【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

80 婚姻式② ◆クリストフ

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「あからさまな不機嫌顔しないでくださいよ」

 呆れた溜息と共に、オットーから苦言が発せられた。
 いや、そんな顔はしていないと思うが。
 控室には城の侍女がニ名待っていた。
 王太子兄上付きの彼女らはメリダの推薦でもあるらしい。
 余計な手は出してこない、媚びることもない。
 メリダ以外の侍女を信頼しろという方が無理な話だ。メリダが城を辞したときに残していった侍女は、結局は俺に媚びを売るようになった。メリダ自身もそんなことになるとは思っていなかったのだろう。メリダがいたときには、メリダの下でよく働いていたのだから。
 だからこそ慎重にメリダは選んだのだろう。

 一人で着替えを済ませ ると、俺に断りを入れてから細かな直しを始めた。
 黒の婚礼服。
 アキの髪と瞳の色。あの深い黒を表現するのは難しい。けれど、限りなく近く。
 流石に黒一色で整えることは反対された。
 まあそれもそうかと、アキの衣装に使う糸と同じ物で仕上げをするよう指示を出した。

 仮合わせの時点で色合いも形も十分アキに似合うものになっていた。今の更に華奢になった身体に合わせ直した衣装を着たアキは、どれほどに美しくなるのだろうか。
 僅かに口角が上がったとき、オットーの盛大な咳払いが聞こえた。

「顔がだらしないです。殿下」
「………オットー」
「幸せで楽しみなのはわかりますが、もう少し引き締めましょう」
「………ああ」

 兄上の侍女からも、微笑ましい雰囲気が伝わってくる。
 そうは言っても、引き締めるのは無理だろうな。自然と顔が緩んでいくのだから。

 いつも無造作に結っている髪を直された。
 その際に「王太子殿下からです」と、黒く光沢のある細紐を見せられた。兄上からの心遣いと思えば否はなく。アキの黒で髪が結われる。
 胸元には聖鳥が残した羽根の飾り。アキの羽根は髪飾りに直したんだったな。
 全身を俺の色に染めたアキは、本当に、どれほど――――

「緩んでます、殿下」
「………」

 もういいじゃないか。
 最愛の相手アキを想えば顔だって緩むものだろう?
 さっきから俺を指摘しつつ、オットー自身もどこか嬉しそうな顔をしている。

「オットーもだろ。護衛の顔じゃない」
「護衛ならそもそも部屋に入りませんよ。ザイルは部屋の外で任についているはずです」
「じゃあお前は?」
「そうですね…。話し相手、お目付け役といったところでしょうか?」
「話し相手ね…」

 緩んだ顔の指摘しかされていない気もするが。

「なんでそんなに嬉しそうなんだか」
「殿下」
「なんだ?」
「私もアキラ様のことはかなり気に入っているんですよ?もちろん、欲的な意味ではないですが」
「……知ってるよ」
「私にとってお二人は光そのものです。そのお二人がようやく御結婚されるのですよ?嬉しいに決まってるじゃないですか」

 支度を終えて立ち上がった俺の前で、オットーは膝をついた。

「殿下。アキラ様とのご婚姻、心より祝福申し上げます。今日この日を迎えることができたことに、慶びしかございません。ザイル共々、お二人を全てのものから守ることを、改めてここで誓います」
「ああ、ありがとう。今後も頼らせてもらう。――――けどな、オットー」
「はい?」
「お前が優先すべきは俺達じゃない。なにより、そんな状況にならないよう動くことが好ましいがな」
「……ええ。わかっています。それでも私は決めたんです。もう二度と大切なものは手放さないと。護り切ると」
「……そうか」

 一人で突っ走ることがあればザイルが止めるだろう。

「信頼できて、全てを預けることができる相手がいるというのはいいことだな、オットー」
「――――ええ。本当に」

 二人で笑い合ってる間に、時を告げる神官が扉を叩いた。




 礼拝堂に繋がる扉の前で鐘を待つ。
 今、こことは反対側の扉前で、アキも待っているはずだ。
 ああ、はやく。
 目を閉じ、その時を待った。
 早くアキの姿を見たい。
 早く
 早く。

 そうして鳴り響く鐘の音。
 神官は祝福を伝えながら扉を開く。
 いつもと違う雰囲気に見えるのは、全員が長椅子に着席しているからだろう。
 ざっと礼拝堂内を見渡し、改めて真正面に視線を向けた。
 ヴェールで表情まではわからないが、俺を真っ直ぐに見据えたアキがいた。体に合わせ作り直した婚礼服は、アキの細い体の線を綺麗に整え魅せている。
 素肌が見えているわけでもなく、白銀で整えられた婚礼服は華やかではあるが清楚そのものであるはずなのに、何故か艶めかしくも見える。
 ゆっくり歩を進めることに苛立つ。
 早くこの腕の中に囲ってしまいたい。
 アキが歩くたびにヴェールが揺れる。
 体の横で握られてる手が、どれだけ緊張しているのか物語っている。
 駄目だ。
 ヴェールで殆ど顔が見えないというのに、その佇まいだけで心が奪われる。
 式に参列できる貴族を限っておいてよかった。この瞬間にアキに懸想する輩が増えていたに違いない。
 だが、アキは俺のものだ。
 もうすぐ。
 その手を取れる。

 だが、アキはその場に立ち止まった。
 礼拝堂内は少しざわめきが起きる。
 何かあっただろうかと心配になり始めたとき、アキの肩がほんの僅かに揺れた。
 それを見た瞬間、俺は早足に歩き出していた。
 慣例?そんなものは知らない。
 婚礼式のしきたりなど、守る必要もない。
 愛しい人が目の前で涙を流しているのに、それを黙って見続けることなど、俺にはできない。

 俯いて、細かく肩を揺らすアキを、腕の中にそっと抱き寄せた。



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