129 / 216
俺が魔法師である意味
27 みんながいる
しおりを挟む今まで逃げてきた魔法師長という役職。自分からそれになる…と断言した俺は、クリスに抱かれたままお城に戻った。クリスが離してくれなかったから。
「少し休むか?」
「ん…、や、大丈夫」
クリスが心配してくれてるのはわかるけど、多分やることとか考えなきゃならないことがたくさんあるはず。
今は稼働してない魔法師団。その現状を俺は何一つ知らない。
だからといって、どう運営していけばいいかとか、何をしなきゃならないのかとか、実際俺はなんにもわからないんだ。
俺は魔法って力はすごい力だと思ってる。だけど、それのせいで差別が生まれるのは望まないし、悲しむ人がいちゃならない。
俺の理想を押し付けるために、ちゃんと考えなきゃだめだ。
クリスにしがみつきながらそんな決意をしていたら、クリスから溜息が聞こえてきた。
「無理しなくていいんだ」
「……してない、し」
まだ何もしてないのに。
なんでそんな変なこと言うの…って首を傾げたとき、自室についていた。
「あき!ういす!」
マシロはメリダさんと居間の方にいて、絵本を読んでいたらしい。
「お帰りなさいませ」
メリダさんは落ち着いた仕草で頭を下げたけれど、クリスに抱かれてる俺を見て顔をしかめた。
「アキラさん…どうかされたんですか?」
「え、や」
襲われた…なんて言ったら余計な心配かけそう。
答えようがなくて「なんでもないです」って笑って見せたら、メリダさんはどこか困ったように頷いた。
お昼の時間まではまだ少しある。
クリスにおろしてもらったら、マシロが張り付いてくる。
「マシロ?」
「ぁき、め」
「ええ?」
「ぁき、ぉやすぃ、すりゅ」
ズボンから手を離して俺の手を握り直したマシロは、泣きそうな目で俺を見上げて寝室に方に引っ張っていく。
「まってマシロ、俺やることが」
「め!なの!」
うんうんってうなずいたメリダさんは、あっさりと寝室のドアを開けた。
ぐいぐい引っ張るマシロ。何も言わずについてくるクリス。メリダさんは部屋から出ていった。
「や、だから、待って、マシロ」
「めぇ、なの!あき、ぉやすぃしゅるの!」
マシロのまだ弱い手の力ならすぐに振りほどけるけど、そんなことしたくない。
なんとか足で逆らっていたのに、突然クリスが俺を抱き上げた。
「え、ちょっ」
「マシロのほうがよくわかってるようだ」
「なにが…っ」
俺がクリスに抱き上げられて強制的にベッドに運ばれてる間に、マシロはベッドに駆け寄り、よじ登って靴を脱いでいた。よいしょ、よいしょ、と、毛布をどけて眠る場所を準備してる。
「クリスっ」
ベッドに降ろされるとすぐに上着を取られた。ブーツも脱がされて、ベルトも抜かれる。シャツはボタンをいくつか外された。
「眠れ」
「や、だから」
抵抗虚しくベッドに沈められた。
枕に頭がついた瞬間、マシロが俺の腕を抱き込んで添い寝のように横に寝転んだ。
「ましろ、っしょ。あき、ぉやすぃ」
いつの間にかマシロのふわふわ尻尾が、俺の体に巻き付いてる。ふわふわでもふもふなのは嬉しいし気持ちいいけど。
「っ、なんで」
マシロがどけた毛布を俺にかけて、クリスが額にキスをした。
「今のアキには休息が必要だ」
「疲れてないっ」
「いや、疲弊してる。…だから、マシロがこんなに泣きそうな顔をしてるんだろ?」
確かにマシロは今にも泣きそうな顔をしてるけど。
「でも」
やると決めた。
だから、やることはたくさんで。
考えなきゃならないことが、たくさんで。
休んでる場合じゃない。少しでも早く、どうにかしないと。
「あき、ぃたいの」
「え?」
「ここ、ぃたいの」
マシロが自分の胸を押さえて涙をこぼす。
「マシロ…」
「マシロはお前と繋がってるから。……あんなことが起きたんだ。お前の心は疲弊してる。それをマシロが感じ取っているんだ」
必死に腕にしがみついて、尻尾まで使って俺を留めようとしてるマシロ。
心配そうに俺を見るきれいな碧色の瞳。
「焦らなくていい。慌てなくていい。不安に思うこともない。お前が一人でやらなきゃならないことじゃないんだ」
「あ…」
「お前の言葉を信じて信頼を寄せる者は大勢いる。お前を助けたい者も大勢いる。なによりこの俺が、お前の望むものを形にしてやれる。俺がお前の道を切り開いてやる」
「ましろも!ましろも、あき、だいしゅき!」
「…クリス、マシロ」
体から力が抜ける。
自分で決めたから、自分がどうにかしなきゃと思ってた。
俺は魔法師だから、魔法師として自分が全部背負わないとだめだ、って。
そんなこと無理なことはわかっていたのに、そう、思ってた。
「ごめ……なさぃ…っ」
頼っていい。クリスはしっかり受け止めてくれる。
甘えていい。マシロは小さな手で俺を抱きとめてくれる。
「……あり、がと…っ」
流れた涙はクリスの唇に拭われた。
熱くて心地のいい唇は、そのまま俺のそれに重なって、薄く開いた唇の隙間から舌を差し入れられる。
舌を重ねれば甘くて心地のいいクリスの魔力がじんわりと体にしみていく。流し込まれた唾液を飲み込めば、お腹の奥から熱くなっていく。
そうやってキスをして唇が離れたとき、俺の目尻から溜まってた涙がまた流れ落ちた。
「あき、なぃちゃ」
小さな温かい手が、涙のところをぺたぺた触る。
「うう…っ、うぃす、め!わりゅいこ!」
「なぜ」
「あき、なかしちゃ!」
「泣かせてない」
「ましろも、ちぅする!」
「えっ」
マシロが俺の頬にちゅって口を寄せてきた。それはとても優しいキスで、マシロの気持ちが伝わってくる。
「あき、らいじょぶ?」
「うん。大丈夫。マシロのお陰で元気になったよ」
「きゃあっ」
ぎゅうって抱きしめたら、いつも通りの声があがった。
クリスは息をついて俺の頭を何度も撫でる。
「ねんね、ね」
「ん」
腕の中のマシロの体温と頭を撫でるクリスの優しい手に、落ちてくる瞼に逆らわず、俺は眠りに落ちた。
*****
アキは忘れがち。
だから、クリスが思い出させるのです。
137
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる