺とクリスを祝福してくれる人たちが。

 また、一歩。

 幸せだと思う。
 日本で過ごした十七年の間、一般的な日本人だったと思う。父さんと母さんがいて、ばぁちゃんがいて。そりゃ、時々は寂しいなとか思ったこともあったけど、平和で、幸せだった。
 でも、クリスと出会った一年間は、それとは違う幸せを感じることができた。
 色々あった。
 楽しい事ばかりじゃなかった。
 右も左も分からない、この世界の常識を何もわからない俺だけど、今はこんなに認めてくれる人たちがいる。
 十八歳になって、こんなに綺羅びやかな衣装を着て、クリスの隣に立てる。
 子供だから、異世界人だから、なんていう負い目はもうない。
 胸を張って、クリスの隣に並んでいいんだ。

 ここが日本だったら。
 父さんと母さんが、今ここで、みんなと同じように俺たちを祝福してくれたのかな。
 こんな俺を見て、似合ってると言ってくれるのかな。
 長野たちは笑うだろうか。女のコみたいな格好だな、って。
 でもきっと、おめでとうって、いってくれたはず。

 また一歩、進んで。

 クリスの姿がだんだんはっきり見えてきたのに、何故かぼやけていく。
 進めていた足が止まる。
 ただ真っ直ぐ、クリスの下に歩いていけばいいだけだったのに。ただ前を見て胸を張って進めばよかっただけなのに。
 礼拝堂の中が、少しざわつく。
 ……わかってる。
 俺が、立ち止まったから。
 足を進めなきゃ。
 そう思うのに、動かない。
 顔をうつむかせたら、足元に雫が落ちていった。
 それでようやく、俺が泣いてるんだってわかった。自分のことなのに。
 幸せで、幸せで、苦しくて、切なくて。
 このままじゃ、式を台無しにしてしまう。
 けど、どうしても足は動かなくて。

 嗚咽が漏れそうになったとき、ふわりと温かいものに包まれた。
 知ってる、俺が好きな匂い。

「全く……」

 言葉とは裏腹に、声音は優しい。

「くりす」

 少しだけヴェールを持ち上げられて、クリスが覗き込んでくる。俺を見た瞬間、クリスは目を細めた。
 どこから出したのか、柔らかいハンカチで俺の目元を軽く押さえた。

「綺麗だ」

 耳元で、本当に小さな声で。
 それからすぐにヴェールを直されて、横抱きされた。
 クリスは何事もなかったかのように、歩き始める。
 周りからは安堵のような溜息が聞こえてきた。

 クリスだ。
 こうされていると、胸を占めてた切なさが軽くなった。それと置き換わるように、クリスへの愛しさが、胸の中一杯に溢れていく。
 本当に、本当に、幸せだから。
 父さん、母さん。
 俺を送り出してくれてありがとう。
 たくさんたくさん、もっと、幸せになるから。だから、どうか。

 ヴェール越しに見るクリスの顔は、きりり…っとしてるのに、口角が上がってる。ちらりと俺を観ては、目も蕩けそうに甘くなる。
 髪はいつもより少し高い位置で結われてる。
 左胸にはいくつかのメダル……勲章があって。
 涙で見れなかった衣装は黒色。
 よく見たら、ボタンの一つ一つにクリスの印が刻まれてる。
 パッと見、軍服みたいだけど、至る所に銀糸が使われていて、綺麗な刺繍も施されてるから華やか。

 ああ……格好いい。
 ヴェールなんて取って、直接ちゃんと見たい。
 ……そんなことを思って、自分の現金さに苦笑してしまった。
 さっきまで、動けなくなるほどの焦燥にかられていたのに、クリスが抱いてくれたら、すぐに平常運転に戻るとか。
 大好きなクリスは、俺の心も落ち着けてくれる存在。
 ずっと、ここにいたい。

 すがりつきたいけど、胸元の装飾が色々ありすぎてできない。壊してしまいそうだし、何より自分が痛そう。
 悶々としてるうちにクリスの足が止まった。
 はたっと前を見たら、神殿長さんがいて。
 少し困ったような苦笑顔で、俺たちを見ていた。



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