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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
76 クリスは過保護で優しいんだよ。
しおりを挟むまたしても涙でぐちゃぐちゃになった顔をクリスに拭われた。少し腫れぼったく感じる瞼は、クリスにキスしてもらったら治るのかな…。
クリス隊のみんなも、神殿の外と中の警護に加わるということで、みんなで移動開始した。
色々感動しすぎて深く考えなかったけど、前後左右を隊員さんに囲まれて移動する俺たちは、傍から見たらかなり目立つ。まんま、要人警護だよね…。俺、ほんとうに気づかなかったんだけど。
クリス隊のみんなと一緒にいるのは、俺にとって特別なことじゃないし。……まあ、全員と城内を移動……というのは初めてだったけどね。
まあ、それに気づいたのは後になってからだけど。
「アキ、何かあればすぐ俺を呼べ」
「や……、神殿の中でなにかあるとも思えないんだけど」
神殿の中は意外と色んな通路がある。
正面から礼拝堂に続く通路は真っ直ぐで迷うことがない。
結婚式では新郎新婦がそれぞれが支度をする部屋があるから、その部屋の中で着付けや化粧等々をする。
だから、俺とクリスは途中で一旦お別れなわけなんだけど、何故かクリスが過保護モードで中々先に進めない。
護衛で神殿の中に来ているオットーさんは呆れた顔をしているし、ザイルさんは苦笑気味だ。
でもこれ、俺にはどうすることもできないんだけど…。ちらりとオットーさんに視線を送ると、意味を悟ってくれたのか、頷かれた。
「今生の別れのような雰囲気になってますよ、殿下。慶事だと言うのに縁起でもない。いい加減アキラさんを解放しないと、支度もできません。というか、我々が固めている神殿でなにか起きるとでも思ってますか?ありえませんから。馬鹿ですか。そのアキラさんへの依存態度、いい加減どうにかしてください。貴族にも舐められます。はい、わかりましたね?じゃあ行きますよ?」
「………」
オットーさんの笑顔で苦言のいつものやつだけど、相変わらず容赦がない。
クリスは溜息をついて、困ったように眉をひそめて俺の額にキスをした。
「……やはり、控室は同じ部屋で――――」
「いい加減にしろ」
……と、乱暴な言葉でオットーさんが終わらせた。
がっしりとクリスの腕を掴んで、引きずるような勢いで俺が向かう部屋と反対側の部屋の方にクリスを歩かせる。
「オットー」
「聞きません」
「わかったから。離してくれ」
あからさまな溜息で応じたオットーさん。
クリスはもう一度俺のところまで戻ってきて、また、額にキスをした。
「アキ、後で」
「うん」
俺からも頬にキスを返して、ようやくそれぞれの部屋に向かった。
「アキラさんのこととなると、殿下はどうしようもなく我儘になりますね」
「我儘……っていうか、なんかもう小さな子供の駄々みたいに見えましたけど。……あ、これ内緒で」
「はい」
俺の護衛についてくれてるザイルさんが、楽しそうに笑った。
流石に駄々っ子…みたいなこと言ってたの知られたら、やばい気がするんだよね。はは…。
「ザイルさんは…結婚式、した?」
「あー……、ええと」
「オットーさんと結婚したんだよね?」
「………ええ」
ザイルさんはどこか視線を泳がせて、左の手首を撫でてた。
「すみません。アキラさんに報告もせず」
「えと…、うん、ちょっと驚いただけ、なので」
別に嫌なわけでもないし、むしろお祝いしてもいい気分だし。
「それで、結婚式は?」
「オットーは神殿も神官も、……女神様すら嫌っているので」
「あー……、うん。そうだよね」
「誓いはしましたけどね。オットーの村で」
「もしかして、リアさんを迎えに行ったとき?」
「ええ。殿下からしっかりと婚姻証明書は頂いていましたし」
婚姻届みたいなものかな。
「そっかぁ…。やっぱり気持ちとか……変わるのかな」
「自覚はしますよ。誓いは軽い気持ちではできませんから」
穏やかな言葉と柔らかな表情。
「……俺にもクリスの伴侶としての自覚……みたいなもの、できるのかな」
「むしろ、もう自覚はされてるのでは?」
「うーん……多分?」
自覚……って、意外と難しいな。
例え方が悪いかもしれないけど、俺はクリスのもので、クリスは俺のもの……ってのも自覚になるんだろうか。伴侶としての自覚……って、今までと違うんだろうか。
自覚してるつもりなんだけど、はっきり『そう』と言えないあたり、自分の中でモヤッとしたものがあるんだろうな。
「アキラさん」
「あ、なに?」
「オットーはあの場で言いませんでしたが」
っていうのは、訓練場でのことかな。
「皆、アキラさんに感謝してます」
「えと…、魔法が使えるから?」
「いえ。殿下の元に来てくださったことを、ですね」
なんで感謝、なんだろう。
余計な仕事を増やしてしまった気しかしてないのに。
「あの御方は誰よりも強いんです」
「う、ん」
「護衛などいらないほどです」
「う、ん?」
「強さ故に、あの御方は常に前線に立ってきました。誰よりも速く、魔物の前に出ていくのですよ。私達はそれを止めたかった。殿下の直属兵士団員は、皆、それなりに剣の腕があると自負しています。けれどあの御方は、我々を頼ることはしない。むしろ、守らなければならない我々が守られてきたんです」
ザイルさんの表情を見たら、どこか寂しそうだった。
それは駄目なことなんだろうか。
「深い怪我をされても、魔物の数が多くても、殿下は足も手も止めないんです。ひたすら向かっていく。……私や、オットーですら、頼りにされることはほぼなかったんです。我々には殿下を止める手段がありませんでした。まあ、当然ですよね。あの御方は、誰よりも強いんですから。止めようとしても振り切られてしまいます」
…そっか。
ずっと、そうやってクリスのこと心配してたんだ。
「ですが、アキラさんが来てから、殿下が率先して前線に立つことが無くなったんですよ。アキラさんを守るために、まず我々に指示を出す。……我々にとっては、それはなにより待ち望んでいたものです。何より、我々も少しは使えるのだということを、殿下にわかっていただけるでしょう?」
俺、クリスと一緒にヴェルに乗ってることが多いから。だから、クリスが前に飛び出していくことは少なくて。
足手まといだよな…って感じることも多々あった。お荷物だよなぁ、って。だから、隊員さんがそんなふうに思ってたとか、気づくこともなかった。
でも、ザイルさんが言ったことで、これだけは否定する。
「クリスはさ」
「はい?」
「隊員のみんなが弱いから守らなきゃとか、そんな理由で前に出てたわけじゃないよ。だってさ、みんな、クリスが認めたからこの隊にいるんだよね?自分が認めた人を弱いって判断はしない。多分、大事な仲間だから、守っちゃうんだよ。クリス、優しいから」
「――――っ」
「クリス、みんなのことちゃんと頼ってるよ。でも、俺がいることでそれが正しくみんなに伝わってるなら、俺がいる意味もあったんだな…って思える」
「アキラさん……」
「それにさ、もうなんというか、長い付き合い?だからなのか、クリスさ、ザイルさんとオットーさんには全く遠慮しないよね。前にも言ったけど、堂々とサボるのも、仕事任せるのも、甘えてるんだよ。二人に。『こいつらなら大丈夫』ってさ。本心から信頼できて、頼りになって、甘えられるから、二人には俺のこと、ちゃんと全部話したわけだし」
もしかしたら、俺の解釈の方が間違ってるかもしれないけど、間近で見てるとそうとしか思えない。だから、多分、間違ってない。
ザイルさんは言葉に詰まった様子で、口元が少し動いては震えて、目を伏せる。…少し頬が赤く見えるのは、泣くのをこらえているせいかな。
「だから俺も、二人がいてくれたらすごく安心できる」
「アキラさん」
「だから、これからもよろしくお願いします」
「――――はい、私こそ、よろしくお願いします」
涙声と、笑顔で。
ザイルさんは涙を拭うとまた笑ってから、「急ぎましょうか」と、護衛の顔に戻った。
控室の入り口でリアさんが待っていて、マシロを預かってもらう。
リアさんはそのまま礼拝堂の方に向かっていった。
ザイルさんは扉の前で護衛に立つ。
扉を開けたら、メリダさんとソリアさんが笑顔で出迎えてくれた。
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