魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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俺が魔法師である意味

26 やらなきゃならないこと

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 根が深い問題だってことを、俺は理解していたつもりだった。
 あの男が長になる前なら、きっと、もう少し状況はよかったのかもしれないけれど、こうやって市民さんたちの間にまで、「魔水晶は隠さなきゃならないもの」ってことが根付いている。多分、子を奪われた人から人へ伝わっていったこと。
 ここに至るまでどれだけ悲しいこととか辛い事とか、そういうことがたくさんあったんだと…わかっていた、つもりだったけど。
 …もしかしたら、全然わかっていなかったかもしれない。



 クレトの家族はもう大丈夫……って家を出たら、何組もの親子連れに取り囲まれた。
 オットーさんとザイルさんが抑えてくれているけれど、どの親も必死な顔をしていて、腕の中に抱えてる子供はどの子も幼く見えた。

「私の子は…大丈夫でしょうか…!!」

 その言葉で何を求めているのかすぐにわかった。
 ざっくりと感知をしてみるけれど、どの子も暴走しそうなほど魔力を溜めこんでいない。ポケットや手の中に魔水晶がある子や、首からかけている子もいるらしかった。

「――――大丈夫。魔力は落ち着いています。だから、魔水晶は子供から離さないでください。そしたら昨日のようなことは――――」

 起きないから安心してほしい。
 魔水晶を取り上げるようなことをしないでほしい。



 そう言いたかったのに、言えなかった。



 髪を振り乱して、俺に向かってきた一人の女性。
 その手には鈍く銀色に光るナイフが握られていて。
 …当然、それが俺に届くことはなかったけど、なんで狙われたんだろう、とか。この女性に恨まれるようなことを、俺は何かしたんだろうか、とか。
 クリスに守られて腕の中に抱き込まれ、ナイフを握りしめて向かってきた女性はギルマスとオットーさんに抑え込まれていて。
 それでも、俺を睨む瞳には、憎悪とか、悲しみとか、そんなものがこめられていた。

「なんで……!!!」

 振り絞られた悲痛な感情を乗せた声。

「どうして私のときには…私の子供のときには、助けてくれなかったの……!!!」
「っ」

 この人は、子供を亡くしたんだ。
 国に取られないように、魔水晶を持たせずに、魔力暴走を起こして――――

「あの子も、夫も、血塗れになっていたのに……っ!!」
「それはいつの話だ」

 オットーさんの低く冷たい声。

「去年の春よ…私が忘れるはずないもの…!!」
「アキラ様がいらっしゃったのはお前の家族が亡くなった後だ。アキラ様は関係ない」
「そんなことないわ…!!だって、魔法師なのでしょう!?国の魔法師なのでしょう!?私の子供は助けようとした父親を切り裂いて、全身から血を噴き出して死んだのよ…!!どうして?ねえ、どうして?どうして私の子供は助けてくれなかったのに、その子供のことを助けるの?魔法師は国に攫われるのに、どうしてその子は連れて行かないの…!!!」

 ぐらりと眩暈がした。
 子供を助けようとした父親と、暴走した俺を助けてくれていたクリスが重なってしまう。
 クリスのことも俺が傷つけた。なのにクリスは笑う。気にするなって言う。
 それだけでも苦しかったのに、この人は血塗れになっていく自分の家族をただ見ていることしかできなかった。
 それはどんなに辛く、悲しかっただろう。

「………めん、なさい」

 俺にはどうすることもできなかった。それはわかってる。
 …わかってるけど、苦しい。
 俺がクレトを助けることができたのは、の俺だから。偶々見つけることができて、助ける手段を持っていたから。

「どうして……っ、どうして私の子だけが……っ」
「犠牲になったのはお前の子だけではない」

 俺を抱き込むクリスの腕に力が込められた。

「幼子を、家族を、同じように亡くした者は他にもいる。お前たちと同じ境遇の者たちを救えなかったのは私たち王族の怠慢だ」

 クリスの声が響いてる。
 ざわめきも何も聞こえない。

「知ることもできなかった。気づくこともできなかった。見ているようで見ていなかった事実に気づかせてくれたのは他でもないここにいるアキだ」

 クリスの手が俺の背中を軽く叩く。どうしようもないやるせなさに襲われていたのに、心の中が凪いでいく。

「責められるべきはアキじゃなく王族だ。城に勤めている者全てだ。アキには何一つ落ち度はない。その知識にも魔力にも、感謝以外の言葉はない」

 …駄目なとこ、たくさんあると思うけど。 でもクリスがそう言ってくれるなら、俺は全力でやるだけだから。

「…全ての命は尊いものだ。それは魔水晶を握りしめて生まれてくる赤子にも言えることだ。今まで亡くした命は戻らないが、この先を見ていてほしい。…魔水晶を持った子が軍属にさせられることはもうない。国のために犠牲になることもない。王族や貴族が信じられずとも、幼子の命を救ったアキのことは信じてくれ」

 クリスの言葉はそこで終わった。
 シン…となった中で、俺はクリスに縦抱きに抱えられた。
 そして改めて周りを見る。
 見守っていた人たちは、神妙な顔をしていたり、子供を抱きしめて喜んでいたり、…泣いたりしていた。
 俺を襲った女性を神殿に連れて行くようクリスが指示を出す。本来なら投獄されるべきなんだろう。でもそれを俺は望まない。クリスもわかってくれたと思う。
 溜息一つついて了承したオットーさんに連れて行かれるとき、女性と視線があった。
 毒気を抜かれたような、さっきまで感じていた憎悪が抜けたような、そんな視線だった。
 その女性は目を伏せ、俺から視線を外した。謝罪とは違うけれど、それで十分だと思った。

「クリス」
「…ん?」

 小さく。
 クリスの首にしがみついて、小さく小さく言葉にする。

「どうすることが一番いい?」
「……アキ」
「どうしたら、俺がやりたいこと、できる?」
「……それは」

 クリスが言い淀むこと。
 わかるよ。
 俺も、ずっと拒否してきたし、そうなることを考えもしなかった。
 でも、もうそんなこと言ってる場合じゃない。

「……俺、魔法師長になる」

 もう、逃げないよ。
 クリスは返事のかわりに、俺を抱く腕に力を込めた。










*****
言葉は難しいです。
書いたり消したり繰り返し。
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