【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

81 婚姻式③ ◆クリストフ

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「全く……」

 こんなに静かに泣くくらいなら、俺を呼べばいいのに。握った手もまだ少し震えている。
 アキのことだから、色々考えすぎたんだろう。
 メリダに任せていたんだ。控室で何かあったとは思えない。礼儀もなってないような貴族たちが控室を訪れた報告もザイルからは上がっていない。
 式に呼んでいるのはアキを認めている貴族たちばかりだ。周辺調査も済ませてある。少し落ち着いてから領を訪ねるのもいいかもしれない。その彼らが心無い言葉をかけたとも思えない。
 だから恐らく、元の世界に残した家族のことや、今までのことに思い馳せてしまったんだろう。
 アキを抱き込みながら、瞬時にそんな考えが過る。

「くりす」

 震える声。
 周りに見えないように、僅かにヴェールを持ち上げ顔を覗き込んだのだが、一瞬息を止めてしまった。
 ふわりと香る甘い花の香。
 涙で濡れた大きな黒い瞳は扇情的。
 その目元にはごく僅かな朱が施されている。光を受けて時折輝いて見えるのは、朱の中に何かが含まれているからか。
 普段顔色が悪いわけではないが、より血色が良さそうな色を頬に自然と入れられ、唇は艶めきも瑞々しさも増していた。
 黙って俺を見つめてくる瞳は、まだ涙で潤んでいる。
 上着に仕舞われていたハンカチを取り出し、軽く、目元にあてる。
 これ以上涙を流して折角の支度が崩れないよう、そっと。
 ハンカチを当てたときに瞳を閉じていたアキは、俺が手を離すと静かにまた瞳を開く。
 抱きしめたい。
 その衝動をぐっと抑え、耳元に顔を寄せた。

「綺麗だ」

 誰にも見せたくない。
 二人だけの式にしてしまえばよかった。
 普段と違うアキに――――心惹かれる。

 抱きしめたい衝動は行動に出てしまった。
 手を取って二人で歩くのでも足りない。
 ヴェールを戻し、当然のようにアキを抱き上げれば、驚いたよう瞳でヴェール越しに俺を見つめてきた。
 ……最初からこうしていればよかった。
 堂々と歩き始めれば、周りからは微かな溜息の音が聞こえてくる。呆れている、そんなものではなく、動き出した俺たちに対する安堵から来るものだろう。
 アキの表情も緩んでくる。
 胸元に頭を寄せようとしてピタリと動きが止まった。どうやら胸元につけている諸々を気にしたようだ。……確かにいつものように寄り添えば、飾りで顔に傷がついてしまうな。
 目が合えば微笑まれる。俺も微笑み返す。

 アキを抱いたまま祭壇の前まで進めると、オリバー神殿長に苦笑で迎えられた。祭壇近くでは白のローブを身に着けたラルフィンが、ニコニコと笑いながら俺たちを見ている。

「殿下」
「このままで」
「仕方ありませんね」
「クリス」

 俺たちのやり取りに慌てたのはアキだった。

「何も問題はないよ」
「でも」

 不安に揺れる瞳。
 抱く腕に僅かに力を込め、ヴェール越しに額に口付けた。

「大丈夫」

 これぐらい、女神の怒りにも触れない。
 アキは、視線を俺からオリバー神殿長に移した。

「ええ。殿下の仰る通りでございますよ。それよりも体調は問題ございませんか?アキラ様」
「え……と、はい。大丈夫、です」
「それはよかった。――――では、婚姻式の前にアキラ様が無事に御成人なされたことを祝福いたしましょう」

 オリバー神殿長の言葉とともに、ラルフィンが前に出た。
 俺はアキを抱えたまま、その場に膝をつく。

「アキラさま」

 ラルフィンは微笑みながらアキの手を取り、額をそっと押し当てた。

「御成人おめでとうございます。今日この場に立ち会えたこと、僕自身がとても嬉しいです。アキラさまがこちらで無事御成人されたこと、女神さまも喜んでいます」

 で。
 ……本当に。
 アキの決意と女神の御力に感謝するしかない。
 知らず、腕に力が入ったらしい。アキが心配そうな瞳を俺に向けてきた。それに微笑み返せば、安堵したようにアキも微笑み再びラルフィンを見た。

『アキラさまが進む先に、女神さまのご加護がありますように』

 ラルフィンの表情が変わった。いつもと違う、畏怖すら覚える微笑みを口元に浮かべる。

『――――迷うことなく、その思いのままに進むといい。加護は光。光はやがて道になる』

 少年の声であって、違うもの。

「女神様」

 目を閉じたアキはそう呟いた。
 ラルフィンは満足げに微笑むと、一瞬目を閉じ、再び瞳を開いたときにはいつもの表情に戻っていた。

『僕から、アキラさまへ、言祝ぎを贈ります』
「ありがとうございます」

 ……どれだけの人が気づいただろうか。いや、むしろ、誰も気づいていないかもしれない。
 アキの祝福に姿を――――その存在を明らかにした女神に。
 ラルフィンが最後の言葉を発すると、アキの周りには光が舞った。それはすぐに、消えていったけども。
 にこりと笑い、アキの手を離したラルフィンは、何事もなかったかのように元の場所に戻った。

 ――――迷うことなく、その思いのままに。

 女神はアキに何をさせたいのか。
 …いや、違うな。
 何をしてもいい、と言っているのか。
 それなら俺は、その隣で見守り、力になるだけだ。共に歩み、共に生きる。
 光が道標になるのなら、俺はアキの手を離さず進んでいこう。



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